法制審議会家族法制部会:親子に関する問題②要綱案の取りまとめに向けたたたき台!?(共同親権)

本稿のねらい


昨日、2023年8月29日に法制審議会家族法制部会において、第30回会議が開催され(法務省ウェブサイト)、そこで「家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台(1)」(要綱案たたき台)が示された。

そのほか、これまで半年以上も公開されなかった「家族法制の見直しに関する中間試案」(中間試案)のパブコメに寄せられた意見の概要パブコメ結果概要)も示された。

以前の記事では、家族法制部会の議論を追うことを宣言したが、既に要綱案たたき台の段階にまで差し掛かっており、差し当たって、要綱案たたき台を紹介して、その後、必要に応じて各論点について説明をするという流れにしたい。

本稿では、特に「共同親権」について説明することにする。

ちなみに、筆者は家族法制部会第27回会議までの議事録は追っているが、第28回会議以降の議事録が未だ公表されておらず(当然昨日開催された第30会議の議事録も未公表)、議論の趨勢は不明である点に留意のこと。

また、パブコメ結果概要も、「概要」という題名にそぐわぬ大部であり(全281頁)、その内容は追えていない点にも留意のこと。

要綱案たたき台の概要


要綱案たたき台の項目は下図のとおりであり、中間試案の項目より相当程度簡素化されている。(中間試案の項目については以前の記事参照)

2023年8月29日筆者作成
※重要度は筆者の主観

報道にもあるように、要綱案たたき台の目玉は、「共同親権」である。

「民法出でて忠孝滅ぶ」・・・のか?

他方で、この後、共同親権の概要について触れるが、妥協の産物とも呼べるような、本来の趣旨からすれば奇妙な内容となっている。

また、合わせて、養育費に関し「法定養育費」なる制度を設けることが提案されている。

以下、筆者の興味関心に即して、重要と考えるポイントについて概要を紹介する。

父母の子に対する責任・責務


要綱案たたき台の提案

子との関係での父母の責務を明確化するための規律を整備するものとする

家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台(1)1頁

(1) 基本的な考え方

以前の記事でも触れたが、父母は、子にとっての父母である以上、「その婚姻関係の有無や親権の有無にかかわらず、子との関係で一定の責務を負っている」(家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台(1)(補足説明付き)補足説明)5頁)と考えるのが基本である。

この点に異論はないように思われる(異論があるのは外道かあるいは…)。

以下の「共同親権」や別稿にて説明予定の養育費等に関しても、この基本的な考え方をベースに検討されているはずだが…。

(2) 「父母の責務」とは

ここでいう「父母の責務」として、要綱案たたき台で挙げられている例としては、次のようなものがある(補足説明5頁)。

  • 父母が子の心身の健全な発達を図らなければならないこと

  • 扶養義務(生活保持義務)を負うこと

  • 子の利益のためにその人格を尊重するとともにその年齢及び発達の程度に配慮しなければならないこと

  • その婚姻関係の有無にかかわらず、子に対するこれらの責務を果たすため、父母が互いの人格を尊重すべきであること(これは子に対する責務の前提となる責務といえる)

筆者としては上記「生活保持義務」の内容に極めて異論があるものの(理由は別の稿にて)、いずれの例も「父母の責務」として当然のものと考える。

なお、現行民法では、子に対する父母の関わりの核をなす概念は、「親権」(民法第4編第4章「親権」)と定められているが、その実質は、父母の権利のみではなく義務としての側面もあり、その権利義務は子の利益のためにのみ行使されるべきであることから、基本的な発想としては、父母の子に対する義務や責任という性質を表現することが望ましいとして、「親責任」("Parental Responsibility")や「親義務」という用語も検討されていた。

他方で、現状の法体系において「責任」や「義務」という用語がもつ概念とはやはり大きく異なることや、親権喪失・親権停止の例のように、単に「権」の部分を「責任」や「義務」に置換すればいいというわけではないこと、さらに「親責任」や「親義務」では語呂が悪いことから、用語としては、従前どおり「親権」が維持される見込みである。

「親権」だから権利しかないと考えるのは短絡的ではあるものの一理あるところでもあるが、ネーミングよりもその中身が重要であり、親権とは何かという基本的な考え方を民法に創設することで十分であると考える。

