書籍#07.『名画で読み解くブルボン王朝12の物語』中野京子(著)〜なかなか理解しがたいフランス宮廷とフランス史〜
『ハプスブルク家12の物語』に引き続き、今回は名画で読み解くシリーズの第2弾『ブルボン王朝12の物語』をご紹介したいと思います。
ハプスブルク家に負けず劣らずのおもしろさ。気づけば一気に完読してしまいました。
◆ブルボン王朝
ブルボン王朝はヴァロワ朝が断絶した後、ブルボン家のナバラ王アンリがフランス王位を継承してアンリ4世として即位した1589年~1792年、そして一時中断後、1814年~1830年まで続いたフランス王国の王朝です。
<フランス・プルビュス『アンリ4世』>(Wikipediaより)
ブルボン家はハプスブルク家と並ぶヨーロッパの名家で、スペイン・ハプスブルク家が断絶した後にスペインを支配したのもこのブルボン家でした。
歴代王の中で特に有名なのは、太陽王と呼ばれたルイ14世とフランス革命でギロチンにかけられたルイ16世でしょうか。
<リゴー『ルイ14世』>(Wikipediaより)
アンリ4世の孫であるルイ14世は、フランス文化を発展させて宮殿をパリからベルサイユへ移転しました。また、度重なる戦争で領地を拡大して国際社会におけるフランスの地位を向上し、確固たるものとしました(ただし、膨大な軍事費が国家財政の混乱を招くことになりましたが・・・)。
私が購入した書籍の帯にルイ14世の肖像画が使われていたのも、正に彼が「王のなかの王」だったということなのでしょう。
<アントワーヌ=フランソワ・カレ『ルイ16世』>(Wikipediaより)
一方のルイ16世は、引きこもりオタクのような性格をしていたそうです。長年敵対関係にあったハプスブルク家からマリー・アントワネットを妃に迎えましたが、先代からの負の遺産をそのまま受け継ぎ、さらにはアメリカの独立戦争を支援したことで財政は悪化、破綻に瀕しました。フランス革命前年の借財は現在の金額に換算すると約100兆円にも上ったそうです。
しかしそれでも派手な宮廷生活っぷりは変わらず、今まで無税だった貴族や聖職者にも課税しようとしてーー、最後は皆さんご存知の通りです。
◆おすすめの理由
本書では、このようなブルボン王朝の歴史が12の名画とともに語られています。フランス宮廷独特のしきたりと一筋縄ではいかない人間模様は西洋画鑑賞に新たな一面を与え、奥深いものにしてくれます。
また、絵画とともに当時の歴史を学ぶことができるのも、本書の醍醐味です。例えば、共和制を目指した革命直後に現れたナポレオンとその後の王政復活、また再び共和制が引かれたものの、大統領になったルイ・ナポレオンが皇帝ナポレオン三世を名乗り出すーー。という一連の流れをうかがうことができます。
しかし、このフランス史。特に王政と共和政が短期間の間にこれだけ繰り返されるというのはなかなか理解しがたいと思ってしまいますね。
◆自分好みの絵画と物語を見つけよう
<ピーテル・パウル・ルーベンス『マリー・ド・メディシスのマルセイユ上陸』>(Wikipediaより)
本書で取り上げられた名画の中でも、特に実物を見たいと思った作品は『マリー・ド・メディシスのマルセイユ上陸』です。
いいえ、正しく言うと、もう一度見たい作品です。以前ルーブル美術館に行った際に観たはずですが、昔のことであまり記憶に残っておらず、しかも展示品が多すぎて一つ一つをじっくり観ることができなかったので、できればもう一度現物を観てみたいです。
話は戻り、この『マルセイユ上陸』は『マリー・ド・メディシスの生涯』という全24点の連作絵画の中の一つです。
いやぁ、単純に美しい(マリーじゃなくて、もちろん絵がね)。
<ピーテル・パウル・ルーベンス『マリー・ド・メディシスの肖像』>(Wikipediaより)
この絵画シリーズの主人公であるマリーは、アンリ4世の再婚相手です。フィレンツェの大富豪メディチ家出身で、高額の持参金とお供を連れて華々しく輿入れしました。そのときの様子を描いたのがこの『マルセイユ上陸』なのですが、実際そのときアンリ4世は愛妾と小旅行中で、自分よりも大柄で太っているマリーを見て幻滅したと言われています。
容姿も決して良いとは言えないマリーですが、性格もそうだったようで、「私を見て!」という気持ちの強い、自分第一主義の人間だったようです。
当時のフランスは、ルネサンス以降に豊かな芸術に囲まれたフィレンツェに比べると文化度が低く、それに加えて、自分の持参金がフランスを救ったと信じていたマリーは自然と横柄な態度になっていきました。フランス語もあまり話せずに同郷の取り巻きとしか交流しなかったため、夫にも宮殿内の人間にも人気がなかったそうです。さらには、息子とも仲が悪かったという救いようのなさ。しかしここまで来ると、これはこれで彼女らしさなのかもしれないとすら思ってしまうのが、なんとも不思議です。
<ルーベンス『マリーとアンリ4世のリヨンでの対面』>(Wikipediaより)
この24点にも及ぶ大作を作らせたのも、マリー自身だそうです。しかし、このような背景を知った上で作品を観ると、絵画が華麗で煌びやかであればあるほど「本当はこういう人じゃなかったのだ」と、逆に悲しく思ってしまうのです。全くもって虚栄心というものは、人を寂しく孤独な生き物に映し出すだけなのかもしれません。
◆◆◆
本書で紹介されている12の絵画は以下の通りです。
1.ルーベンス『マリーのマルセイユ上陸』
2.ヴァン・ダイク『狩場のチャールズ一世』
3.ルーベンス『アンヌ・ドートリッシュ』
4.リゴー『ルイ十四世』
5.ベラスケス『マリア・テレサ』
6.ヴァトー『ジェルサンの看板』
7.カンタン・ド・ラ・トゥール『ポンパドゥール』
8.グルーズ『フランクリン』
9.ユベール・ロベール『廃墟となったルーヴルのグランド・ギャラリー想像図』
10.ゴヤ『カルロス四世家族像』
11.ダヴィッド『ナポレオンの戴冠式』
12.ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』
歴史的名画のおもしろい見方を教えてくれる名画で読み解くシリーズ。『ブルボン王朝12の物語』だけでなく、『ハプスブルク家12の物語』と合わせて読むとおもしろさが倍増します。
ご興味のある方は是非😊