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作家 長月達平の「#蓮ノ空感想文」-第7〜12話編-

『作家 長月 達平の「#蓮ノ空感想文」』とは?
ライトノベル作家である長月達平 氏が、『蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』(蓮ノ空)の活動やスクールアイドル応援アプリ「Link!Like!ラブライブ!」(リンクラ)についてアツく語る、『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』公式noteと長月達平 氏との投稿企画です。複数回にわたりお届けする企画となっており、今回はその第4回目の感想文となります。どうぞお見逃しなく!スキもぜひお願いします!

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■前書き

 前回までの『Link!Like!ラブライブ!』(以下、リンクラ)の感想文では、第6話までの『スリーズブーケ編』と『DOLLCHESTRA編』に触れさせてもらった。改めて物語を見返すと、一年を通して見届けてきた蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブのメンバーたちの関係性の変化と成長がしっかりと確かめられ、自分としても新たな発見がたくさんあった。
 そうなると、今回の感想文を通していったい何が見つかるだろうかと、このたびは第7話から第12話までのお話を堪能させてもらいたい。

■第7話『センパイとコウハイ』

『梢センパイにも綴理センパイにも、あんな顔一生しないで欲しい! ふたりのことが好きだから!』

 心に残る台詞に注目すると、やはり主人公とも言える花帆の言葉は響くものが多い。
 この第7話と第8話は続き物のエピソードで、第6話までの各ユニットごとのお話の決着後、花帆とさやかをスクールアイドルクラブへと導いた恩人であり、大切なパートナーである梢と綴理――二人の関係性について掘り下げる回となっている。
 学校新聞でスクールアイドルクラブの魅力を発信する役目を引き受けた花帆とさやかが、先輩二人を知ろうとするにつれ、昨年のスクールアイドルクラブに何が起こったのかを知っていくエピソードである。

 これまでのお話の中でも、昨年のスクールアイドルクラブの活動が満足いくものでなかったことは梢や綴理の発言、態度で察せられるものがあった。そこへ深く切り込んでいくと見えてきたのが、梢と綴理と同学年の部員と、彼女たちを導いた大先輩の存在だ。
 結論だけ言えば、大先輩はスクールアイドルを引退し、梢たちの同年代の部員は怪我をしたことが原因でスクールアイドルとしての活動に一線を引いている。そして、スクールアイドルクラブ存続のため、梢と綴理はラブライブ!へ出場するも――という話だ。

 拗れた梢と綴理の関係を知り、踏み込むことを怖がりながらも花帆は件の台詞を言い放ち、さやかと共に大切な先輩たちの過去を知ることを望む。
 ここで花帆が「あんな顔をしないでほしい」ではなく、「あんな顔一生しないでほしい」と表現するのが自分はとても好きだ。彼女の言葉はスケールが大きく、その上で飾り気がないので真正面からぶつけられると胸が詰まる。綴理の言葉を借りるなら、「眩しくて痛い」とでも言うべきものだ。
 花帆とさやかが解決したいのは、この瞬間の梢と綴理の問題だけではなく、この先にあるかもしれない彼女たちの顔を曇らせるあらゆる障害のことなのだ。
 それを感じられる雄大な一言に、自分は彼女の猪突猛進を応援したくさせられる。