共同親権


ここでは、要綱案たたき台の順序とは異なり、まず「2 父母の離婚後等の親権者の定め」について概要を紹介し、その後、「1 親権行使に関する規律の整備」と「3 監護者の定めがある場合の親権の行使方法等」の概要を紹介する。

(1) 父母の離婚後等の親権者の定め

少し長くなるが、要綱案たたき台1-2頁を引用する。
概要は下図のとおりである。

  1. 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定めるものとする。また、父母は、下記4の審判又は調停の申立てをしていれば、親権者の定めをしなくても、協議上の離婚をすることができるものとする。

  2. 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定めるものとする。

  3. 子の出生前に父母が離婚した場合又は(母と法律上の婚姻関係のない)父が子を認知した場合には、親権は、母が行うものとする。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができるものとする。

  4. 上記1若しくは3の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をするものとする。

  5. 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができるものとする。

  6. 裁判所が親権者を父母双方とするかその一方とするかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係や父母相互間の関係を考慮するものとする。

  7. 協議上の離婚等の際の父母の協議による親権者の定めについて、その合意形成過程が適正でない場合に、上記5の親権者の変更の手続によりこれを是正することができるようにするため、この場面における親権者の変更の考慮要素を明確化するものとする。

協議離婚・裁判離婚・出生前離婚/認知、いずれの場合であっても、父母双方を親権者とすることが可能な、離婚後共同親権制度がイメージされたものである。

2023年8月29日筆者作成

ちなみに、要綱案たたき台以前の家族法制部会第27回会議部会資料27では、次のような離婚後共同親権制度がイメージされていた。

2023年8月27日筆者作成

要綱案たたき台や部会資料27の残念な点は、協議離婚の原則ルールや裁判離婚のルールに関して、父母双方を親権者とすることが原則的な規律とはされておらず、特に、協議離婚の場合は父母双方の協議、すなわち合意が必要とされている点である。

この「合意型離婚後共同親権制度」ともいえる制度は、家族法制部会第25回会議以降継続的に議論されており、数人の反対委員・幹事を除き、多数の委員・幹事の賛成を得ていただけに、要綱案たたき台はもちろん補足説明にも、「協議」(合意)を要する点についての説明がまったくない。

家族法制部会第25回会議議事録をもとに2023年8月28日筆者作成
※元々は中間試案や部会資料25から27を検討するために作成した資料
※☆印は筆者の意見と同じ意見だったため(なお筆者は合意型には反対)
家族法制部会第25回会議議事録をもとに2023年8月28日筆者作成
※元々は中間試案や部会資料25から27を検討するために作成した資料

この点、協議や合意を要するということは、父母の一方に「拒否権」(親権剥奪権)を与えているのと同義であるが(少し文脈は異なるが家族法制部会第27回会議議事録・39頁〔小粥委員発言〕、・44頁〔棚村委員発言〕)、憲法第14条や第24条などを持ち出すまでもなく、父母は、子に対する養育の責任という観点で対等な成年である自然人同士であり、互いに優劣関係などない以上、父母の一方に拒否権を与える根拠が不明である。

父母の双方が単独親権を希望している場合、問題となるのは父母のいずれが親権者になるかであり、この場合は現行民法の延長線上にある。
他方で、父母の一方は単独親権、その他方は共同親権を希望している場合、単独親権を希望し、かつ、単独親権となれば親権を得る見込みの父母に、拒否権ないし親権剥奪権を与えることになる。
もちろん、協議不調の場合、家庭裁判所による協議に代わる審判において共同親権という決着となる可能性もあり、その意味で拒否権としては弱いものであるかもしれない。
しかし、共同親権を拒否された父母の一方としては、①家庭裁判所が共同親権を認めるかどうか、②共同親権を認めないとして自身を単独親権者として認めるかどうか、この2つの点で不安定な立場に置かれることになる。
なお、中間試案や要綱案たたき台においては、共同親権導入の目的として、親権者を巡る父母の苛烈な争いを避けるという点は含まれていないが、副次的にはそういう目的もあるように思われるところ、上記の意味で拒否権を持ちたい父母の一方に子の連去りなどを促し、結局、父母間の苛烈な親権者争いに繋がりかねない。

