見出し画像

受け取って冷や汗をかく手紙とは【YUKARI】鈴木涼美著

「こんな手紙が届いたらドキッとしませんか」

夜の街で仕事をしていた主人公の紫(ゆかり)が
4人の男性に手紙を書きます。

中退した高校の先生、婚約者、
元太客だった医師、韓国クラブで働くダンサー。

高校の先生だった柿本先生には
7通の手紙のうち4通出しています。
他の人は1通ずつです。

どの手紙も取り止めもなく、
主人公の身の上話が書かれています。
7通の手紙から紫の過去が
徐々に明らかになっていくのが面白かったです。

受け取った男性の立場で読んでみたら、
家族に見つからないよう気を使いそうです。

印象に残った言葉を3つ紹介します。


・手紙は手元に残らない

柿本先生への手紙で触れられていましたが、
メールは送信画面が残るのに対して、
手紙は送ってしまったら自分の手元に残りません。

紫は「それがいい」とのことです。
自分が出した手紙が手元に残っていると、
読み返して赤面してしまうからです。

当たり前すぎて考えたこともなかったです。

・売春婦がホストクラブに来る理由

ホストクラブに通ってる人の職業を聞くと
キャバ嬢など夜の仕事をしてる人が多いイメージを持ってました。

紫があるホストに「なぜ売春婦がホストクラブに来ているか知っているか?」と聞かれました。
知らないと話したら、こんな回答が返ってきました。

「(前略)体を売って大層な金を稼ぐのに、金と交換したはずの身体は一寸も欠けることなく手元に残る。金も手元に残る。買ったつもりの客の手元には何もない。女は売ったことなんかなかったことにして、そしらぬ顔で立ち去る。だから売った証拠を消すために、金をとっとと捨てたがるんだよ

YUKARI p23

「売った証拠を消すために、
金をとっとと捨てたがる」という部分を読んで、
虚しさを感じてしまいました。
身を削っているのに、何も残らない感覚。

・やればやるほど価値のなくなる仕事

こちらは、元太客の医師明石院長あての手紙にありました。
(始め、紫が腕に薬品をかけられた時に治療した医師だと思い込んでいた)

通常、仕事は継続すればするほど、
価値が出てきます。

同じ職場でも長く働いてる人は
後から始めた人より仕事の経験値が高いです。
役職について皆をまとめていたり、
仕事を教えていたりします。
続けるほど積み重なっていく感覚があります。

しかし、この世にある全ての仕事が
そうであるわけではありません。

恋を売ったり、春を売ったりする女の仕事以外で、積み重ねれば積み重ねるほど見下されて価値が奪われていく残酷な職業なんてあるのかしら。

YUKARI p100

以前読んだ『職業としてのAV女優』で、
一番価値があるのは最初の一回で、
出れば出るほど価値が下がる話を思いだしました。

私は薬剤師の仕事をしていましたが、
長く続けている人の方が仕事ができるし、
キャリアも積み上がっていきます。
多くの仕事はそうでしょう。

やればやるほど価値が下がる仕事なんて、
価値が下がるのがわかっている投資商品に手を出すくらい愚かに見えます。

・感想

主人公から男性の一方的に手紙を出しているので、相手の男性の言い分は分かりません。

面白いのが結婚する予定の婚約者より、
高校時代の先生の方が
手紙のやり取りの数が多いのが気になりました。

中退したとはいえ、先生に聞いてもらいたいという気持ちがあったのではないかと思いました。

先生は、家庭を持っているのもあり、
紫と関わりたくないように感じました。

源氏物語の要素があるようですが、
あまり詳しくないためよくわかりませんでした。
それでも、「誰かへの手紙は、こんなにまとまりのない文章になるのか」と興味深く読みました。

以上、ちえでした。
プロフィールはこちらです。
他のSNSはこちらです。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?