『花帆さん、今日はもう消灯時間ぎりぎりですから。――パジャマで行っちゃいましょうか』

 主人公格である花帆の親友ポジションであり、その性格的にもフォロー役に回りがちなさやかの言動は、個人的にはオシャレなものが多い印象がある。
 受けや〆の美学とでも言えばいいのか、誰かのボケに対してのツッコミの立場を任されることも多いさやかは、そのテンポのいいやり取りの最後を託されがちだ。このあたりは梢も近い役回りなのだが、ユニットの相方である綴理の発言の突飛さ故に、会話を〆る頻度ではおそらくさやかの方に軍配が上がる。
 ともあれ、第7話のさやかの台詞ではこれが一番好きなものだった。
 一つ上で採用した台詞の通り、花帆たちは梢と綴理の過去に勇気を出して踏み込み、そして玉砕する。思い立ったら即行動の花帆の勢いは物語を強く牽引すると同時に、やはり存在する壁や落とし穴に衝突することが多い。
 しかし、それで腐らず状況の打開を図る花帆に、さやかは快く協力する。この台詞のやり取りは、そうした花帆とさやかの関係性の象徴的な場面と言える。
 さやかは花帆ほど、自分の感情や気持ちに素直にはなれない。それでも、花帆のように好きな相手に好きと言い、嫌なことを何とかしたいと口にするのは誰もが憧れる。さやかのこの一言は、「自分も花帆と同じ気持ち」と美しく告げていると感じるのだ。


■第8話『あの日のこころ、明日のこころ』

『••••••勝ちたかったから、やったのよ』

 前述の通り、第7話と第8話は続き物のエピソードであり、強いて言うなら『乙宗 梢と夕霧綴理編』とでもいうべきお話だ。7話では梢と綴理のギクシャクした関係性の理由を知るため、花帆とさやかが奮闘する姿を描き、この8話ではそのギクシャクを解消するために梢と綴理が悪戦苦闘する様子が描かれる。
 7話で花帆とさやかの出した結論――梢と綴理だけで解決できない問題も、今は自分たち一年生がいるから四人でなら解決できる、というものは非常に美しい。
 時間の経過と環境の変化、永遠に解決できないと思った問題も、そうした周辺事情が変われば違った解法が見えてくることは多々ある。が、当事者は負い目もあって足踏みしている印象が否めないから、余所から言われるまで気付けない。
 ギクシャクが解消できるものならそうしたいと、梢と綴理も思っていた。だから、花帆とさやかの言葉に期待し、二人の提案に乗ってみる――という話だ。

 乗ってみると表現したが、個人的には縋ってみるに近い必死さがあった話だった。
 梢と綴理の間にあったギクシャクの原因とは、昨年のラブライブ!で、地区予選突破後にその後の大会への進出を辞退した経緯にある。
 梢と綴理の同学年の部員が怪我をし、二人でスクールアイドルクラブを続けていた梢たちは、地区予選のステージで素晴らしいパフォーマンスを披露する。――しかし、それは梢と綴理の二人にとって、万全のパフォーマンスではなかった。
 綴理のパフォーマンスに対し、自分の力不足を感じた梢は本番で振りを変更し、ステージは成功したものの、綴理の信頼を大きく損ねる結果になったのだ。
 その理由を問い質したのだろうか。詳細までは描写されない二人の過去の中、梢は『……勝ちたかったから、やったのよ』とそう自分の選択の理由を告げる。

 書いていて思ったが、この選択の理由……はっきりと言い訳と言ってしまおう。この言い訳を口にしたとき、綴理が理由を聞くより先に梢が言ってしまった気がする。
 練習と違うことを本番でしたのだから、綴理が梢の行動に驚いて理由を聞きたがるのは当然だ。頭のいい梢のことだから、実際に振りを変える瞬間にも色々なことが過り、ステージが終わったあとのことにも考えは巡らせたはず。
 そこで出た言い訳が「勝ちたかったからやった」という、非常にそれらしくあり、同時に梢自身も自分で納得できてしまう、無意識に本心から目を背けた答えだった。

 このとき、梢にはどうしても地区予選を突破したい理由があった。
 それは彼女が入学時から言い続けている「ラブライブ!優勝」のためではなく、余所の学校からスカウトのあった綴理に活動実績を作り、彼女の引き抜きを阻止することでスクールアイドルクラブの廃部を免れること――と、梢自身も思っていた。
 この感情は途中までは正しく、最後の結論の部分で感情より論理を優先している。
 賢く、冷静な梢は感情的に振る舞うことが得意ではなく、自分の行動を俯瞰してみたときに、より論理的で納得性の高い結論の方に考えが流れた。
 しかし、人間の感情というものは理屈ではない。