また、親権には責務が含まれるのであり(上記「父母の責務とは」参照)、連帯「責務」者である父母の一方の意向により、その他方の「責務」を一方的に免れさせていいのかも問題になる。

この点は、親権とは別に父母には子に対する扶養義務があるから問題ないということかもしれないが、他方で、子は父母のみが養育するのではなく社会全体で養育するという考え方が「21世紀的」であるとのことであり(家族法制部会第24回会議議事録・11頁〔落合委員発言〕)、そうであるならば、父母の合意のみによりその一方の子を養育する責任(責務)を免れさせていいのかはやはり問題である。

2023年8月28日筆者作成

筆者は、上図のとおり、中間試案甲①案が、父母は「その婚姻関係の有無や親権の有無にかかわらず、子との関係で一定の責務を負っている」という基本的な考え方との関係(これを突き詰めると下図のとおり "チルドレン・ファースト" という考え方になる)で、理論的に一貫していると考え、賛同している。ちなみに、"チルドレン・ファースト"という表現は、法務省「家族法制の見直しに関する中間試案に関する参考資料」というポンチ絵の右上にも出てくる。

2023年8月28日筆者作成
※元々は中間試案や部会資料25から27を検討するために作成した資料

このように、"チルドレン・ファースト" な考え方を突き詰めると、父母は、子に対するそれぞれの責任(責務)のため、無理やりにでも子の養育のために協力しなければならず、よほど例外的な場合に限り、父母の一方のみが子の養育に責任を持つ(単独親権)という構造しかあり得ないと考える。

この点、【甲①案】に反対する立場からは、次のように指摘されており、法務省民事局としては「DVや虐待といった事情に限らず、親権行使を円滑に行うことができるかといった観点からの要件設定を検討することがあり得る」とのこと(家族法制の見直しに関する中間試案の補足説明16頁)。

離婚後の父母双方が共同して親権を行使することとなると、父母双方が協力することができる関係性が構築されていない限り、親権行使を適時に行うことができないおそれがある

家族法制の見直しに関する中間試案の補足説明16頁

しかし、上記のとおり、父母は、子に対するそれぞれの責任(責務)のため、無理やりにでも子の養育のために協力しなければならないのであって、親権の共同行使を円滑にするため「父母双方が協力することができる関係性」を構築することも、その責任(責務)の1つである。
求められるべきは、協力関係構築を促すことであり、また適切な協力関係を構築しない父母の一方に対しての親権喪失や親権停止の要件の検討であり、共同親権を設定するための要件ではない。

なお、補足説明11頁によると、「団体から寄せられた意見においては、【甲案】に賛成する意見が多数であり(参考資料30−1参照)、個人から寄せられた意見においては、【乙案】に賛成する意見が多数(【甲案】賛成と【乙案】賛成の割合は概ね1:2程度)」とのこと。

部会資料24等を参考に2023年8月27日筆者作成

〜閑話休題〜

父母の協議の適正性を確保するための仕組み

補足説明では、特に、父母の協議の適正性を確保するための仕組みに紙数が割かれている(くどいがこれは合意型にしたことに起因する弊害である)。

父母の協議にて親権者を定められるとすると、「DV等がある事案において父母間に一定の支配・被支配関係が存在することなどにより、その合意の形成過程に問題が生じ、適正さを欠くのではないかとの懸念がある」とのことである(補足説明10頁)。協議による親権者の定めが必要なことは、これまでの単独親権制度下においても同様だったはずだが(民法第819条第1項)、今までもそういう懸念があったのだろうか…

ともあれ、そのような懸念に応えるべく、家族法制部会第27回会議部会資料27においては、次の2点による事前審査と事後審査の方法が挙げられていた。

  1. 協議上の離婚をしようとする父母が、当該離婚の際の親権者の定めについて、【第三者】の確認を求めることができるものとする

  2. 離婚の際の親権者を父母の合意により定めた場合において、父又は母が、離婚から一定の期間に限り、一定の要件の下で、改めて親権者を定め直すことを家庭裁判所に求めることができるものとし、この手続において上記1の確認の手続を経ているかどうかを考慮する

