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会社売却の際の担当者選びの3つのポイント ~後悔しないための準備~

M&Aは一生で一度の出来事なので、必ず複数の担当者と会うべきだと考えております。大事なことは担当者との相性。

私が売却オーナーであれば、担当者を見るポイントとしては以下3点をあげます。

①会社を愛して、良さをきちんと理解してくれるかどうか 
(会社の「強みの訴求」にむけて、ヒト手間・フタ手間を惜しまない担当か)

②耳の痛い事をきちんと指摘してくれる担当者か
(案件欲しさに、調子のよいことばかりを言う人ではないか)

③自社の業界の事に詳しいか
(株価の相場・事例・買い手情報・業界構造・業界慣習を把握しているか)


その理由を1つずつ記載していきます。

①については言わずもがなですが、自分の代理人として粘り強く価値を訴求してくれる人が大前提となります。

M&Aは、作業的に進めればどこまでも「作業」で進めることもできます。

あえて、word1枚くらいの資料に大事なポイントだけ、整理して記載して、あとは買い手の判断に投げる、というシンプルな対応を掲げている企業も最近はでてきました。(その分手数料を安いのでメリットもあります)

一方、同業企業でなければ、word一枚の資料であれば中々価値は伝わりません。創業経緯・沿革・企業概要・業界構造・競合情報・自社の強み・財務情報・人事情報・資産の情報、など、きちんと会社を理解するための基礎情報だけでも記載すべき範囲は多岐にわたります。

一般に株価を上げるポイントとしては、「入札形式」にして、魅力的なオファーを複数受け取るというものです。

入札を盛り上げるためには、「同業からのオファー」だけではなく、業界を知らない異業種・近隣業種の候補先からのオファーも魅力的である必要があります。(「業界実態を知る同業者」からすると高値が出ないケースも多いという裏事情もあります。)

そのためには、誰が見ても、わかりやすく魅力的な自社の価値訴求資料が求められます。

これは一般に「企業概要書」といわれます。少ないケースですと10枚程度~多いケースですと200枚を超えるようなことも。

投資額が数百~数千億円になる案件であったり、市場が大きく変わっていくことが予想されるような案件の場合、その会社の強み・魅力はもちろんとして、外部の環境情報や将来計画を緻密に記載することもあるためです。

またじっくりと資料に落とし込む場合、3か月程度かけて何度もインタビューをして、企業数値を分析し、時に一緒に計画をつくっていくこともあります。

何がいいたいのかというと、ある意味では無限に時間がかけられるということ。

もちろんビジネスですので、どこかで折り合いをつけて、形にしていくのですが、私がオーナーであれば、余すことなく自社の魅力・強み・将来性を訴求したいです。してほしいです。

しゃべればわかる、という事は残念ながら通用せず、初期段階においては資料にてすべて判断されますので、資料に全ての魅力を表現しないといけません。

担当者の立場であれば、上記オーナーの心情は理解しつつも、「会社が用意した一般的な「ひな形」に埋めてOKとしたい」、という心情も持ちます。繰り返しですが、ビジネスですので、どこかで折り合いをつけないといけないのです。

こうした点においては、コンサルティング会社が行うM&Aや売り手専門のエージェントの方が丁寧にやってくれるかもしれません。(大手仲介ですと、どうしても「高速回転」を求められる企業文化・風土だったりしますので)

話がそれましたが、前提として、「標準的なひな形への入力作業」にとどまらず、手間を惜しんで、丁寧にオーナーの想い・会社の強みを組んで資料に落とし込んでくれそうな相手を選ぶべきだと私は思います。

上場しているような大手支援会社では、最低限のクオリティコントロールはされていますが、担当者によって、レベル差はありますので、この点まで伴走してくれそうな、愛のある担当者かどうかを見極めることが重要ではないでしょうか。

次の②耳の痛いことを指摘してくれる人かどうか、についてです。

前提についてお話をすると、すでにM&A市場はレッドオーシャン化しているとされています。とある経営者の方からは「1か月にミカン箱2つ分のDMが来る」とおっしゃっていたほど。

私が支援している社長も1時間の面談中に、5回ほど営業電話がかかってきておりました。そのような中なので、担当者は、仲介者でもFAでも、「喉から手がでる」ほど案件が欲しいのです。

ご参考までに報酬体系を記載すると、一般的には、仲介会社であれば最低報酬は20~25百万円とされておりますので、「両手」で1件お手伝いすれば、40~50百万円は会社にフィーが入ることになります。

そこからインセンティブを計算すると、大体15~25%程度(新興はインセンティブ料率40~50%で人材募集することも。)で計算されていることが多いので、1社のお手伝いで、インセンティブが1000万円を超えることもざらです。

となると、それはもう命がけで案件をとりにいきます。逆に、年で1件も成約できなければ、クビになることももちろんあり得る業界ですので、寝ても覚めても案件のことを考えているのです。

そんな状況ですので、やっとオーナー社長に出会えた場合、話を盛る担当者もいます。「〇億で売れますよ!」といって、気持ちを盛り上げる担当者もいます。

一方、信頼できる優秀な担当者は、〇億で売れる、という現時点では根拠のない話はしません。

・なぜ売りたいのか(本当に売るべきなのか)
・この会社の場合、仮に売却する場合どんな問題点がありうるのか
・そもそも現状では〇〇な問題点があり、価値がつかない
・売った後どんな人生を歩みたいのか、今売ってそれを実現できるのか
・会社をもっと伸ばす方策もあるのではないか、
など、オーナーが後悔しないための、情報提供・相談役に集中していくことが多いような気がします。

