【雑感】法制審議会家族法制部会第34回部会資料(論点整理)を読んで(前編)

本稿のねらい


2023年8月29日に開催された法制審議会家族法制部会第30回会議において示された「家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台(1)」(要綱案たたき台①)は同第31回会議においても議論の対象とされたが、同第32回会議と第33回会議においては「家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台(2)」(要綱案たたき台②)が議論の対象とされた。

【参考】要綱案たたき台①に関する記事

要綱案たたき台②は要綱案たたき台①のマイナーチェンジと理解したため別途記事を作成することはしなかった。

今回は、要綱案たたき台②のうち意見対立が先鋭化している論点の整理を行う法制審議会家族法制部会第34回会議における部会資料34-1部会資料34-1)と同34-2部会資料34-2)につき雑感を記す(以下部会資料34-1と34-2をあわせて本資料ということがある)。前者につき本稿(前編)で触れ、後者につき次稿(後編)で触れる。


論点一覧


部会資料34-1

部会資料34−1は「親権に関する規律についての補足的な検討」と題するとおり、「親権」に関する議論のうち意見対立のあった論点について整理する趣旨である。(どちらかといえば父母側・監護者側の議論)

1 親権行使に関する規律の整備
  親権の共同行使の例外要件の緩和・追加
2 父母の離婚後等の親権者の定め
  裁判所が親権者を定める場合の考慮事情や共同親権とする要件追加
3 監護者の定め/監護の分掌
  監護者指定を必須とすること
  父母以外の第三者に監護者指定の申立権を付与すること

部会資料34-1

部会資料34-2

部会資料34−2は「親子関係に関する基本的な規律についての補足的な検討」と題するとおり、「親子関係」、つまり親権の帰属にかかわらない親子としての関係に依拠する責務等に関する議論や親権の行使の限界(「子の利益のため」)に関する議論のうち意見対立のあった論点について整理する趣旨である。

1 親権の有無にかかわらず父母が負う責務等
2 親権行使の限界(「子の利益」)

部会資料34−2

部会資料34−1


(1) 親権行使に関する規律の整備

▶ 要綱案たたき台②第2−1(1)イ

第2 親権及び監護等に関する規律
1 親権行使に関する規律の整備
⑴ 父母双方が親権者となるときは、親権は父母が共同して行うものとする。ただし、次に掲げるときは、その一方が行うものとする。
ア 他の一方が親権を行うことができないとき。
イ 子の利益のため急迫の事情があるとき。
⑵ 親権を行う父母は、上記⑴本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為を単独で行うことができるものとする。
⑶ 特定の事項に係る親権の行使について、父母の協議が調わない場合(上記⑴ただし書又は上記⑵の規定により単独で行うことができる場合を除く。)であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権を父母の一方が単独で行うことができる旨を定めることができるものとする。

要綱案たたき台②

【Note】
要綱案たたき台②第2−1は父母が婚姻中か否かを問わず父母双方が親権者である場合の親権行使のルール

▶ 要綱案たたき台②第2−1(1)イに対する意見

① 「イ」の「急迫の事情」の要件をより緩やかなものに修正する観点から、「必要性」及び「相当性」を基準とすべきであるとの意見や、「必要やむを得ない」ことを要件とすべきであるとの意見
② 「イ」に加えて、「ウ」として「父母の意見が対立しているとき(であって、裁判所の判断を待てないとき)」を追加すべきであるとの意見

部会資料34−1

この点、要綱案たたき台②の補足説明要綱案たたき台②補足説明)には次のような記載があった。

第30回会議及び第31回会議では、一部の委員から、主として子の転居の場面を念頭に、「急迫の事情」の有無ではなく、「必要性」及び「相当性」の有無により判断すべきであるとの意見が示された。
このような意見については、まず、「急迫の事情」がない(例えば、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ることが可能である状況である)にもかかわらず、父母の一方が他の一方に無断で子を転居させる「必要性」がある場合として、どのようなケースを想定するかなどを踏まえ、議論する必要があると考えられる。
(中略)親権を相当な方法で行わなければならないことは、親権が「子の利益のため」に行わなければならないものであること(民法第820条)や親権者が子の人格を尊重しなければならないこと等(同法第821条)から当然に要求されるものであり、その相当性が要求されるのは、親権を単独行使する場面に限られるものでもない。そのため、上記意見の指摘する「相当性」については、それが親権の単独行使が許容される範囲を画する要素と位置付けるべきものであるかどうかを含め、議論する必要がある。