いずれについても、家族法制部会の委員・幹事による賛否があり、特に上記1の事前審査に関しては、「協議上の離婚の要件が現状よりも加重され、国民に大きな影響を与えることなどから、慎重な検討を要するとの意見があった」のは確かである(補足説明10頁)。

しかし、未成年子がいる父母においては、その責務との関係から、協議離婚の要件が加重されることもやむを得ないとの意見もそれなりにあった。

筆者は上記のとおり合意型に反対であり、また合意形成過程の瑕疵を意思表示の瑕疵以外の方法で解決する必要性にも疑問だが、合意型を採用し、かつ、合意の適正性を確保する手段を設けるなら後者の意見に賛成である。
むしろ、父母が子を養育する責務を負っているという基本的な考え方からは、正当な理由なく親権(責務)を取り上げたり、反対に、放り投げたりすることは許されないはずであり、協議離婚時に単独親権を選択する父母につき、その真意なり理由を確認するような手続が必要なように思える。

また、上記2の事後審査については、ある種の「クーリング・オフ」とか「試行期間」とか言われており、親権者の変更の手続とは別のものとして考えられていたところである。

つまり、親権者の変更は、次のとおり、親権者が適切に定められた場合に、事後の事情変更により当該定めが不適当になったかどうかを判断する手続である。

裁判所の審判等による親権者の定めの変更が請求されているケースにおいては、その請求を受けた家庭裁判所は、基本的には、当該審判等の時点においてはその定めが子の利益の観点から適切なものであったことを前提として、その後の事情変更の有無を中心として変更の必要性の有無を判断することとなると考えられる。

補足説明10頁

これに対し、上記2の事後審査は、必ずしも事情変更に限らず、協議時の意思形成過程の適正性をも審査対象とする手続として想定されている点で、審査すべき対象が異なる。

父母の協議によって親権者の定めがされた場合には、その協議の経過が適正なものであるとは限らないため、家庭裁判所が、父母の協議の結果やその後の事情変更に加え、この協議の経過等をも考慮して判断すべきであると考えられる。

補足説明10頁

そして、要綱案たたき台では、次のような事項が考慮すべきことが提案されている(要綱案たたき台2頁)。

  • 父母の一方から他の一方に対する暴行その他心身に有害な影響を及ぼす言動があったかどうか

  • 家事事件手続法による調停等の裁判所の手続の有無又は裁判外紛争解決手続を利用したかどうか

  • その協議の結果について公正証書を作成したかどうか

  • 裁判所が親権者を定め直すに当たっては、通常の親権者の変更に関する要素を考慮して、親権者を父母双方とするのが望ましいかその一方とするのが望ましいかどうか

裁判所の考慮要素・判断枠組み

裁判離婚の場合の裁判所の判断基準や、父母間の協議が成立しない場合に裁判所による協議に代わる審判を受けることになることが提案されているが、その場合の裁判所の判断基準は、「子の利益」の観点から判断することが大前提であり、その中で、例えば、次のような事項を勘案して、父母双方が共同して親権を行うことが困難であると認められるかどうか判断することが挙げられている(要綱案たたき台2頁)。

  • 父母双方を親権者と定めることによって子の心身に害悪を及ぼすなどの危険があると認められるかどうか

  • 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無及び程度

  • 親権者の定めについて父母の協議が調わなかった理由

大枠では異論がない考慮要素なのだろうと思われるが、中間試案【甲①案】に賛成している筆者としては、なぜ、「父母双方が共同して親権を行うことが困難であると認められる」かどうかがメルクマールになるのか、よくわからない。

親権喪失・親権停止の要件に該当するような事情がないにもかかわらず、親権を失うことが正当化される理由はなんだろうか。

ちなみに、親権喪失の要件は、それが重すぎるかどうかはさて措き、「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害する」こと、その状況が2年以内に消滅する見込みがないことの2点である(民法第834条)。

ここでは、結果として「子の利益を著しく害する」ことが最低限要求されている。また、「父母双方が共同して親権を行うことが困難」ではなく、父母各々が子に対する親権の行使を行うことが著しく困難という事情が必要とされている。