 7話で綴理のことを聞かれたとき、梢は彼女への印象をこう答えている。
 昨年の出来事、それは端的に言えば、梢が綴理のことが大好きで、綴理と離れたくないがために懸命に絞り出した苦肉の策だったのだ。
 梢自身も気付いていなかった気持ちを自覚し、それを真っ向から綴理にぶつける勇気を花帆からもらった彼女は、去年は自分でも知らなかったから言えなかった自分の気持ちを綴理にぶつけて、二人の間のわだかまりは解消される。

『あなたたちと一緒に、最高のライブがしたいからよ!』

 もう何も怖くない。
 これにて蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ、完全体である。


■第9話『ルリ・エスケープ』

『だって、ひとりで考えてうまくいかなくっても、みんなで考えたらもしかしたら、抜け道とかあるかもしれないじゃん!』

 蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ完全体と言ったな。――あれは嘘だ。
 というわけで、第9話と第10話も続き物のエピソードで、リンクラの開始時から当然のように存在の示唆されていた大沢瑠璃乃と藤島 慈の物語である!

 前回までのお話で盤石となった四人のスクールアイドルクラブに、カリフォルニアからの帰国子女である大沢瑠璃乃が入部を希望してくる。
 明るくコミュ力の高い瑠璃乃は、その溌溂さで花帆と意気投合し、さやかに「長年の友達のよう」と言わせるほど速攻で打ち解け、スクールアイドルクラブの前途は明るいと希望を抱かせる。――が、素直に五人目が加わってチャンチャンとは問屋が卸さない。
 一癖も二癖もある蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブのメンバーなのだから、当然、瑠璃乃も問題児だ。

 自分の問題を『充電切れ』と称する瑠璃乃は、自分にも周りにも楽しい環境を提供するために常に気を張り続け、気持ちのバッテリーがもたなくなる性質がある。
 通常は明るくハキハキと、どんな話題にも抜群の吸着力でくっついて話を広げていく彼女は、充電が切れた瞬間にミジンコになる。別人のような変わりようだ。
 第9話のお話では、そんな自分の性質が理由でスクールアイドルクラブに迷惑をかけたくないと、入部して即退部という思い切りの良すぎる決断をしようとする瑠璃乃を、全員で一丸となって一緒に頑張れる方法を探す、というものだった。

 奮闘する花帆たちに、瑠璃乃は出会って間もない自分のために色々とアイディアをひねり出すのはどうしてなのかと聞く。それに対する花帆たちの答えが『だって、ひとりで考えてうまくいかなくっても、みんなで考えたらもしかしたら、抜け道とかあるかもしれないじゃん!』というものだった。
 これもまた、自分の好きな花帆流の言い回しでたまらない。ここであえて「抜け道」なんてちょっとズルをするみたいな言い方をして、聞いている相手にスッと滑り込んでくる言葉を選んでくるのが、花帆の人たらしたる所以であるとも思う。
 また、個人的にはこの台詞を口にしたときの花帆以外の三人が、花帆の言葉に「その通り!」とばかりに自信ありげな顔をしているのも微笑ましい。
 なにせ、彼女たちは自分だけでどうにもならなかった問題を、誰かと寄り添い合うことで解決した実績を重ねてきたものたちだ。むしろ、得意分野の話である。

 自分のために誰かに頑張らせるのは好きじゃない。
 頑張るということは無理をすること、というのは多くの人の共通認識だろう。しかし、瑠璃乃にスクールアイドルを続けさせたいと考え、あれこれとアイディアを出してくる四人の姿は無理して頑張っているものに見えるだろうか。
 少なくとも、瑠璃乃にはそう見えなかった。もちろん、プレイヤーである自分もだ。
 だから瑠璃乃は自分の殻を破って、自分と一緒に頑張りたいと笑って言ってくれる彼女たちの手を、自分も笑って取ることができたのだと思うのだ。