要綱案たたき台②補足説明

考えられるケース−必要性に関して−

1 父母の一方が子の養育に無関心となり、音信不通となってしまうケース

要綱案たたき台②第2−1(1)ア「他の一方が親権を行うことができないとき」に該当すると整理すれば足りる。

なお、「父母の一方が他の一方に対して親権行使に関する相談の連絡をしたもののそれに対する反対がないといった場面においては、黙示的な同意があったものと整理することもできるであろうとの意見があった」とされているが(部会資料34−1・3頁)、それは無理である。賛否いずれの連絡もない場合、黙示的に反対の意思表示と取扱うほかない。そのため、一定期間内に賛否いずれの連絡もない場合、要綱案たたき台②第2−1(3)に基づき、家庭裁判所に対して単独での親権行使の請求を行うことが必要である。

2 日常的な些細な事項についてコミュニケーションをとるケース

要綱案たたき台②第2−1(2)「親権を行う父母は、上記⑴本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為を単独で行うことができるものとする」に該当する。

3 親権の行使がされないことで、かえって子の利益に反するケース

基本的には要綱案たたき台②第2−1(3)に基づき、家庭裁判所に対して単独での親権行使の請求を行うことが必要である。

ただし、緊急性を要するような場合には、要綱案たたき台②第2−1(3)の「子の監護に関する処分」についての審判を本案とする審判前の保全処分(家事事件手続法第157条第1項第3号)で対応することも考えられる。

4 裁判所の判断に一定の時間を要するケース

例えば、入学試験の結果発表後の入学手続のように一定の期限までに親権を行うことが必須であるような場面や、DVや虐待からの避難が必要である場面等を念頭に置いた意見があったとのことだが(部会資料34−1・3-4頁)、いずれも「急迫の事情」があると整理できる。

なお、「急迫の事情(緊急の行為)を要件とする例外規定を設けることについては、現行法の規定(児童福祉法第33条の2第4項や同法第47条第5項)との比較において整合的である旨の指摘があった」とのことだが、現行法の規定上は「児童の生命又は身体の安全を確保するため緊急の必要があると認めるとき」に児童相談所に一時保護された児童や児童福祉施設に入所中の児童の監護・教育に関し必要な措置をとることができると定められており、入学手続との関係では整合的とはいえないだろう。

子どもの生命又は身体の安全を確保するため緊急の必要がある場合
児童相談所長による監護及び教育に関する措置は、子どもの生命又は身体の安全を確保するため緊急の必要があると認めるときは、その親権者等の意に反してもとることができることとされている(法第33条の2第4項)。
具体的には、一時保護中の子どもに緊急に医療を受けさせる必要があるが、緊急に親権者等の意向を把握できない場合や、親権者等が治療に同意しない場合においても、児童相談所長の判断により、医療機関は子どもに必要な医療を行うことができる。
この規定については、緊急時以外は親権者等の意に反した措置をとることができないという趣旨ではないことに留意する。例えば、上記のように、児童相談所長は、自らがとる監護等の措置について親権者等から不当に妨げる行為があった場合には、当該行為にかかわらず、子どもの利益を保護するために必要な監護等の措置をとることができる。
また、親権者等の意に反した措置をとる場合であっても、できる限り親権者等から措置の必要性について理解を得られるよう努める。

厚生労働省「一時保護ガイドライン」21頁

5 父母の意見が対立しているケース

このケースは文言上「急迫の事情」があるとはいえない。

また、このケースのように父母の意見が対立していることのみをもって親権者の一方による親権の単独行使を認める根拠がない。

したがって、要綱案たたき台②第2−1(3)に基づき、家庭裁判所に対して単独での親権行使の請求を行うことが必要である。

なお、要綱案たたき台②第2−1(3)に基づき、家庭裁判所に対して単独での親権行使の請求を行うとして、家庭裁判所がどのような基準により判断を行うのかが重要な論点ではないだろうか。