最も疑問なのは、仮に暴力的な父母の一方が離婚後も親権を持つとして、親権はあくまで権利や責務であり、法概念に過ぎないが、なぜそのために子の心身に害悪をもたらすことになるのだろうか。そういう粗野な父母の一方に親権があろうとなかろうと、現実の問題として、子の心身への害悪は発生するのではないか。(想像力が足りないと言われればそれまでだが)

出生前離婚/認知

最後に、出生前離婚/認知の場合にも協議に代わる審判があり得ることについて触れる。

つまり、要綱案たたき台では、出生前離婚又は認知の場合、親権は母が行うことが原則ルールとして示されているが、例外ルールとして、父母が協議により父母の双方又は父を親権者とすることができ、協議が調わない場合又は協議ができない場合には家庭裁判所が協議に代わる審判を行うことが提案されている。

これ自体は、現行民法のルールどおりかと思われるが、むしろ現行のルールに疑問がある。(要綱案たたき台の提案には疑問なし)

つまり、そもそも、離婚後に父母の協議によりその一方を親権者に定めなければならず(民法第819条第1項)、その協議が調わない場合又は協議ができない場合に家庭裁判所が協議に代わる審判を行うことになっているのは(同法第5項)、協議離婚の場合には、一方で協議離婚の時点で父母の一方を親権者として定めるべきであるという単独親権のルールがあり、かつ、それを定められない場合の原則ルール(デフォルトルール)がないためではないだろうか。

この点、出生前離婚や認知の場合、協議離婚と異なり、父母の一方を親権者として定めるべきであるというルールはなく、むしろ、母が親権者となることがデフォルトルールとなっている(民法第819条第3項・第4項)。

にもかかわらず、協議ができない、というのはどういう状況かというと、母が親権を放棄したいという場合に、父も親権を希望していないという状況である。これは、母による「親権の辞退」であり、やむを得ない事由がある場合に家庭裁判所の許可を得て(民法第837条第1項)、初めてできることなのではないだろうか。

他方で、民法が共同親権のルールに変わると、父も親権を行うという場合に協議又は協議に代わる審判により後発的に共同親権に至る可能性はあり、母の親権の辞退など考える必要はなく、特段おかしなルールではなくなる。

(2) 親権行使に関する規律の整備

要綱案たたき台では、次の(1)から(3)のとおり提案されている。
概要は下図のとおりである。

(1)まず、原則として、父母双方が親権者となるときは、親権は父母が共同して行う。ただし、他の一方が親権を行うことができないとき又は子の利益のため急迫の必要があるときは、父母の一方が単独で親権を行う。

(2)また、親権を行う父母は、上記原則にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為を単独で行うことができる。

(3)特定の事項に係る親権の行使について、父母の協議が必要であるにもかかわらず、父母の協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権を父母の一方が単独で行うことができる旨を定めることができる。

2023年8月29日筆者作成
2023年8月29日筆者作成

これは、家族法制部会第26回会議部会資料26のとおりである。

2023年8月27日筆者作成

このルールは、親権の共同行使が必要な事項は何か、つまり一定の重要な行為や場面を想定し、それ以外については単独行使を認めるというものではなく(原則が狭く例外が広い)、広く親権の共同行使が必要であるが、父母の一方が親権を行えない場合若しくは父母の一方が親権を行えるとしても緊急性が高い場合、又は監護教育に関する日常的行為以外は、例外的に親権の単独行使を認めるというものである(原則が広く例外が狭い)。

これは、部会資料26を参考にすると、昭和22年の民法改正の際の背景事情、つまり「親権行使を父母の一方のみの判断に委ねるよりも、父母双方がその責任を負い、双方の関与の下で意思決定がされるものとした方が、子の利益の観点から望ましいことが多いとの価値判断」を活かしているものと考えられる(部会資料26・6頁)。

