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「長生きは善」という子どもの頃からの常識が崩れていった話【本心】平野啓一郎著

「もう十分だから」
主人公朔也の母親が自由死を決めた理由です。

少なくとも私が子どもの頃は
「長生きは喜ばしい」と言われてきました。
しかし今では、単純にそうも言えなくなりました。

平均寿命2023年の日本人の平均寿命は
女性が87.14歳、男性が81.09歳です。

戦後である1947年には
男性が50.06年、女性が53.96年だったので、
当時より30年以上も長生きするようになりました。

確かに70年前の人より
長生きできるようになりました。
しかし、「人々は幸せになったのか」と考えると
疑問符がつきます。


・大切な人に長生きしてほしいという願い

歴史小説を読むと登場人物が病気で
早死にするエピソードが出てきます。
昭和初期の話ですら、
結核で若くして亡くなった人が出てきます。

現代の医療事情と当時との差を感じます。

「大切な人と少しでも長く過ごしたい」

その思いが、医療や科学技術の進歩の
原動力になったと感じます。
現代を生きている私たちは、
その恩恵を受けています。

・長寿化で起こった問題

「国が今みたいに切羽詰まった時代には、長生きをそのままナイーヴに肯定することは、できないだろうなぁ」

本心 p79

母親の主治医だった精神科医が、
朔也に話した一言です。

今より短命だった時代には
起こらなかった病気が問題になりました。
認知症やガンなどが当てはまります。

病気だけでありません。
長生きするだけ、自分の親世代よりも
より長く働かないといけなくなりました。
「引退後は悠々自適に」は今や幻です。

・年金や社会保障費の現状から思うこと

個人だけでなく国の制度を見ると
年金や医療費の問題を抱えています。

年金も、もらえるようになる年齢が
後ろ倒しになっています。
私の世代がもらう頃には、
80歳を超えているだろうと予測しています。

医療費の問題も根深いです。
私が大学生だった15年前と現在では
全く風潮が違うと感じます。

大学生だった頃は、
「お年寄りを見捨てる気か!」という風潮でした。
ちょうど後期高齢者医療制度ができた頃です。

それから15年経った現在は、
状況が変わったと実感します。
現役時代の負担が大きすぎて
結婚や子育てを諦めた」
こんな声が大きくなってきていると感じます。

社会人になって、給与明細を見て驚きました。
「社会保険料ってこんなにかかるのか」と。

「長生きすると周りに迷惑をかける」
そう感じたら、
長生きしようとは思わなくなります。

朔也の母親も、「これ以上長生きしたら、
周りに迷惑かける」と考えたことが
自由死を決める後押しになったでしょう。

・感想

「死の時期や場所などを選べるのか」
我が国日本でも、
いずれこの議論から避けられなくなるでしょう。
そんなことを考えました。

正直なところ、私は結論を出せていません。

確かに生きているのが苦痛になるくらい
痛みを感じている人もいます。
そんな人に向かって
「それでも寿命まで生きなさい」とは言えません。

しかし、私の息子たちのように
国や社会から支援を受けている人もいます。

中にはもっと重い障害を抱えて、介護を受けている人もいるでしょう。
長男の小学校にも、知的障害や発達障害だけでなく
身体的な介助を必要としている子どもたちがいます。

そのような立場の人が
「周りの迷惑になるなら、生きるのをやめよう」と
ならないかと恐れています。

「長生きすることはいいことなのか?」
「死の時期、場所などを自分で決められるのか?」

エンターテイメントとして楽しめる一方で、
哲学的な問いを投げかける作品と感じました。

以上、ちえでした。
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