もう1つは、ここでの判断事項は、子の利益のためであることは前提として、その上で、父母いずれの意見がより子の利益のためになるかであると思われるが、家庭裁判所ですら判断不可能なことなのではないだろうか。

例えば、海外留学のケースでは、留学先の学校との在学契約の締結者は父母であるにせよ、海外留学では居所の変更を伴うことから、親権の1つである監護権のうち居所指定権が問題となる。このような場合、そもそも海外留学をさせるかさせないかで揉める可能性があり、海外留学をさせるとしてどの国・地域なのか、期間はどうするのか、国は決まったとして寮に入れるのかホームステイさせるのかなど様々な選択肢がある。
(このケースでは、子自身に一定の意見がありそうな場面であるため、最終的には子の意見を聞いて判断するのかもしれないが)

筆者「法制審議会家族法制部会:親子に関する問題②要綱案の取りまとめに向けたたたき台!?(共同親権)

(2) 父母の離婚後等の親権者の定め

▶ 要綱案たたき台②第2−2(6)・注2

2 父母の離婚後等の親権者の定め
⑷ 上記⑴若しくは⑶の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をするものとする。
⑹ 親権者の指定又は変更の手続において、裁判所が親権者を父母双方とするかその一方とするかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係や父と母との関係その他一切の事情を考慮するものとする。また、父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、裁判所は、父母の一方を親権者と定めなければならないものとする(注2)。
(注2)規律の内容をより具体的に定める観点からは、「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害する」場合を例示することが考えられる。例えば、父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるときや、父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、親権者の定めについて父母の協議が調わない理由その他一切の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるときを列記するとの考え方がある。

要綱案たたき台②

▶ 要綱案たたき台②第2−2(6)・注2に対する意見

① 裁判所が考慮すべき事情として「子の意思」を明示すべきであるとの意見 ② 裁判所が父母双方を親権者と定めるための要件として「父母双方の合意があること」を必要とすべきであるとの意見

部会資料34−1

【Note】
裁判所の判断枠組み・考慮要素として、「プラスの要素」(父母双方を親権者と定めることを肯定する方向の事情)又は「マイナスの要素」(父母双方を親権者と定めることを否定する方向の事情)を規定すべきとする意見があったとのことであるが(要綱案たたき台②補足説明5頁)、離婚という父母間の事情により親子関係を変動させる理由がなく、したがって原則として共同親権であるべきであるため、親権喪失(民法第834条)・親権停止(同法第834条の2)に相当する「マイナスの要素」を規定し、それに該当しない限りは共同親権と判断すべきである。

この点、法制審議会家族法制部会第33回会議において、次のような意見が出たとのことであるが、論拠も不明であり意味不明(親権喪失や親権停止とのアンバランス性については後述)。

まず「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害する」事情があるか否かを判断し、これがあれば父母の一方を親権者として定め、これがない場合には裁判所が改めて子と父母との関係や父と母との関係を考慮した上で父母双方を親権者とするかその一方を親権者とするかを判断するという枠組みとすべきであるとの意見もあった。

部会資料34−1・12−13頁

①裁判所が考慮すべき事情として「子の意思」を明示すべきであるとの意見

要綱案たたき台②第2−2(6)においても、裁判所は「子の利益のため、父母と子との関係や父と母との関係その他一切の事情を考慮する」と提案されており、「子の意思」もここに含まれることになる上(家事事件手続法第65条、第169条参照)、「子の意思」が「父母と子との関係」を評価する上での一事情になる以上、「子の意思」は裁判所に考慮されることになる。

第65条 家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(中略)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。

家事事件手続法

(陳述の聴取)
第169条 家庭裁判所は、次の各号に掲げる審判をする場合には、当該各号に定める者(中略)の陳述を聴かなければならない。(中略)
 親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判 子(15歳以上のものに限る。)及び子の親権者
 (略)
 家庭裁判所は、親権者の指定又は変更の審判をする場合には、第68条の規定により当事者の陳述を聴くほか、子(15歳以上のものに限る。)の陳述を聴かなければならない

家事事件手続法

問題は、「子の意思」を裁判所が考慮するとして、どの程度の重みをもたせるかである。

例えば、親権喪失や親権停止に相当する「マイナスの要素」がないにもかかわらず、「子の意思」のみで父母の一方の親権を喪失させる(=離婚後単独親権とする)ことが「親権」の在り方との関係で適切だろうか。