なお、かかる価値判断からは、必ずしも離婚後の父母の親権のみならず、婚姻中の父母の親権についても、要綱案たたき台のようなルールは妥当すると思われる。現に、家族法制部会第26回会議でも、「婚姻継続中の親権の共同行使の規律…との連続性を考えて検討すべきではないか」という意見もあったところであり(同議事録9頁〔大村部会長発言だが直前の小粥委員の発言を引き取ったもの〕)、部会資料26にも「父母の離婚後にその双方が親権を有する場合の規律のみならず、父母の婚姻中における親権行使の在り方についても、規律の整備が必要となるとの考え方がある」と記載のとおりである(2頁)。

また、現行民法下においては明文のない、子の利益のために緊急性の高い事項や日常生活において随時発生する事項について、原則に対する例外ルールとして明文を置くことは、子に関するあらゆる事項が共同行使の対象ではないことを示す意味で大きな意義がある。

その上で、「財産管理等の場面を念頭に、父母の意見が一致しない場合には、多くの場合には子の利益から考えて財産の処分を許さないとする方がよいであろう」という価値判断は活かさず(部会資料26・7頁)、父母の意見不一致により親権行使がされないことが却って子の不利益になる場合を想定し、家庭裁判所における意見調整を可能とするよう提案されている。

父母の意見が一致しない場合の対策・対応が必要であり、その場合には第三者を介入させる選択肢を用意する必要があることについては賛成だが、次の2つの疑問がある。

1つは、家庭裁判所である必要はあるのだろうか。

つまり、親権を行使しなければならない場面は、概ね切迫している状況が多いものと予想されるが、家庭裁判所は数日ないし十数日で審判を行うことができるのだろうか。(あまり詳しくないが調停前置は不要?)

もう1つは、ここでの判断事項は、子の利益のためであることは前提として、その上で、父母いずれの意見がより子の利益のためになるかであると思われるが、家庭裁判所ですら判断不可能なことなのではないだろうか。

例えば、海外留学のケースでは、留学先の学校との在学契約の締結者は父母であるにせよ、海外留学では居所の変更を伴うことから、親権の1つである監護権のうち居所指定権が問題となる。このような場合、そもそも海外留学をさせるかさせないかで揉める可能性があり、海外留学をさせるとしてどの国・地域なのか、期間はどうするのか、国は決まったとして寮に入れるのかホームステイさせるのかなど様々な選択肢がある。
(このケースでは、子自身に一定の意見がありそうな場面であるため、最終的には子の意見を聞いて判断するのかもしれないが)

要綱案たたき台の提案では、「家庭裁判所は、…定めることができる」とあるが、父母どちらの意見がより子の利益になるのかを判断し「定める」ことは困難であり、基本的には調停のような父母間の協議・合意を探るための補助を第三者が行うことしかできないように思われる。

そうすると、結局、家庭裁判所である必要もなく、ADR機関や基礎自治体等でよい気がする。

なお、父母の意見が一致しない場合の対策・対応としては、次のものが現行民法下の実務としてあるようだが、いずれもぱっとしない。特に、1点目は親権停止の要件を満たすとは限らないし、3点目は調停に過ぎず解決方法として心許ない。

  • 他の親権者による親権行使が不適当であることにより子の利益を害するとして、家庭裁判所に対し、他の親権者の親権の停止の審判を求め(民法第834条の2)、その申立てと同時に、審判前の保全処分の申立て(家事事件手続法第174条)をして、他方の親権者の職務を停止し、又はその職務代行者の選任を求める

  • 監護に関する事項(例えば、子の居所の指定変更に関する事項)については、 実務上、民法第766条の類推適用により、家庭裁判所が、父母の婚姻中においても、子の監護をすべき者その他子の監護について必要な事項の定めをする

  • 夫婦関係調整調停等の手続の申立てをする

(3) 監護者の定めがある場合の親権の行使方法等

要綱案たたき台の提案

⑴  父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者又は監護の分掌(分担)については、父母の協議により定めるものとし、この協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所がこれを定めるものとする。
⑵  子の監護をすべき者が定められた場合には、子の監護をすべき者は、民法第820条の監護及び教育、同法第822条の居所指定【及び同法第823条の職業許可】を単独で行うことができるものとする。
⑶  子の監護をすべき者が定められた場合には、親権を行う父母(子の監護をすべき者であるものを除く。)は、上記⑵の規定による子の監護をすべき者の行為を妨げない限度で、上記1の規律(注:親権行使に関する規律)に従って、監護及び教育に関する日常の行為を行うことができるものとする。