また株価においても、複数の企業価値評価方法をもとに、適正額を根拠をもとに評価してくれるはず。(一方、株価は最終的にお相手が決めることなので、相場通りに進むかは別ものですが。。。)

話がだいぶひろがってしまいましたが、「案件くれくれマン」「案件高く売れるぞマン」ではなく、会社(とオーナー)の中長期的な戦略を見据えて助言してくれるような担当者を選ぶべきと私は思います。

M&Aのお手伝いをした方であれば共感いただけると思いますが、「フラットな助言者」に至る境地はとても難しいです。

しかし、私が見るに(感覚的ですが)、100人中、2~3人くらいはいます。もちろんそうした担当者は、自ら売り込むことなく、顧客が常に行列をなしています。

最後に、「③自社の業界の事に詳しいか」です。

ここまでお読みいただいた方はなんとなくイメージいただいているかもしれませんが、「業種に関する専門性」は、アドバイザーを決める「十分条件」にはなりません。

ですが、もちろん業界の事について詳しい方に任せた方がよいに決まっています。理由は、「最適な相手を探すことができる」「価格交渉が優位に働くケースが多い」ためです。

当然、多くのオーナーにとって、会社の売却は初めてになると思います。

ですので、提携候補先(=買い手企業)は、アドバイザーが探します。仲介の場合は担当者が直接動きますし、FAの場合は、担当FAが手を組む、買い手サイドのFAが探します。

買い手候補先を探す作業は、非常に繊細です。もちろん「隣町の同業」には話をもっていって欲しくありません。会社を売るかどうかも最終的には確定したわけではないのに、ライバルに売却可能性を知られるなんでもっての他です。

そもそも同業者に話を持っていくこと自体がリスクです。せめて近隣業種や、遠方の異業種から話をもっていって欲しいと思うのが、通常の感覚ではないでしょうか。

一方、売却可能性がある以上は、きちんとした株価評価をしてくれる相手からのオファーも受け取りたいし、従業員が安心して働けるような相手(=勝手のわかっている同業)がよい、と思う事もあると思います。

売却プロセスは、こうした一見矛盾した点を1つ1つ紐解きながら、対話の中で納得の上、進んでいきます。その対話を重ねる際に、大事なことは「業界の土地勘・構造」「業界の勢力図」がわかっている人に相談に乗ってもらいたいという事かと思います。

たとえば、
・建材の施工店であれば、知り合いだから近隣の同業の施工店はNG。
・リフォーム業者(なんでも屋)も自社の特長が消えてしまうからNG。
・建材メーカーも複数付き合いたいから買い手としてはNG。
・ハウスメーカーも地場の工務店との取引を乱すからNG。
・エクステリア業者(家の外観施工)は早々に親和性がありOK!
という意向をお持ちのオーナーがいらっしゃったとします。

こうした細かいご意向は尊重すべきですが、M&Aにおいては、こうした先入観で候補先を限定しすぎることはマイナスに働くことがあります。

業界に特化して詳しい担当者であれば、たとえば、「施工の丁寧さに特化したリフォーム会社がある」、「建材商社ならば、各メーカーの顔をつぶさないからよいのではないか?」などと、議論・討議ができるのです。

こうした程度の議論であれば、業界の専門性は不要かもしれませんが、実際の議論では、「M&Aの評判」なども加わってきます。

「M&Aの経験有無」「M&Aを実施した後の従業員処遇や業界での評判」「M&Aの値入傾向」「M&Aに限らない当エリアでの成長戦略」「組織風土」など、業界主要プレイヤーの情報がわかっていると安心できます。

もちろん、交渉が進めば上記は、じんわりとわかっていますが、最初から知識としてしっていて、スカッと応えてくれるアドバイザーですと頼りになります。(そもそもそういうプロとしての知見があるから、お金を払うわけです)

長くなってしまいましたが、上記①~③のポイントを理解しているアドバイザーを選ぶと、後悔の無いM&Aができるのではないかと思います。

最後に、なりますが、支援してくれる会社が、プレイヤーへのサポート体制があるかは絶対に見た方がよいと思います。

大手仲介企業であれば、法務や財務で専門人材が、極端(売り手・買い手)にどちらかに偏った対応がないかをチェックしているので最低限のクオリティは担保されておりますので、安心ではないでしょうか。

また、マッチングを最適にして最高のお相手を探すとなると、どれくらいの買い手企業とのコンタクトがあるかもとても重要です。その点、上場して5年以上たつような大手仲介会社3社は、幅広く網羅的に買い手企業をカバーしていると思います。

その他、外資系の投資銀行出身、会計士出身であったり、弁護士出身であったり、専門性をもつエージェントかつ豊富な売却支援実績を持つ専門家もあります。こうした仲介会社以外の専門家も頼りになるでしょう。


あれこれ書いてしまいましたが、
・担当者選びが重要であること
・担当者選びには3つのポイントがあること
(手間をおしまない・厳しいことを言ってくれる・業界の専門性がある)
・担当者が在籍する会社の安心感もチェック見る事
(マッチング先が十分あるか・バックアップ体制があるか・専門性など)

実務上は、担当者との相性を重視するため、複数の会社・担当から営業をうけて、一番フィット感がある人と進める、が大事かと思います。


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