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劇小説「メイド喫茶へいらっしゃい!」~第三幕~(全六幕)

【舞台】天神スタシオン店内


(ヒロ、いちご、まゆが話している)

(高島(65歳)が店に入ってくる)

(麦が高島を出迎える)

まゆ「なんか素敵なお話ですね。私泣けちゃいました」

ヒロ「もう昔の話ですよ。みなさん、国鉄なんて知らないでしょ! でも立派なコックと素敵なメイドさんでした」

いちご「でも、自分がやってるお給仕のこと、そんな風に考えたこと無かったです。でも、そのななせさんとはその後どうな……」

(麦がいちごのところへ慌ててやってくる)

麦「いちごさん、お話し中すいません、ちょっといいですか?」

いちご「どうしたの?麦ちゃん」

麦「あちらの方が責任者をお願いしたいって言われてるんですが」

いちご「責任者? 分かった。まゆちゃん、こちらのご主人様お願いしておきますね。申し訳ありません、話の途中で失礼いたします」

(いちごが高島のそばに行く)

いちご「ご主人さま、お帰りなさいませ。初めてのご帰宅ですか?」

高島「いや、私はそういうのじゃないんだ」

いちご「はいっ?」

高島「今、ちょっとよろしいかな?」

いちご「はぁ?」

(いちごと高島がしばらく話している)

(しばらくして、いちごの表情が険しくなる)

(高島がいちごに何かを言って立ち去る)

(呆然と立ち尽くすいちごの元に麦が駆け寄る)

麦「いちごさん、あの人、なんだって?」

いちご「……あの人、このビルの新しいオーナーなんだって。それでこの店のこと……あぁ、どうしよう?」

(いちごが意識を失い、フラッとして倒れそうになる。麦がいちごの身体を受け止める)

麦「いちごさん? いちごさん?」

(照明OFF)

(照明ON)

(まゆ、麦、ララ、ヒロがいちごの周りに集まっている)


(いちごの意識が回復する)

いちご「ん~~」

ヒロ「いちごさん、大丈夫ですか?」

(いちごは状況がすぐには理解できない)

いちご「……あっ、私。すいません。大丈夫です、少し立ちくらみがしただけですから」

ヒロ「さっき来店したお客さんと何かありました? 顔色が良くないですよ。あの人と何の話をしたんですか。まさか、変なクレームでも言われたんじゃありませんか?」

いちご「あ、いえ、……なんでもないです」

麦「いや、あの人、このビルのオーナーだって言ってたんでしょ? いちごさん、みんなに話を聞いてもらった方が良いんじゃないですか?」

いちご「麦ちゃん……」

ヒロ「えっ? そうなんですか?」

いちご「あ、いえ、すいません、実は、……ごめんなさい。ご主人さまに相談するようなことでもないのですが……」

ヒロ「あまり気にしないでください」

いちご「本当にすみません。私も良く状況が飲み込めてないところもあるのですが、少しだけ聞いていただけますか? せっかく、

ご主人さまの素敵な話を聞かせてもらっていたのに」

ヒロ「いや、自分の話は昔の話だから構いませんよ。私こそ、この店初めてなのに、何かあつかましくて申し訳ないです。でも、お店の雰囲気も気にいったので、何かお役に立てることが出来ればと。いったい、何の用件だったんですか?」

いちご「はい、あの人は前の持ち主からこのビルの権利を譲渡してもらったって言うんです。それで前のオーナーと交わした契約では、オーナーの意向に合わないお店を追い出せることになっているから、このビルから立ち退いてくれって。しかも三ヶ月以内にって。契約書も見せられました。(混乱しながら)いったい、どうすればいいの?」

