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書籍#13.『モン族たちの葬列』宮田隆(著)~衝撃の歴史長編小説~

 きっかけはラオスにいた頃に流れてきた、たしか日本人会のメールだったように記憶しています。現地で活動するNPOの理事長の方がラオスの歴史に関する小説を出版されるということで、希望すれば現地でも同団体を通して購入できると書かれていました。

 ラオスに関する日本語の書籍は決して多くはなく、また、以前より興味があったモン族に関する物語ということで、私はすぐに購入したい旨を返信しました。

本の感想とおすすめしたい理由

 本を手渡すために当時働いていた事務所までわざわざご足労いただき、キープ(LAK)と引き換えに受け取った本の帯にはこうありました。

ラオス・モン族は
なぜ二つに引き裂かれたか?

インドシナ戦争からベトナム戦争まで。
大国のエゴがモン族を二つに引き裂いた。
モン族の悲劇を炙り出す渾身の長編。

 本書は歴史に埋もれてしまったラオス・モン族の悲しい歴史を見事に語る長編小説です。小説ではありますが、当時の様子を伝える詳細な記録、また巧妙に描かれた登場人物たちの心情はあまりにもリアルで、私はフィクションではなくルポタージュかと思い、後日、購入させていただいた団体の方に伺いました。

「本に登場する山口茂や榊修兵という人物は、実在した方ですか? 少なくとも、モデルになった方がいたとか・・・」

 その方はその辺りの事情に関しては特にご存じではないということだったのですが、要は、ここで語られている話は真実だと思わせるくらいの衝撃を与えたリアルな作品だったのです。

 本書は戦争に翻弄されたラオス・モン族と、そのモン族と運命を共にした2人の日本人に関するお話です。読みながら、全く戦争というものは「〇〇 VS △△」や「〇〇 と △△ の代理戦争」、「異なる正義の戦い」などのように簡単に説明できるようなものではなく、決して割に合わないし、不条理で残酷で悲惨なものだと、改めて深く感じました。

 つまりそれは、この小説が戦争を TV や新聞などの報道や理論で語る学術的側面から見るのではなく、人々の人生と生活と心の瞳から伝えているからに外ならず、そういったことを考えると(小説をあまり読まない私が言うのは大変恐縮ですが)小説としても非常に名作なのだと思いました。

 実は以前、この記事を書こうと思いリンクを張るためアマゾンを検索したのですが、在庫がないと表示されていました。そのため、増版または古本でも良いので購入できるようになるまでは先延ばしにすることにし、その結果本記事に至った次第です。

 今まで note でご紹介した書籍は、誰かに推薦するよりも、どちらかというと印象的だった本を残しておきたいという備忘録を主の目的としていました。ただ本書に関しては、1人でも多くの方に読んでほしいと感じました。そのため、今回は心底「おすすめ本」としてご紹介したいと思います。


モン族

 さて、そうは言っても「モン族」という民族はあまり聞き慣れないかもしれませんので、ここで簡単にご説明したいと思います。

 モン族は非常に悲しい歴史を背負って生きてきました。それが帯にもあるように、大国に翻弄され、故に、同じ民族でありながら二つに引き裂かれて戦ったという歴史です。

 アムネスティのサイトにモン族について分かりやすい説明がありましたので、一部抜粋いたします。もし本書を読まれる方がいましたが、まずはこの歴史を知っておくとより深く小説を楽しむことができるかと思います。

モン族は、東南アジアや中国の山岳地方で生活する少数民族の一つです。ラオスのモン族は、ロー氏やハー氏など5つの氏族を中心に生活を営んでいました。しかし19世紀に入るとフランスによる植民地統治政策の一環で、ロー氏系を差別、圧迫します。これがきっかけとなり民族が分断してしまいました。

第二次世界大戦後、ラオスはフランスからの独立運動が盛んになりますが、その中心がパテト・ラオ(ラオス愛国戦線)でした。パテト・ラオはさまざまな民族で構成されていましたが、モン族ではロー氏系が中心となっていました。それに対抗するためフランス軍はハー氏系のモン族を徴兵し、前線に派遣します。その結果、モン族同士が敵味方に分かれて戦うことになりました。

この独立戦争はパテト・ラオが勝利したことで一時収束します(第一次インドシナ戦争)。その後インドシナ休戦協定が締結されますが、それを無視する形でフランスを支援していた米国が進出し、パテト・ラオは米国と戦うことを余儀なくされます。ロー氏系のモン族も同様です。そして、先の戦争でフランス側についたハー氏系のモン族も同様で、今度は米国側につきました。

この戦争もパテト・ラオの勝利で終結します。その結果、米国側についたハー氏系のモン族(約30万人)はラオス国内での迫害を恐れ、国外へ逃れました。彼らはその後、近隣諸国を経由して米国などへ難民として亡命するか、もしくは国境付近の難民キャンプに収容されました。タイ・ラオス国境にある難民キャンプもこの一つです。

アムネスティ「先住民族/少数民族 - タイ・ラオス国境のモン族難民」より一部抜粋

著者について

著者:宮田 隆

医療系大学教授・病院長を経て国際医療協力NPO理事長に就任。東ティモール、カンボジア、ラオスなどの医療現場で活躍。北区内田康夫ミステリー文学賞、ヘルシー・ソサイエティー賞などを受賞。江戸時代や明治の日の当たらない庶民の生活や、アジアの混沌と覇権主義に翻弄させられた歴史小説を得意とし「ポル・ポトのいる森」では、誰も触れることのなかった闇に包まれた凄惨なカンボジアの内戦を描いた。

巻末プロフィールより

 これだけの作品が書けるのは著者が医師であり、現地の事情に精通しているという点が非常に大きいように思います。

 他にも著書を出されているようですが個人的に海外にいることもあり購入が難しいようなので、いつか日本の本屋で(できればソウルの教保文庫あたりが良いのですが)出会えたらいいなあと心に留めておこうかと思います。


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