 なお、9話の中で自分が一番好きな絵がこれである。
 馬鹿げた結論を自信満々に打ち出す花帆と、「たぶん違うのでは?」と思いながらもちゃんと花帆に付き合っているさやかの死んだ目が非常に快い。
 なお、意外とちゃんとぼっちハウスは役立つことになるので、花帆の意気込みとさやかの苦労が無駄にならずに済んで、微笑ましい一コマである。


■第10話『ルリめぐ・ファンファーレ』

『もちろん、ダンスをしないスクールアイドルがいてもいいと、私は思うよ。けどね、それは私の思い描いた夢の形じゃないんだ』

 大沢瑠璃乃がスクールアイドルクラブに正式加入を果たすと、彼女は「めぐちゃんとユニットを組む!」と宣言し、新たなる波乱を呼び込んだ。
 さて、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブの六人目のメンバーは、これまでにもたびたび存在の示唆された梢と綴理の同級生である藤島 慈である。――先に所属していたのだから、正しくは梢と綴理に続く三人目のメンバーの方が適切かもしれない。
 瑠璃乃の幼馴染みであり、カリフォルニアに留学中の彼女をスクールアイドルに誘った慈は休部中――ステージでのパフォーマンス中に負った怪我が原因で、舞台上で踊ろうとすると足が竦んでしまう状態だった。

 精神的なトラウマが原因で、それまで当然のようにできていたことができなくなることは、スポーツでも芸術の分野でも牙を剥く。慈もその心の傷を克服できず、スクールアイドルへの復帰ができずにいる一人だ。

 第9話で花帆たちは、瑠璃乃に「スクールアイドルは自由だ」と語った。
 どんなスクールアイドルがいてもいい。どんな風に咲くのも自由だと、花の美しさに貴賤がないようにスクールアイドルを語った花帆たちに瑠璃乃は目を輝かせる。
 みんなが一つの場所で楽しむために、みんなが同じ方向を向いて同じことをしている必要があると考えていた瑠璃乃には、そのスクールアイドルの在り方がまさに青天の霹靂というやつだったからだ。
 その、「スクールアイドルは自由」という言葉に道を開かれ、瑠璃乃は自分もまた誰をも楽しませるスクールアイドルとしての道を歩むことを決意した。

 しかし、スクールアイドルへの復帰を打診され、今の自分の心境を打ち明けた慈は、「踊れなくてもスクールアイドルはできる」と説得しようとする花帆たちに、『もちろん、ダンスをしないスクールアイドルがいてもいいと、私は思うよ。けどね、それは私の思い描いた夢の形じゃないんだ』と、そう答える。
 第9話のお話の結論に頷いた身だからこそ、慈のこの言葉にはハッとさせられる。
 確かに「スクールアイドルは自由」だ。どんなスクールアイドルがいてもいいし、どんなスクールアイドルをやろうと誰にも自由を邪魔できない。
 しかし、どんなスクールアイドルがいるのも自由だが、自分がなりたいスクールアイドルは一個しか選べない。
 一口に『スクールアイドル』と括ろうとしても、そのいずれの子たちにもちゃんと名前があり、それぞれが自由の中でなりたいスクールアイドルを表現している。

 藤島 慈のなりたいスクールアイドルに、今の藤島 慈はなることができない。
 それが慈の抱える苦しみであり、それを理解し、その上で解消することを目指すのが第10話――そして、『みらくらぱーく!編』のエピソードになるのである。

 作中、スクールアイドルに対して並々ならぬ情熱と拘りを持ち、欠かさない努力を人に見せたがらない慈の、これまでの努力の形を『靴』で表現するのが素晴らしい。
 ダンスのレッスンを重ねに重ね、いくつもの靴を履き潰した慈は積み上がった自分の努力の証を見て、「遠くまで歩いてきた」と感じ入る。そして、自分にできる全部を費やして歩いた道を一緒に歩いてくる誰かが現れたら――と語るのだ。