麦「いちごさん、少し落ち着いて」

いちご「でも……」

ヒロ「いちごさん、新しいオーナーはどうして、出て行けって言ってきたんですか? 理由は何か言われませんでしたか?」

いちご「オーナーが言われたのは、このお店がビルのテナントの人に悪い印象を与えているから立ち退いて欲しいってことでした。ご主人さまやお嬢様の服装が奇異だからって」

ヒロ「メイド服がですか?」

いちご「いや、メイド服もありますが、ここは色んなイベントでコスプレとかをすることもありますので、たぶんそのことを言われてるのじゃないかと。私たちはお店の外でメイド服を着て出かけることはないのですが、お店に来る方がよくビルの外で行列を作っていらっしゃるので……」

ヒロ「ああ、そういうイベントもやっているんですね」

いちご「このお店は、私が祖母に頼んで十年も前からやらせてもらっているんです。東京で行ったメイド喫茶が気に入って、自分もメイドをやりたいって思ったんですが、当時の福岡にはお店が無くて。その時、祖母が『自分でやってみればいいじゃない?』と店舗を借りてくれたんです。私が経営を任せてもらって、もう十年以上やってきて、やっとお客さまも定着してきたのに」

ヒロ「新オーナーがどこまで本気で出て行けって言うのかがよく見えないけど、もしかすると各テナントの賃貸料をつり上げるための作戦かもしれません。最初に出て行けって言っておいて、出たくなければ賃料を値上げするぞってね」

いちご「えっ?そんなこと」

ヒロ「あっ、ごめんなさい、可能性の話ですよ。あまり想像で悪く考えない方が良いですね。忘れてください」

いちご「メイド喫茶についてオーナーは悪い印象しか持ってなさそうでした」

ヒロ「私もメイド喫茶は今日が初めてですけど、どのような店なのかは知りませんでした。でも、この店については普通のカフェって感じしかしませんけどね。オーナーもメイド喫茶を良く知らないだけじゃないですか?」

いちご「確かにメイド喫茶といっても色々あって、外で呼び込みしたり、メイドと外でデート出来たりする店もあるんです。メイドの格好の風俗店もあるようですから、そんな店のイメージが先行してメイド喫茶全てがそういう風に思われているんです」

ヒロ「もしも、オーナーが店への先入観で立ち退きを言っているのなら、まず誤解を解く方法を考えないと。私も五十になるけど、オーナーぐらいの人はもっと嫌悪感があるかもしれないね」

いちご「どうすれば良いですかね?」

ヒロ「このお店にはメイド喫茶を目的としないで、ただ食事とかお茶とかをしにくる人はいないの?」

いちご「そういう人はあまりいませんね。一応メイド喫茶として営業していますからね」

ヒロ「そうだね。ここはオタク……じゃなかった。アキバ系のひとたちの隠れ家的な場所って感じがするよね。開店は十五時になってるけど、一般の人たちが昼を食べに来ることもないの?」

いちご「以前はランチをやってたことももあったんですけど、そんなにお客さん来なくてやめちゃったんです」

ヒロ「なるほどね」

いちご「工夫はしたつもりなんですけどね」

ヒロ「でも、ここは天神だから会社勤めや買い物客、そして観光客が、たくさんいるからランチの需要は絶対あるはずだよ。オフィス街なら、みんながみんな今日のお昼をどこで食べようと考えてるからね」

いちご「そうですよね」

ヒロ「ランチに人が集まらなかったということは、やはりメイド喫茶として営業してるからだと思うよ。やっぱり普通の人は入りにくいし、毎日の昼ごはんとしては割高だしね」

いちご「……はい、そうですね」

ヒロ「いい? ここは秋葉原ではなく、あくまでも天神だから、天神の雰囲気にあったメイド喫茶になる必要もあるんじゃないかな。オーナーの言うことは確かに歯がゆくも思うけど、ここはビジネス街であることには間違いない。冷静に相手の立場になって考えれば自分たちの店がどう見られているかということへのアドバイスともとれるよ」

