相続放棄〜生き別れた父の死〜(後編)②

2022.5.10(火)当初予定の2倍の請求書

戸籍収集が終わって20日。司法書士からメールが来た。


「昨日、皆様方の相続放棄申述関係書類一式を、東京都〇〇の家庭裁判所あて発送しましたので、ご報告します。
(中略)
最後に、今回の費用につきましては、添付請求書のとおりです。万が一、追加で上申書等の作成が必要になった場合は、別途ご請求となります。」

メールには請求書が添付されていた。その金額を見て愕然とした。約19万円振り込め、とある。

「費用は今回ケースの場合、戸籍謄本の手数料や郵送料といった実費を含めても10万円まではかからないでしょう」
着手の際、司法書士は確かにこう話した。そして、業務依頼書にはその明細も明記されていた。

基本報酬   5万円
必要書類収集 1万〜4万円
上申書等作成 2万〜4万円

改めて添付されている請求書の明細に目を移す。
必要書類収集(戸籍・除籍謄本)は6件、報酬額は1万8000円となっていた。上申書は今回作成していない。
ならば基本報酬5万円と合わせて6万8000円に消費税を加えても8万円弱ではないか。
それなのになぜ「10万円かからない」はずが、約2倍の19万円の請求に膨れ上がったのか?

司法書士に電話をかけて「一体どうなってるんだ?」と問い合わせようと思いつつ、その前にもう一度請求書の明細を確認する。

相続放棄申述関係書類作成 4件 14万円

4件?あぁ、なるほど、そういうことか。

今回、父の相続人となるはずだったのは、順当に行けばぼくと弟の2人である。しかし、弟は2017年に膵臓がんを患い、41歳の若さでこの世を去っている。弟には3人の息子がおり、相続人はぼくと3人の甥っ子ということになる。だから4件なのだ。甥っ子たちはみな未成年のため、司法書士への依頼や戸籍の提出は義妹に任せていた。

単純に計算すると、基本報酬は1人目5万円、2人目以降は3万円、それで合計14万円ということなのだろう。
もちろん、未成年の甥っ子たちに負担をさせるつもりはない。いわんや、義妹にそれを求めるはずもない。

全額、ぼくの銀行口座から振り込んだ。19万円。毎月1万円ずつの節約生活を、1年半続けなければならない。ぼくのせいではないが、ぼくは妻に謝った。そして協力を求めた。妻は黙って聞いていた。

2月に父の死が知らされ、父が遺した不動産(自宅マンション)の固定資産税の納付を引き継ぐよう役所から通知されたときに思ったことは「40年間音信不通で、縁が切れたも同然の父から納税の責任を引き継げ、だと。まっぴらごめんだ」であった。それと同時に、たとえ父に財産があったとしても、それをもらっていいのだろうか?とも思った。だって、父はもうアカの他人同然だから。

見ず知らずの人から「あなたに財産あげます」って言われたって、普通の感覚なら断るでしょう?逆に「私の税負担を引き継いでください」って言われても嫌でしょう?それと同じ感覚。たとえ血は繋がっていようが、戸籍上は親子だろうが「そんなもん、知らんわ」である。

だから本当は、自分で相続放棄の手続きをして費用も最小限に抑えるべきだった。しかし、タイムイズマネー、時は金なり。手続き方法を調べ、それに基づいて書類を揃え、裁判所に申し立てていては、金銭的負担はかからないかもしれないが精神的ダメージが大きい。どっちにしたって「なぜ父のためにこんなに辛い思いをしなければならないのか」という感情を抱くのは同じだっただろう。

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