 かくして、その誰かは現れた。
 現れた誰かはいつしか、自分の後ろをついてくるだけの子ではなくなり、時には自分の手を引いて、時には競い合うように走って、転んだときには一緒に転び、一緒に立ち上がってくれるような存在となっていた。
 それはステージから落ちたことで心に傷を負った慈を、今一度ステージへ引っ張り上げてくれる、頼もしくてかけがえのない誰かだった。
 その誰かの存在に、慈はかつて心に決めたことを実現させようとする。すなわち、「世界中を夢中にさせる」のだ。

 そうして最後のユニット、『みらくらぱーく!』が正式稼働を果たし、今度こそ蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブは完全体となったのである。


■第11話『スクールアイドルクラブのために!(?)』

『みんなに「ライブに出られるのが当たり前」だって、思ってほしくなかっただけ』

 藤島 慈が無事復帰し、ついに六人で活動できるようになったスクールアイドルクラブ。これまではちょっと離れた位置からクラブ活動を見守っていた慈は、改めてスクールアイドルクラブの状況を確かめ、「たるんどる!」と憤慨する。
 各ユニットの問題も解消され、完全に安定期に入ったスクールアイドルクラブの様子に慈は「このままじゃダメだ」と危機感を抱き、一計を案じる。
 それが六人で旅館にお邪魔し、各ユニットごとに貢献を競い合う熾烈なバトルだ。

 元々、蓮ノ空女学院は『スリーズブーケ』『DOLLCHESTRA』『みらくらぱーく!』と三つのユニットを代々受け継ぎ、同じクラブ内で切磋琢磨し合うことで、より素晴らしいパフォーマンスが生まれるようやってきた。
 慈もまた、その理念を取り戻させるために今回のことを企てたのだが――このエピソードで、慈と瑠璃乃の二人の魅力はまたぐっと深まったと自分は感じた。

 賢しげにあれこれ画策しつつも、やや考えの浅さと性根の甘さが理由で、慈の企てはわりとことごとく失敗する。そんな慈の失敗を、隣で瑠璃乃は「でもめぐちゃんなら!」的な妄信はせずに、「めぐちゃんやらかした!」と素直に受け止めるのだ。
『みらくらぱーく!編』のエピソードで、「瑠璃乃の前では格好つけていたかった」と訴えた慈に、「どんなめぐちゃんでも大好きだよ」と瑠璃乃が答えたのは記憶に新しいが、馬脚を露した慈に対する瑠璃乃の態度はまさしく有言実行である。

 ただ、そうした企みの背後にあったのは、怪我が原因で一年近くスクールアイドル活動から遠ざからざるを得なかった慈の切実な気持ちだ。
 活動できなかった時間、自分を応援してくれる『めぐ党』に対しても不義理を働いているような不甲斐なさが慈にはあったのかもしれない。
 そうした苦難を乗り越えて戻ってきたステージだ。慈にとってその場所は本当にかけがえのない場所だっただろうし、他のみんなにもそれは同じであってもらいたい。

 どんなスクールアイドルがいてもいい、が9話のお話だった。
 自分にはなりたいスクールアイドルがある、が10話のお話だった。
 それなら11話は、みんなにこんなスクールアイドルであってほしいという願いが込められた話であったと自分は思う。

 慈のそれは強引だが、押しつけがましいものではない。彼女が他の五人に与えたかったのは、自分の足下を確かめるための切っ掛けなのだろう。
 慈は怪我が原因で、スクールアイドルが自分の中でどれだけ大きく、そしてどんな形をしているものなのかを知った。慈はそれと同じことを、ステージから落ちるような悲劇ではなく、みんなで旅館を手伝うという忙しさと楽しさの中で感じ取ってもらいたいと、今回のことを企てたのだ。

 選んだ台詞には、そんな彼女の懸命な実直さが滲んでいて、自分はこの一年の彼女の気持ちを想像するとたまらなく胸が締め付けられるのだ。

 ちなみに、11話の中で自分が一番好きなやり取りはここである。
 相変わらずの綴理の発言だが、このさやかの返しの切れ味は惚れ惚れする出来栄えだ。旅館の板長が褒め称えるのも頷ける。