要綱案たたき台3頁

筆者自身、この提案やそれに関する補足説明が何を言っているのかよくわからないところがあるのだが、背景事情等から順に説明を試みる。

共同親権の場合に監護者の定めを検討する意味

現行民法では、協議離婚の際に「子を監護すべき者」(同法第766条第1項)、つまり監護者を定めることとされており、その他の場合、つまり婚姻中ではあるが別居中で、かつ、婚姻関係が破綻しているような状態の父母についても監護者が指定されることがある(後者の場合は民法第766条第1項類推適用)。

上記のとおり、要綱案たたき台では共同親権を中心に検討しているところであり、離婚後共同親権となった場合の父母についても、監護者の定めが必要かどうかがここで問われていることである。

その検討の前提として、親権者がいる場合で、それとは別に監護者がいる場合の親権者や監護者の権利義務の関係を確認する必要がある。

簡単に復習であるが、まず、現行民法における「親権」やその内容の1つである「監護権」とは下図のとおりである。

2023年8月25日筆者作成

その上で、①親権者のみが存在するパターン、②親権者のほかに監護者が指定されているパターン、③親権者でも監護者でもなく、事実上(現実に)子の面倒を見ているパターン、④親権者でも監護者でもなく、子の面倒を見ていないパターンの計4つのパターンに分けられるのではないかというのが下図である。

部会資料12を参考に2023年8月25日筆者作成

この点、上図にもあるように、特にパターン②において、親権者のほかに監護者が指定されている場合、親権者の監護権が監護者に切り出されてしまう(親権者に監護権が残らない)のか、あるいは、監護者は親権者由来の監護権をもつが監護権は引続き親権者に留保されるのかが問題となる。

仮に後者の解釈を行ったとしても、「親権者と監護者の双方ともが身上監護権を行使することがで きるものとした上で、身上監護について意見対立が生じた場合には、監護者と指定された者の判断が優先されるものとする考え方」もある(中間試案の補足説明23頁)。

ここまでは現行民法、つまり離婚後単独親権制度を前提としているが、これが離婚後共同親権制度になると、上図パターン②aは監護者ではない親権者、パターン②bは監護者である親権者ということになる。

2023年8月29日筆者作成

この問題については、下記「監護者の定めがある場合の親権の行使方法等」参照。

ここで本題である、離婚後共同親権となった場合の父母についても、監護者の定めが必要かという点に戻るが、これについては賛否両論ある。

つまり、離婚後共同親権の場合に、監護者の定めが必須であると考える謎見解があり、その主な理由は次のとおりである。

  • 離婚後の父母が、子の養育をするに当たって、日常的な事項に関する決定や事実としての監護教育を常に共同することは困難

  • 監護者の定めをすることなく、日常的な事項についても父母間の協議に基づいて親権を行う必要があるとすると、父母間の意見が対立したときに適時の意思決定をすることが困難となる結果として、子の最善の利益を害することとなりかねない

しかし、このいずれも、共同親権の行使方法にかかわる問題であり、上記「(2)親権行使に関する規律の整備」で説明したとおり、監護・教育に関する日常的な事項については監護親が単独で親権を行うことができるように提案されている。したがって、そのために監護者を指定する必要性はない。

ちなみに、「監護者が定められていない場合においても、実際に子と同居してその監護教育をするのは父母の一方のみであることがあるが、そのような場面では、父母間の明示的又は黙示的な協議により、日常的な事項に関する決定や事実としての監護教育を同居親に委ねたものと整理することができる場合が多いのではないかとの考え方があり得る」(中間試案の補足説明25頁)。

このような観点から、要綱案たたき台では、部会資料26同様、「監護者の定めを一律には要求しないものとしている」とのこと(補足説明13頁)。

なお、要綱案たたき台によると、協議離婚の際には、監護者の定め又は「監護の分掌(分担)」を父母の協議により定めるものとされ、協議が調わなければ家庭裁判所がこれを定めるとされている。一見、これを読むと監護者の定めを要求しているのではないかと疑問を抱く。