基本的に「親権」は子の権利を父母である親権者が保護するための手段であることを踏まえると(前回記事参照)、権利者側である子が自由に義務者側である父母の責務のパッケージである「親権」を「免除」することも不可能ではないことになるが、それは国家が父母に対して子の「親権」を与えた(課した)趣旨に反する上、未成年である子の判断能力を過信しているとの批判は免れない。

なお、もし「子の意思」のみで父母の一方の親権を喪失させることが可能となる制度設計・運用だとすれば、「裁判手続に至る前の段階を含めた父母の行動に影響を及ぼしかねない」(部会資料34−1・10頁)との懸念は当たるだろう。

②裁判所が父母双方を親権者と定めるための要件として「父母双方の合意があること」を必要とすべきであるとの意見

部会資料34−1・10頁によれば、裁判所が父母双方を親権者と定めるための要件として次のような要件を追加することを求める意見があったとのことである。

  • 父母双方の合意があること

  • 子の養育に関して父母が平穏にコミュニケーションをとれること

この点に立ち入る前提として、法務省が珍しく正論を記しているため引用する。

離婚時の親権者の定めを身分関係の変動の内容という観点から改めて整理してみると、この場面における裁判所の判断は、父又は母に対して新たに親権を付与するかどうかを判断するものではなく、その双方が親権者であった従前の状態を継続するか、その一方の親権を制限する状態に変更するかという判断をするものと捉えることもできる。そして、民法において、親権者の親権を制限する方向での身分関係の変動を生じさせるためには、「子の利益を著しく害する」(同法第834条)、「子の利益を害する」(同法第834条の2、第835条)、「やむを得ない事由がある」(同法第837条)などの一定の要件が必要とされている。
(中略)
このような身分関係の変動を子の立場からみると、自らの身上監護や財産管理に責任を持つ親権者が2人の状態であるという身分関係に変動を生じさせるかどうかという問題と捉えることができ、民法ではそのような身分関係の変動について子の利益の観点から判断することを求めていると考えられる。

部会資料34−1・10-11頁

【参考】離婚後単独親権制度と親権喪失等とのアンバランス性

特に離婚のインパクトは強烈である。
すなわち、夫婦(父母)の一方のみを親権者として子を監護(養育)する(※)権利と義務・責任を一手に委ね、他方の父母からは親権を剥奪し、それにより、強制的に、父母が協力して子を養育することを妨げているためである(単独親権制度)。(普通に考えて結構むちゃくちゃで、「子の養育」であることが二の次になっている)
(中略)
この点、親権は父母であれば与えられる権利であり義務・責任であるが(民法第818条第1項)、婚姻中に父母の一方から親権を奪う(喪失させる)又は父母の一方の親権を停止することのハードルは次のとおりであり、相当高いハードルとなっていることとの対比で、単に夫婦関係が終了しただけで親権を剥奪するのは法制度としてあまりにアンバランスである。

筆者「法制審議会家族法制部会:親子に関する問題①概要

父母双方の合意があることを要件とする背景には、「共同関係の維持を当事者の意思に反して『強制』」しても「離婚後の父母の間に子の養育に関して一定の信頼関係がなければ、父母双方を親権者とした場合に円滑に親権行使することが困難となり、子の利益に反する結果を招くのではないかとの懸念がある」とのことである(部会資料34−1・11−12頁)。

しかし、父母双方の合意があることを要件とすれば、父母の一方が他方の親権維持に異存がある場合には「家庭裁判所が父母双方を親権者と定めることが禁止されることとなり、結果的に一種の『拒否権』を父母の一方に付与する結果」となるが(部会資料34−1・12頁)、その根拠が不明であることに加え、父母双方の合意があることを要件とする上記背景自体、父母の責任放棄を追認することにほかならず認められない。

【参考】離婚後共同親権に父母の合意を求めることは一方に「拒否権」を与えていることと同義

この点、協議や合意を要するということは、父母の一方に「拒否権」(親権剥奪権)を与えているのと同義であるが(少し文脈は異なるが家族法制部会第27回会議議事録・39頁〔小粥委員発言〕、・44頁〔棚村委員発言〕)、憲法第14条や第24条などを持ち出すまでもなく、父母は、子に対する養育の責任という観点で対等な成年である自然人同士であり、互いに優劣関係などない以上、父母の一方に拒否権を与える根拠が不明である。

