エッセイ#45『ほんとにあった夢十夜⑥』

 地元の大通りで何かが催されているような気がしたので、散歩ながら行ってみると、何やら急に一人称視点に切り替わった。画面の右下には残り時間と共に、毎秒200円ずつ増えていく賞金が表示されていた。
 どうやら「逃走中」が始まったようだ。
 私はひたすらに逃げた。賞金欲しさと言うよりは、せっかく参加してしまったのだから、どうせなら逃げ切って見せようという「勿体ない精神」のためである。
 しかしながら、どこまでが行動可能範囲かはわからない。それにハンターが追って来る気配がないし、他の逃走者や街の住人の姿も見られない。もしかすると参加者は私1人で、ハンターはステルス機能を使用しているのかもしれない。仮にそれが真実ならば、早く逃げ回らなければ右下の賞金は0になってしまう。
 それにしても静かだ。怖いくらいに森閑としている。まるで漫画『ドラえもん』で、のび太が「どくさいスイッチ」を使用した後の世界のようになっていた。車も全く走っていないし、電車の音も遮断機が降りる音も聞こえない。私は怖くなって、本来ならば存在するはずのない「ゴール」を目指した。

 とにかく走った。大通りから裏路地に入り、そこを抜けた先には季節外れの桜が舞う公園があった。地面は一面の桜色である。もちろんそこに人は誰もいなかったが、きっとここがゴールなのだろうと思い、桜の花びらの上に大の字に寝そべった。その時初めて気が付いた。なんと、地面に広がる桜色の物体は、桜の花弁ではなく「さくらでんぶ」だったのだ。
 私は気味が悪くなり、すぐさま飛び起きた。その時、何人もの人々が公園に仮設されたステージの周辺に集まって来た。何かしらの映画に関するトークイベントであった。
 そのイベント司会進行を務めるのは、フジテレビの軽部真一アナウンサーである。多くの取材陣に囲まれながら、ステージへと登壇したのはハンバーグ師匠である。しかし様子がおかしい。どうやら彼は本物のハンバーグ師匠ではなく、ハンバーグ師匠の衣装を身に纏っただけの井戸田潤、という設定らしい。そのため挙動不審であった。
 細部までは覚えていないが、映画に関する何かしか賞に選ばれる作品を、軽部アナは映画通の師匠(中身は井戸田)に尋ねていた。すると、「そうですねぇ、『マッドマックス』ですかね~。」と師匠は答え、取材陣からは「お~!」と称賛の声が漏れた。師匠の批評は絶対的なものらしい。

 ここで目が覚めた。ふと、点けっぱなしになっていたテレビを観ると、「めざましテレビ」で『マッドマックス』が取り上げられていた。


見た日:中学3年生の夏

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