おそらく、監護者の定め又は「監護の分掌(分担)」とされ、両者を繋ぐのは「又は」であること、また、これは現行民法第766条第1項を意識した提案となっているところ、同条項は、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める」と定めており、監護者や「監護の分掌(分担)」は「その他のこの監護について必要な事項」の例示に過ぎず、それぞれを定めることを一律には求めていないという整理だろう(相当わかりづらい)。

(参考)監護者の定めの要否に関する家族法制部会委員・幹事の賛否

家族法制部会第26回会議議事録をもとに2023年8月28日筆者作成
※元々は中間試案や部会資料25から27を検討するために作成した資料
家族法制部会第26回会議議事録をもとに2023年8月28日筆者作成
※元々は中間試案や部会資料25から27を検討するために作成した資料

このように、合意型共同親権制度を認めるかどうかの賛否と一律監護者の定めを要することの賛否が対になっている点が興味深い。つまり、合意型共同親権制度に反対していた委員・幹事は、一律監護者の定めを要することについて賛成し、また合意型共同親権制度に賛成していた委員・監事は、一律監護者の定めを要することに反対している。

監護の分掌(分担)

唐突感はあるが、中間試案の補足説明においても似たような指摘はあり(中間試案の補足説明24頁)、また「離婚後の父母双方を親権者と定める場合においてもその一方を親権者と定める場合においても、子の監護に関して、父母の一方を監護者と定めたり、父母間で子の監護の分掌(分担)に関する定めをしたりすることがあり得る」との意見があったようである(補足説明13頁)。

なお、監護の分掌(分担)は、現行民法第766条第1項の「この監護について必要な事項」として読み込めるという考え方もあり、あえて明文化する意義は乏しい上、分掌(分担)の結果、他方の親権者からその部分にかかる監護権が切り出されてしまうのか、留保されるのか、親権者と監護者の問題と同じ問題に直面しなければならない。(一応の対応としては下記「監護者の定めがある場合の親権の行使」のとおり)

おそらくは、妥協の産物である。

監護者の定めがある場合の親権の行使

上記のとおり、監護者の定めは一律に求められない可能性が高いが、かといって、監護者の定めをすることは妨げられない。

そこで、親権者(監護者ではない)と親権者(監護者)の権利義務の整理が必要となる。

それが、上記「要綱案たたき台の提案」のとおりであり、概要は下図のとおりである。

2023年8月30日筆者作成

特に重要なのは、監護親が居所指定権(民法第822条)を単独行使できること、非監護親は監護親の居所指定権の結果を否定できないところである。

この点、現行民法下においては、別居状態の父母につき、「父母の意見の一致がないにもかかわらず、父母の一方が子の居所を変更した場合には、現在の裁判実務において、 家庭裁判所が、父又は母の申立てにより、子の利益の観点から、監護者の指定及び子の引渡しの審判をするかどうかを判断するなどの対応が図られており、民事執行法には、子の引渡しを命ずる審判の強制執行の規律が整備されている」(部会資料28・4頁)。

それと平仄を合わせる形にするとすれば、監護者に指定されている親権者が単独で子の居所指定権を行使できるとすることは整合的である。

しかし、「子の転居が、監護をすべき場所の変更にとどまらず、別居親と子との交流に重大な影響を与え得る」として、「監護者の指定がされた場合であっても、居所指定権が親権者に留保されるべきであるとの考え方(すなわち、子の居所の指定・変更に関する決定に親権者も関与するとの考え方)」もある(部会資料28・5頁)。

監護者ではない親権者の立場で子の利益を考えたときに、例えば、「子と同居する監護者の転勤等の事情に伴い、子と同居親が転居する場合や、子が遠方の学校に進学するなどの事情により、子のみが転居する場合」(部会資料28・5頁)には、監護者の居所指定権を否定することは難しいと考えられるが、「監護者による身上監護権の行使の結果として、正当な理由なく、(監護者でない)親権者による親権行使や親子交流の実施を事実上困難とさせる事態を招き、それが子の利益に反する場合もあり得る」ことから(部会資料28・4頁)、監護者の居所指定権を否定することが必要ではないか。

以上


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