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【ショートショート】彼の珍しい願い

この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。

ある日のこと、公園のベンチに座っていた俺、タカシは、突然目の前に現れた妖精に度肝を抜かれた。

仕事に疲れ、日々の単調さにうんざりしていた俺は、何か面白いことが起きないかとぼんやり考えていた。

「おめでとうございます!あなたは幸運にも、どんな願いでも一つだけ叶えられる権利を手に入れました!」

一瞬固まったが、すぐに口元に笑みが広がる。

「どんな願いでも?」と確認してみる。

「はい、どんな願いでもです!」

妖精は自信満々に答える。

俺はしばらく考え込んだ後、いたずら心で言った。

「じゃあ、世界中のすべての信号機を青にしてくれ!」

妖精は一瞬驚いたものの、すぐにその願いを叶えた。

瞬間、全ての信号機が青に変わり、街中が大混乱に陥った。

車が無秩序に進み、交差点で激突する音が響き渡り、歩行者が右往左往している。

警察は必死に交通整理を試みるも、状況はますます悪化するばかりだ。

俺はその様子を見て、大爆笑しながらベンチに座っていた。

しかし、妖精は眉をひそめて俺に言った。

「あなたの願いは叶いましたが、これは本当にあなたの望んだ結果なのでしょうか?」

少し考え込んだ後、しぶしぶと「確かに、もう少し考えるべきだったかもしれないな」と反省した。

妖精はにこりと笑って「では、もう一度願いを叶えさせてください」と提案する。

再び考え、今度は慎重に言った。

「それなら、世界中の信号機をすべて赤にしてくれ」

妖精はあきれていたが、再び願いを叶えた。

今度は車が完全にストップし、歩行者も立ち止まり、街全体が静寂に包まれた。

店のシャッターが閉まり、警察のサイレンも聞こえない。

俺は再び大笑いしながら「これでみんなが少しは静かになるだろう」と満足げに言った。

しかし、その静寂がすぐに不気味に感じられ、俺は不安に包まれた。

ふと、目の前に見慣れない人物が立っていることに気づいた。

その人物はサンタクロースの格好をしていたが、何かが違う。

サンタクロースは重そうな袋を肩にかけ、にやりと笑った。

「君の願いのおかげで、街中の安全装置が全て止まってしまった。おかげで仕事が増えたよ」

サンタクロースはその袋から、たくさんの盗品を取り出して見せた。

「君の願いが叶った結果、世界は大混乱に陥り、強盗たちは大いに喜んでいるんだ。ありがとう」

サンタクロースは一礼し、静かにその場を去って行った。

俺はその光景を見つめながら、ただ呆然としていた。

俺の願いが引き起こした混乱とその結果に、初めて真剣に向き合った瞬間だった。

そして俺は、ぽつりと呟いた。

「願い事なんて、ろくなことにならないもんだな」

妖精は軽く肩をすくめ「まあ、世の中そんなもんさ」とウィンクして消えていった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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