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「誰にも感情移入できない」 誰もが持っている立場や主張を垣間見た瞬間【地図と拳】小川哲著

今更ながら読みました。
もう次の芥川賞・直木賞の候補作が発表されてます。

図書館で予約したのは3月中旬。
この時点で5人予約されていました。

1人2週間借りるので、3ヶ月は覚悟してました。
人によっては2週間で返却されないこともあり、思った以上にかかりました。


・誰にも感情移入できない

年代、季節ごとに章が分けられてました。
同じ章の中でも、国が変わったり、人物が変わったりしました。

ある時は日本軍の関係者やその家族の視点、
ある時は中国人やロシア人の視点に変わりました。

みなそれぞれ正義があるし、大切にしたいものがあるので、どっぷり感情移入できませんでした。

「この人の視点から見たら正しいかもしれない。
一方この人の視点で見たら極悪人にしか見えない」
そんなことを考えながら読み進めました。

登場人物が多いのでメモしながら読みました。
「あ、あの時出てきた人だ」と前のメモを見て確認したぐらいです。
人物相関図を作ったらすごいことになるでしょう。

章ごとに、少しずつ読んだ方が混乱せずに済むかもしれません。

・視野の広い人は強い

軍人というと、体力勝負のイメージです。
頭脳明晰さはそこまで求められていないと思ってました。
それでも上の立場の人は視野が広いと感じました。

私が「教養があるなぁ」と感心したのは、
細川と明男です。

まず細川ですが、最初から最後まで出てきます。
途中の登場人物は戦死したり、話の途中で生まれたりしますが、彼だけは最初から最後まで出てました。
明男ですら1912年生まれなので、それ以降の登場です。

細川の最初の登場は高木大尉の通訳としてでした。
この時はまだ留学生です。
どこか頼りなさそうな印象がありましたが、
話が進むにつれて、教養豊かで、頭の切れるしたたかな人物として描かれてます。

明男ですが、彼は明治天皇の崩御の年に生まれました。命名は細川です。
温度計など使わずに、湿度と温度が分かると言った変わった人物でした。
大学の建築学科で学びます。

満州の都市計画の課題を募ってた笠岡教授に、大学1年生で自主的に提出しました。
教授に認められたため、満州視察に同行することになりました。
卒業後は軍隊に入りましたが、途中から都市計画に関わります。

要所で細川と接点があり、時には助けられることもあります。
明男の父親と細川は同じ職場で働いてました。

・戦争に勝ったから大敗したのか

「満州はいずれ日本のものではなくなる」
細川はこう予測しました。

「いつかなくなると分かっているものに、多大な資材や労力をかけるべきではない」と考えました。
都市計画を妨害したり、資材の盗難事件を起こしたりしました。

1932年、リットン調査団より「満州国を国家として認めない」と通告が来ました。

他の人は怒っていましたが、細川は「想定より配慮されている」と言いました。
国家としては認めないけど、そこで利益を上げることは認めているとのことでした。

日本に対して「世界の道」か「孤立への道」があると細川。
しかし、既に「孤立への道」を歩んでいると指摘しました。
国際連盟脱退とつながりますね。

「こんな不利な状況になのに、なぜ満州国にこだわったのか」と学校で習った時は疑問に思いました。

フィクションなので、どこまで本当なのか何とも言えません。
「日露戦争で亡くなった英霊のためにこの国を手放さない」と考えてた関係者が多かったように感じました。

実益ではなく、気持ちを優先させたと感じました。

1904年の日露戦争で、ロシアに勝てるはずがないと言われていたのに勝ちました。
皮肉なことに、そこで勝ったために、勝ち目のないはずの戦争を始めて、負けたと考えてしまいました。

短期で見て勝てても、長期の目線で見たら必ずしも勝ち続けられるとは限らないと考えさせられました。

・感想

640ページもある分厚い本です。しかも1ページあたりの文章量も多かったです。
日本人の約半分の人が漫画や雑誌以外の本を読まない時代で、こんな分厚い本が売れているのかと驚きました。

「約100年もしない前に先人が起こした戦争についてどう考えますか」と問われてる気がしました。

日本人だけでなく、中国人やロシア人からの視点も入っており「自分が見えるものだけがすべてではない」と気づかされました。

とても分厚い本なので、じっくり読み進めるつもりでいることをお勧めします。

以上、ちえでした。
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