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#11『広辞苑』

 電子辞書が壊れた。どれだけコンセントに繫いでも、充電されなくなってしまった。高1の時、つまり6年前に買ったものだから当然と言えば当然である。
 卒業論文を執筆するためには広辞苑が必要だ。以前、別の辞書に記載されていた内容を引用したところ、こういうのは広辞苑に限る、との指摘を講師から受けてしまった。素人の私には双方の辞書に一体どのような差があるのかはわからないが、こういうのは従うのに限る。

 いざ図書館へ。小学生の時にはだだっ広く感じていた地元の図書館も、大人になってから訪れると、何てことのない小さな図書館である。大学や高校の巨大な図書館に慣れてしまうと、もう地元の小さな分館には戻れない。正直、中学校の図書室の方が広かったのではないか、とさえ感じてしまう。
 事前にホームページで蔵書の検索をしたところ、本館に加えて市内の全ての分館に広辞苑は置かれているらしい。流石は日本を代表する国語辞典である。しかし、いくら探しても見当たらない。百科事典らしきものは「ポプラディア」しかなく、広辞苑はどこにもない。そもそも国語辞典のコーナーが設けられていない。もしや全ての辞書が借りられてしまったのでは。いや、そんなはずはない。ごっそり抜けている棚すらないのだから。
 意を決して司書の方に尋ねてみた。「コウジエン…?あー、広辞苑。うちにあったかしら……。」という衝撃の言葉が返ってきたが、その隣にいた先輩と思しき女性が無事にカウンター内の本棚から探し出してくれた。初めて目にした広辞苑は衝撃の分厚さであった。きっとあれを2冊並べれば車止めになる。
 広辞苑は凄い。欲しかった文がちゃんと載っている。これでようやく、卒論の裏付けができる。

 広辞苑をカウンターに返却した。
 「ありがとうございました。」
 「お役に立てましたか?」
 「はい。しっかり調べられました。」
 「貸し出しも大丈夫ですが、大丈夫ですか。」
 「はい、大丈夫です。」
 「大丈夫ですか。」
 僅か5秒の間に4回も「大丈夫」という単語が交わされた。返す前に「大丈夫」の意味を調べておけば良かった。

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