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ずる 嘘とごまかしの行動経済学

偽物の服を着ると、ウソがつきやすくなる!?

イグノーベル賞受賞のデューク大学教授が、ユニークな実験で明らかにする、誠実さとウソの本質。

創造性と不正行為の関係とは?

偽物を身につけるとごまかしをしたくなるという驚きの事実。

そして、創造性の高い人は不正をする度合いも高いという意外な関係。

今すぐ本書を読んで、人間の行動の謎を解き明かしましょう!





序章

この本の一番の目的は、不正行為を駆り立てると考えられているが、(これから見ていくように)実はそうではないことが多い、合理的な費用便益の力と、重要でないと思われがちだが、実は重要なことの多い、不合理な力について調べることにある。
これからの章で説明する研究が、私たちの不正な行いを引き起こす原因を明らかにするとともに、そうした行いを減らし、抑える興味深い方法を示すうえで役立つことを、心から願っている。


不正行為を検証する

不正に対する考え方(SMORC)は、三つの基本的要素からなっている。
①犯罪から得られる便益
②捕まる確率
③捕まった場合に予想される処罰
合理的な人間は、最初の要素(便益)と残りの二つの要素(費用)とを天秤にかけて、一つ一つの犯罪が実行に値するかしないかを判断できるというのだ。

そこで、人がどうやってごまかしをするのかをもっと詳しく調べるために、実験をした。
紙には数字の行列が20並んでいる。
二十問の行列内の数字の中から、足し合わせると10になる二つの数字を探すのが、彼らの仕事だ。
実験協力者は、五分の制限時間内にできるだけ多く問題を解き、正答一問につき50セントの報酬を支払われる。
こんな感じで実験を始めたが、五分間が終わった後の手順は、「実験条件」によって違っていた。

たとえばあなたは「対照条件」の協力者で、時間内に問題に取り組み、実験者の所に解答用紙を提出する。
実験者はあなたの解答を調べてから、正解分のお金を渡す。
次に、あなたがごまかしのチャンスのある「破棄条件」に入れられたと想像して欲しい。
この条件は対照条件と同じだが、違いが一つだけある。
それは五分が終了した時点で、実験者はこんな指示を与えるのだ。「これで試験は終わりです。正答した問題の数を自分で数え、作業用紙をシュレッターで破棄してから、正答数を私に教えて下さい。」
二つの条件の結果から、協力者がごまかしの不可能な「対照条件」であげた成績と、ごまかしが可能な「破棄条件」で自己申告した成績とを、比較することができた。
結果は、予想通りと言ってもいいだろう。
ごまかしのチャンスがあった「破棄条件」の協力者が実際に得点をごまかした。
「対照条件」では、協力者の平均正答数は二十問中四問だったが、「破棄条件」の協力者が申告した正答数は平均して六問と、対照実験を二問上回った。

こうして不正を定量化する基本的な方法を確立したことで、ごまかしを促す力、抑える力について調べる準備が整った。
SMORCの考え方によれば、ごまかしてもばれたり罰されたりせずに、より多くのお金が得られるチャンスがあるとき、人はもっとごまかしをするべきだということになる。
これは単純で直感的にわかりやすい考え方なので、次はこれが本当かを調べることにした。

数字探し実験にちょっと手を加えて、協力者が数字探しの問題を一問正答するごとに得る金額をいろいろに変えた(50セント~10ドル)。
ごまかしの量は、報酬の金額とともに増えただろうか?
結果は、協力者は一問正答するごとに得られる金額とは関係なく、自分の得点に平均で二点以上乗せして申告した。
それどころか、正答一問につき10ドルという最高額を約束されたとき、協力者のごまかしの量はやや少なめだったのだ。
このように不正が報酬金額にほとんど影響されなかったことを考えると、不正は費用便益分析(SMORC)の結果として行われるわけではなさそうだ。
なぜなら費用便益の考え方でいけば、便益(報酬の金額)が大きくなればごまかしも増えるはずだからだ。
それに、なぜ報酬が最高額のとき、ごまかしの水準が最低だったのか、その説明もつかない。
報酬が一問につき10ドルになると、職場から鉛筆を一本失敬する程度のごまかしではなくなる。
要するに、私たちは「そこそこ正直な人間」という自己イメージを保てる水準でごまかしをするのだ。

実際、道徳心を呼び起こすものを使うと、少なくとも短時間はより正直な行動を比較的とりやすくなることははっきりしている。
納税申告書に記入する直前に、会計士に論理規定への署名を求められたら、また冠水した家具について、ありのままの事実を申告することを保険の担当者に宣誓させられたら、税金逃れや保険詐欺は起きにくくなる。
これらをすべてどう考えたらいいだろう?
第一に、不正の動機となるのは、主に個人の「つじつま合わせ」係数であって、SMORCではないことを認めるべきだ。
犯罪を減らすには、人が自分の行動を正当化する、その方法を変えなくてはいけないことを、つじつま合わせ係数は教えてくれる。
利己的な欲求を正当化する能力が高まると、つじつま合わせ係数も大きくなり、その結果、不品行や不正行為をしても違和感を覚えにくくなる。
また逆のことも言える。
自分の行動を正当化する能力が低くなれば、つじつま合わせ係数は小さくなり、不品行やごまかしに違和感を持ちやすくなる。
一つのごまかしが定着すると、そのせいで道徳規範が緩み、他の領域でもごまかしをする可能性が高まる。
肝心なのは、どんなものであれ、不正行為をとるに足りないものと片付けるべきではないということだ。
だからこそ、最も阻止すべきは最初の不正行為なのだ。


半楽観的なエンディング

私たちが不正について学んだことを、より広い視野に立って検討し、より一般的に合理性と不合理性について何かを学べるかを考えることには価値がある。
ここまで不正行為を促すとふつう考えられている合理的な力が、実は何の影響も及ぼさないことを見てきた。
また不正行為と無関係だと思われている不合理な力(道徳心を呼び起こすもの、現金からの距離、利益相反、消耗、偽造品、捏造した成績を思い出させるもの、他人の不正行為を目撃すること、チームメンバーへの思いやりなど)が、実際にはそうした行為を促すことがわかった。
どの力が作用しているか、どの力が無関係化を見抜けないのは、意思決定や行動経済学の研究に一貫して見られる傾向だ。

この観点からすれば、不正は私たちの不合理な傾向の最たるものだ。
不正はどこにでも見られるのに、私たちは自分がどうやって不正に魔法をかけられるのかを本能的に理解することができず、それに何より、自分が不正をするなどとは思ってもいないのだ。
これら全てには、よい知らせもある。
それは、私たちが人間的な弱点(不正を含む)を前に、決してなすすべがないわけではないということだ。
自分の「望ましいとは言えない行動」が、本当は「何によって」引き起こされているのか、それをより「よく理解」すれば、自分の「行動をコントロール」し、「結果を改善する方法」を見つけられるようになる。


『まとめ』

一つのごまかしが定着すると、そのせいで道徳規範が緩み、他の領域でもごまかしをする可能性が高まる。
肝心なのは、どんなものであれ、不正行為をとるに足りないものと片付けるべきではないということだ。
だからこそ、最も阻止すべきは最初の不正行為なのだ。
自分の「望ましいとは言えない行動」が、本当は「何によって」引き起こされているのか、それをより「よく理解」すれば、自分の「行動をコントロール」し、「結果を改善する方法」を見つけられるようになる。


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