いちご「それはそうですけど……」

ヒロ「例えばだけど、平日はオフィスの人たちのために普通のレストランにして、土日と祝日だけメイド喫茶として営業するってのはどう?」

いちご「平日と休みでお店を変えるということですか?」

ヒロ「そう。少し無責任なことを言ってるように聞こえるかもしれないけど。でもランチタイムはお客さまの層を広げるためには有効だと思うよ。それに、もし……」

いちご「もし、もし何ですか?」

ヒロ「いや、このビルの人たちを味方につけれたらと思ったんだけどね。そうすれば、新しいオーナーの考えを変えることが出来ないかってね」

いちご「そんなことが……出来るんでしょうか?」

ヒロ「さっきも言った通り、この地区で働いている人たちは、毎日の昼ごはんをどうしようかって考えないとといけないんだよね。食事は楽しいことでもあるけど、ある意味毎日の悩みでもあると思うんだ。同じビルの中に良い食堂があれば、みんな喜んで利用してくれるんじゃないの?」

いちご「はい、そうですね。天神にあったメイド喫茶、天神にあったスタイル……このビルの人たちのためになるお店ですよね。何か新しい店が見えたような気がします。少し考えてみます」

ヒロ「出来るかどうかは解らないけど、とにかくやってみよう」

いちご「ありがとうございます。少し元気が出ました」

(メイドの姫が店に入って来る)

姫「ただいま」

麦「おや姫ちゃん、どうしたの? 今日、お給仕じゃないでしょ?」

姫「うん、ちょっと犬丸デパートで北海道展やってたんで。はい、いちごさん、これ差し入れっ」

いちご「わぁ、いつもありがとう。でも毎回差し入れてしてくれるのは嬉しいけど、お小遣いの方は大丈夫?」

姫「なんとかですね。でも、街歩きしてると色々買いたいの見つけちゃうんですよね。この前なんか漫画の『龍玉』に出てくるヤサイ人のスカウター見つけて思い切り衝動買いしちいました」


麦「あんた、相変わらず戦闘ものが好きよね」


姫「へへっ! あと、これツーピースの限定ストラップ。ポルコで今日までやってて、ギリセーフでした」

麦「えっ、イベント今日までだったっけ? 忘れてた〜、マジ、ショック〜! いいな〜」

姫「麦さんって、いつもイベントが終わった後に気づきますよね」

麦「そうなの、誰か今日ある天神のイベント、まとめて教えてくれたら良いのに」

(姫と麦の会話を聞いていたいちごが考え込む)

いちご「うーん」

麦「いちごさん、どうかしました?」

いちご「いや、天神のイベント……か?」

麦「イベントが何か?」

いちご「いや、私たちっていつも天神にいるので、天神でやっているイベントは、結構チェックしてるじゃない? でも、天神に時々遊びに来るひとはどれくらいイベントのこと知ってるのかなと思って」

麦「新聞の広告とか、今はスマホでも調べられるんじゃない?」

いちご「そうだけど……でも、スマホで天神のイベントって検索しても、なんか今ひとつじゃない? 確かに大きなお店はホームページに載ってるけど、無いお店も多いし……」

ヒロ「ここには色んな人が来るから、ここで情報集めて、お客さんに教えてあげたらみんな喜ぶんじゃない?」

いちご「そう、それなんですよ。姫、あなたグッジョブよ! ヒロさん、本当にありがとうございます」

姫「なになに? いったい、みんなで何の話をしてたの?」

麦「いや、今お店がピンチになってて……みんなで良い方法はないかって話してたの」

姫「お店がピンチって、どういうこと?」

(麦が姫の耳元で囁く)

麦「ピンチってね……」

姫「ええ〜っ! お店無くなるの~、超ショック〜!」

(姫が気絶する)

ヒロ「いちごさん、お店の人みんなが集まれる時間を作れないかな?」

いちご「あ、はい。一週間後でよかったら、月一の打ち合わせがあるので、ある程度は集まれると思いますけど」

ヒロ「じゃ、その時にみんなを出来るだけ集めておいてください。僕も出来る限りのことをしてみますから。あと、何かランチの関係で料理のことで相談があれば遠慮なく訊いてね。役に立てることがあるかもしれないよ」

いちご「色々とすみません。はい、よろしくお願いいたします」

 第四幕へつづく

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