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サル日記 その6・成功者って

驚くべきニュースが昨夜、飛び込んできた。

皆さまもすでにご存知だろう、
「銀座・ロレックス強盗事件」である。

従業員さんや通行人の方はさぞかし怖かっただろうし、大きなケガが無くてなによりだ。

…にしても、驚いたのは、映像で垣間見る犯行模様。

呆れるほど粗雑で、ザコ感まる出しの光景に、
「破れかぶれ」
「手あたり次第」
という言葉が浮かび、むしろ怖さが増幅した。

明けて今日の続報に、さらに愕然とさせられた。
実行犯は全員、19歳以下の未成年…

暗澹たる気持ちになった。


化粧品会社のマーケで、富裕層向け高価格帯ブランドの担当をしたときのことだ。

間もなくGWに突入しようというその日、
チームで「顧客のペルソナを再定義しよう」みたいな打ち合わせをしていたのだが、とにかくまとまらない。
もう煮詰まって煮詰まって、まとまらない。

だいたいさー私たちって庶民じゃん。

人事異動でたまたまこのブランドの担当になったけど、以前とお給料は一緒じゃん。
「あらぁ、切れちゃったから、入れといて」って感じで、お醤油買うみたいに一万円のクレンジングとか十万円のクリーム買うような(社割じゃなくてさ)富裕層の気持ち、わかんないよね!

そこで我々は、『ラグジュアリー体験』をGWの宿題にすることにした。

おのおの、きっと休みの間にやるだろう「ちょっと贅沢」とか「ちょっと奮発」とかのイベントを、「ターゲット理解のための個人ワーク」と大義名分をつけて思い切り楽しんで、休み明けはその思い出話を持ち寄ろう、そしてまたリフレッシュした頭で続きをやろう!
ナイスぅー

そしてGW明け、私たちは「宿題報告」を始めた。
だいたいが、
『ハイクラスホテルでのステイ』とか
『格式ある庭園での茶道体験』とか
『いつも三等席だけど今回は一等席で歌舞伎を観劇』とか、

富裕層というより「庶民のプチ贅沢」をシェアし合った。

そんな中、チームの最年少、Tくんの発言が、私たちの度肝を抜いた。

「ぼく、銀座の☆☆☆に行ってみたんです」

一同
「えっっっっっ?」

名前は伏せるが、☆☆☆は、「超」のつく世界的なラグジュアリー宝飾ブランドだ。
同じく銀座通りに旗艦店を構えるティファニーとは違い、カジュアルな価格帯のシルバーアイテムなどは無い。

「な、な、なんで?」
「だって、『ラグジュアリーの象徴」だと思ったからです」

Tくんは、数週間前に、営業部門から異動してきた。
もしドラマなら、垢ぬける前の山田孝之が配役されそうな、ちょっと濃いめのイケメンである。(くれぐれも、「垢ぬける前」の)

初日はガチガチにスーツを着ていたが、ドレスダウンした先輩たちから「もっとカジュアルで大丈夫だよ~」と言われると、翌日から、チェックのシャツに学生時代から使っていそうなリュックを前に抱えてやってくるようになった。

ただ、清潔感があり、言葉が丁寧で、人の目をきちんと見て話すたたずまいは、育ちの良さを思わせた。
これがもしドラマなら、山田孝之演じるTくんは、実は宮家の血を引く御曹司、実家は大豪邸…かもしれん。

そんなTくんが、銀座の☆☆☆に、乗り込んでいった。
これはドラマじゃない、

そ、そ、それで!どうしたの!!!

堅牢なドアに閉ざされた店。
怪訝な顔をしつつ、ドアマンが扉を開けた。
するとすぐさま、警戒するような様子で店員が飛んできた。店内を見たいというTくんに、店員はこう言ったという

「お客さま、最近、何かで成功されたんですか?」


…えっぐ!

一等宝くじでも当たったか、ビットコインかFXで大儲けしたか、
つまり突然、身の丈にそぐわない大金を手にしましたか?
そういうことを聞いてるの?
Tくんはなあ!まだ垢ぬけてないけど!
宮家の血を引く御曹司なんだぞ!(嘘です)

その後、私たちは大爆笑しながら
『お前みたいな庶民が何しに来たんだよをものすごく上品にいう』大喜利をしたが、やはりこれ以上のウルトラCを出すことはできなかった。

それにしても、「成功者」ってなんだ?

あれから10年近く経つが、なんだかよくわからない。
ネトフリの韓国ドラマでは、しょっちゅう見てる気がするけど。

私は庶民だ。
富裕層じゃない。
これまで☆☆☆に足を踏み入れたことはないし、この先もきっと、死ぬまで無いと思う。
そして半世紀生きて、その節目で「成功」や「勝ち」を実感したこともない。

もはや立派な負け組なのだが、
自分なりに、楽しく生きていこうとしている。

でも、そんな私に、まったく別のところから声がする。
「おばさんも勝ち組なんだよ」

21世紀になってから生まれた、
顔も知らない同士の子供が集められ、
顔も知らないヤツから指図されて
強盗をする。

悲しくて、やるせない

この街の、この国の「成功者」は、今どこにいる?





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