筆者「法制審議会家族法制部会:親子に関する問題②要綱案の取りまとめに向けたたたき台!?(共同親権)

また、「子の養育に関して父母が平穏にコミュニケーションをとれること」を要件とするのも、同様の理由により否定である。

なお、この点、法務省は「たたき台(2)第2の2の注2の文言を前提としたとしても、家庭裁判所が『父母が共同して親権を行うことが困難であると認められる』かを判断する際には、子の養育に関して父母が平穏にコミュニケーションをとることができない事情の有無及び程度や、その事情に合理性が認められ得るかどうか等についても、『…親権者の定めについて父母の協議が調わない理由その他一切の事情』として考慮され得る」としているが、(平穏に)コミュニケーションを取れない事情を「マイナスの要素」として捉える分には異論ない。

(3) 監護者の定め/監護の分掌

▶ 要綱案たたき台②第2−3(1)

3 監護者の定め及び監護の分掌に関する規律
⑴ 離婚後の父母双方を親権者と定めるに当たって、父母の一方を子の監護をすべき者とする旨の定めをすることを必須とする旨の規律は設けないものとする。
⑵ 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者又は監護の分掌(分担)については、父母の協議により定めるものとし、この協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所がこれを定めるものとする(注1)。

要綱案たたき台②

【Note】相変わらずわかりづらい…

部会資料30-1(筆者注:要綱案たたき台①)のゴシック体の記載においても、部会資料26の2⑴と同様に、監護者の定めを一律には要求しないものとしていたが、その趣旨が必ずしも明確に表現されていない部分があったため、今回の資料では、この点を明示的に記載することとしている。
ところで、監護者の定めをするか否かについて父母の協議が調わないときは、家庭裁判所の手続においてその意見対立を調整することが考えられる。現行民法第766条第2項は、「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める」と規定しているが、このことは、父母の一方からの請求があれば家庭裁判所が必ず監護者を定めなければならないものとすることを意味するものではないため、個別具体的な事案において父母の一方が家庭裁判所に対して監護者指定を求める請求をした場合であっても、家庭裁判所が当該申立てを却下することもあり得る。今回のゴシック体の記載⑵でも、「この協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所がこれを定める」ものとすることを提示しているが、これも現行民法第766条と同趣旨である。

要綱案たたき台②補足説明

▶ 要綱案たたき台②第2−3(1)に対する意見

⑴ たたき台(2)第2の3⑴については、第32回会議において、監護者指定を必須とすべきであるとの修正意見が示されたが、どのように考えるか。
⑵ 父母以外の第三者に監護者指定の申立権を認めるべきであるとの意見について、どのように考えるか。

部会資料34−1

この監護者指定を父母の離婚に際して一律に必須とするかどうかについては賛否両論あるところであり、以前の記事でも割と詳細に触れたところである。

【参考】監護者の定めの要否に関する家族法制部会委員・幹事の賛否

法制審議会家族法制部会第26回会議議事録をもとに2023年8月28日筆者作成
法制審議会家族法制部会第26回会議議事録をもとに2023年8月28日筆者作成

そこでも触れているが、監護者指定が一律必須であると考える見解の背景には、次の事情があるようである。

  • 離婚後の父母が、子の養育をするに当たって、日常的な事項に関する決定や事実としての監護教育を常に共同することは困難

  • 監護者の定めをすることなく、日常的な事項についても父母間の協議に基づいて親権を行う必要があるとすると、父母間の意見が対立したときに適時の意思決定をすることが困難となる結果として、子の最善の利益を害することとなりかねない

  • 監護者の定めをしないことにより不都合が生じ得るケースがある(←New!!

