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軽井沢で読んだ本

ここ最近、軽井沢にいます。親戚が持っている家があって、そこを借りています。31度くらい気温が上がった日もあるけど、ここ最近は雨がよく降ったおかげか(ほとんどゲリラ雷雨)、朝晩は涼しい日が続いています。

いつも軽井沢に来るときはポケットWifiをレンタルしています。軽井沢は「Wifi砂漠」と言われているらしく、Wifiが弱く…気を抜くと(?)すぐ4Gになってしまいます。

激弱Wifiで翻訳の仕事をしたり、あとはひたすら本を読んでいます。7歳の双子は、夏休みの宿題をしたり、奈良から持ってきたLEGOをしたり、絵本を読んだり、オリンピックを見たりしています。奈良の家にはテレビがないので(モニターはあって、YouTubeは見られる)、珍しいようです。「なんでCMが入るのー!」と文句を言ってますが…

けど、家にテレビがなくて良かったな、と軽井沢に来てテレビを見るたび思います。昔に比べてあまりにも番組の質が悪いし、出てくる芸能人の話す日本語は、たとえアナウンサーであっても乱れていると感じます。アナウンサーなら「やばい」とか「やっぱ」という言葉は、やはり使ってほしくないと思ってしまいます。テレビに出てくる人はもうちょっとしっかりした日本語を話してほしいなあ…これが今はもうデフォルトなんでしょうか(涙)。

軽井沢で読んだ本の紹介です。

『ある男』平野啓一郎
ある男 (文春文庫 ひ 19-3) | 平野 啓一郎 |本 | 通販 | Amazon
幼い息子を病気で亡くした女性。息子の治療をめぐって対立した夫と離婚し、もう一人の息子を連れて故郷に戻り、静かな生活を始める。そこで出会った男性と再婚するが、その男性は仕事中に亡くなってしまう。彼の死後、彼と疎遠だった彼の兄がお線香をあげにやってくるが、その兄は弟の遺影を見たとたん、「これは弟ではない」と断言する。一体自分が再婚した男性は誰だったのか?女性は以前自分が離婚したとき世話になった弁護士に調査を依頼する。

人間ドラマの中に、在日韓国人のアイデンティティ、ヘイトスピーチ、地震により「普段からあった見ないようにしていた問題が表層化」する現象、死刑制度、戸籍売買など、さまざまなテーマが入ってきます。

これだけいろいろ織り込んでいるのに、まったく雑多にならず、読者を混乱させることなくグイグイ読ませるのは、さすが作家だと思いました。

様々な重いテーマが描かれる中、私が一番心に残ったのは、この作家の弱い立場の人に対する思いやり。犯罪者の子ども、子どもを亡くした母親、親の離婚と再婚に翻弄される子ども、在日の人たち。

そういった人たちに、なんとかこの国で居場所を提供したい、という思いがこの作家にあるのではないかなあと感じました。

ラスト、傷ついた女性が自分の息子の成長に力をもらえるシーンに、大変勇気づけられます。平野啓一郎さんの他の作品も読んでみたいと思いました。

『こびとが打ち上げた小さなボール』チョ・セヒ 斎藤真理子訳
Amazon.co.jp: こびとが打ち上げた小さなボール (河出文庫 チ 8-1) : チョ・セヒ, 斎藤 真理子: 本
韓国が経済発展する中、社会の最下層に置かれた「蹴散らされた人たち」の悲しみを描く小説。高校教師が卒業間近の後の授業で生徒に語りかけるところから始まり、それから差別と貧困に苦しむ家族のメンバーの生活が描かれ、最後はまた高校教師が生徒たちに語りかけるシーンで終わる。

訳者の斎藤真理子さんは『82年生まれ キム・ジヨン』で有名になった方です。今回の翻訳も、時代背景の説明書きも素晴らしいです。斎藤真理子さんの著書、『韓国文学の中心にあるもの』も大変すばらしいので、ご興味ある方はぜひ…
韓国文学の中心にあるもの | 斎藤 真理子 |本 | 通販 | Amazon

話は戻り、この『こびと…』に描かれている、蹴散らされ、踏みつぶされた人達の苦しみは、映画「パラサイト」につながっています。

小説はもちろん、著者のあとがきもまた素晴らしかったので引用したいと思います。これは日本にもあてはまるのではないかな…

「しかし過ぎ去ったことを語るにつけ、心は重い。われわれは革命が必要だったときにそれを経験できなかった。ゆえにわれわれは成長できないままである。第三世界の多くの国が体験したのと同時に、わが国でも、革命は旧体制の小さな後退とわずかな改善にとどまった。われわれはその目撃者である。」

『ハーメルンの笛吹き男』阿部謹也
ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫) | 阿部 謹也 |本 | 通販 | Amazon

ハーメルンで、130人の子どもが笛吹男に連れられて集団失踪した「物語」は、実際にあったことではないか?を検証した著者渾身の研究書。

日本と同様、中世ドイツでも、芸能に関わる人達は最下層に置かれた人たちだったようです。また、彼らが着る服の色まで決められたという点も、日本と似ています。

中世ヨーロッパはペスト、飢餓、魔女裁判、宗教戦争と、暗黒の時代でした。そんな中から生まれた「笛吹男」の物語。

歴史に興味がない方でも、大変面白い内容となっています。

また著者の「ひたむきに研究を続け、弱い立場の人たちに優しいまなざしを送り続けた研究者」に対する敬意が感じられ、大変すがすがしい内容でした。


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