しかし、このいずれも、共同親権の行使方法にかかわる問題であり、親権者は要綱案たたき台②第2−1(2)に基づき、日常的な事項に関する決定を単独で行うことができる。また、子の生命・身体に危険が迫っているような緊急を要する場合には、要綱案たたき台②第2−1(1)イニ基づき、親権者が単独で決定を行うことができる。したがって、上記1点目・2点目の事情のために監護者指定を一律必須とする必要はない。

監護者の定めをしないことにより不都合が生じ得るケースとはどんなケースだろうか。

この点、法務省がまた柄にもなく正論を記しているため引用する。

もっとも、現段階における議論の焦点は、監護者の定めをしないことにより不都合が生ずるケースがあるかどうかというレベルでの議論ではなく、全ての事案において監護者の定めを必須としなければならないかどうかであると考えられる。

部会資料34−1・14頁

上図の監護者指定を一律必須と考える見解が何を求めているのかいまいちわからないが、もし監護者指定を一律必須とし、かつ、非監護者から監護権(身上監護権)を剥奪することを企図しているのであれば、共同親権が骨抜きとなる。非監護者から監護権が剥奪されれば、非監護者には財産管理権しか残らないことになり、親権の大部分を喪失すること、親権者の変更がなされたことと同義である。

この点、要綱案たたき台②では、父母間の協議又は裁判所により監護者の指定がされた場合、監護者は監護・教育のほか居所指定や職業許可を単独で行うことができることになり、その反面、非監護者は監護者の行為を妨害しない範囲内に限り監護・教育に関する日常の行為のみを行うことができるにとどまると提案されており、「結果として、身上監護に関する事項(日常的な行為を含む)について父母間の意見対立が生じた際には、監護者の意見が常に優先されることとなる」(部会資料34−1・15頁)。
つまり、事実上、非監護者から監護権を剥奪することが提案されている。(第三者に対する妨害排除請求権は剥奪されない?)

⇢ 問題は裁判所による監護者指定の要件や基準
 (実質的には親権喪失や親権停止に近い)

3 監護者の定め及び監護の分掌に関する規律
⑶ 子の監護をすべき者が定められた場合には、子の監護をすべき者は、民法第820条の監護及び教育、同法第822条の居所指定及び同法第823条の職業許可を単独で行うことができるものとする(注2)。
⑷ 子の監護をすべき者が定められた場合には、親権を行う父母(子の監護をすべき者であるものを除く。)は、上記⑶の規定による子の監護をすべき者の行為を妨げない限度で、上記1の規律に従って、監護及び教育に関する日常の行為を行うことができるものとする。

(注2)本文⑶の規律により監護者が身上監護権を単独で行うことができるものと整理した場合であっても、監護者による身上監護の内容がその自由な判断に委ねられるわけではなく、これを子の利益のために行わなければならないこととの関係で、一定の限界があると考えられる。例えば、監護者による身上監護権の行使の結果として、(監護者でない)親権者による親権行使等を事実上困難にさせる事態を招き、それが子の利益に反する場合があるとの指摘がある。

要綱案たたき台②

【参考】

2023年8月29日筆者作成

【参考】現行法上の親権と監護権

2023年8月25日筆者作成

部会資料34−2 ⇢ 後編へ


▶ 要綱案たたき台①第1

第1 親子関係に関する基本的な規律
子との関係での父母の責務を明確化するための規律を整備するものとする(注1、2)。
(注1)父母の責務としては、例えば、父母が子の心身の健全な発達を図らなければならないことや、扶養義務を負い、その程度が生活保持義務であること、子の利益のためにその人格を尊重するとともにその年齢及び発達の程度に配慮しなければならないことなどがあるとの考え方がある。また、父母は、その婚姻関係の有無にかかわらず、子に対するこれらの責務を果たすため、互いの人格を尊重すべきであるとの考え方がある。
(注2)子との関係において、親権が親の権利ではなく義務としての性質を有するものであること(親権を子の利益のために行わなければならないこと)を明確化すべきであるとの考え方がある。

要綱案たたき台①

▶ 要綱案たたき台①第1に関する論点

1 親権の有無にかかわらず父母が負う責務や権利義務等に関する規律として、次のような内容の規律を設けるものとすることについて、どのように考えるか。
① 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
② 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
2 成年に達しない子が父母の親権に「服する」と規定する民法第818条第1項を改正して、親権が子との関係において義務としての性質を有し、親権が子の利益のために行使されなければならないものであることを明確化するものとすることについて、どのように考えるか。

部会資料34−2

【参考】

以上


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