■第12話『期待はおもい!』

『これじゃないかもしれない。でも――これだったら素敵だなって、思える』

 こうして『リンクラ』を振り返っているとつくづく思うが、この作品は徹底的に「スクールアイドルとは何なのか?」という話に向き合い続ける物語だ。
 それはスクールアイドルを知らずに蓮ノ空女学院へやってきた花帆やさやか、瑠璃乃といった「これから知っていく」世代と、すでに一年間のスクールアイドルクラブでの活動を経て、「自分なりのスクールアイドルがある」梢や綴理、慈の世代とに分かれ、様々な角度からの問題と衝突し、つまびらかにされていく。

 今回、第12話でその命題をぶつけられることになったのはさやかだった。
 ラブライブ地区予選へ向けて、目前に迫る『竜胆祭』という学校行事のステージへ参加しようとするスクールアイドルクラブだが、苦難が訪れる。
 ――そう、乙宗 梢が風邪でダウンしたのだ。

 完全にフリが利いている梢の気合いの呼びかけが悲しいぐらい笑いを誘う。

 結果、機能不全に陥ったスクールアイドルクラブだが、梢が倒れている間、『竜胆祭』に向けた準備を何も進められないではお話にならない。そこで話し合いの結果、まともに梢の業務を引き継げるのがさやかだけとなり、彼女が部長業を代行することになるのだ。
 入部半年の一年生に託される大役、二年生の不甲斐なさからして残当であった。パロメーターが偏り過ぎの先輩方である。

 さて、そんなわけで突発的に大役を担わされたわけだが、我らが村野さやかさんはいずれの業務もテキパキと万全にこなすため、さすがの一言しかない。
 我らが藤島 慈もぐうの音も出ない活躍ぶりに、さやか自身も「自分に向いてるのかな」と普段はあまりしない自賛の言葉がこぼれるほどだった。
 が、順調に思われた部長代理業務も、ステージの利用申請を行おうとしたところで、生徒会長からのストップがかかる。――そして訪れる、三つの試練だ。

 スクールアイドルクラブの大先輩――すなわち、梢たち世代の先輩にあたる沙知先輩の存在は3話から登場し、これまでのお話でもちらほらとスポット参戦していたが、本格的に現在のスクールアイドルクラブに関わってくるのはこのお話からだ。
 現在はスクールアイドルクラブを辞めて、生徒会長としてバリバリ働いている沙知先輩は、この感想文を書く自分でも「先輩」の敬称を外せないパワーのあるキャラである。
 そもそも、一人で梢とも綴理とも慈ともユニットを組んでいたという過去があるのだから、個性の異なる彼女たちと毛色の違うユニットをきっちりこなした化け物だ。そしてその心身共に超人たる彼女が、一年生組の壁として立ちはだかる――!

 とはいえ、沙知先輩が下すのは理不尽な妨害ではなく、花帆たち三人が『竜胆祭』への参加、ひいては本格的にラブライブ!へと挑むにあたっての心構えを問うためだ。
 そしてこの沙知先輩の謎かけめいた試練に一番引っかかってしまったのが、代理業務をこなせて自信を付けつつあったさやかだった。

『何故、スクールアイドルをやるのか』

 沙知先輩からの問いかけに答えられず、さやかは苦悩する。
 ここでまた、一年生組がスクールアイドルを知らず、スクールアイドルをやるために蓮ノ空女学院にきたわけではない設定であることがうまく働く。
『DOLLCHESTRA編』でさやかはスクールアイドルとフィギュアスケートの両立を宣言し、綴理と隣で寄り添い続けることを選んだ。が、それはより根幹である「スクールアイドルでなくてはならない理由」ではないのだ。

 沙知先輩から下された試練、それを無自覚にクリアしてしまった花帆と瑠璃乃は、さやかの苦悩に一緒に悩んでやることができない。
 その答えを確かな形として持っているだろう梢はさやかに聞かれ、「私が答えてしまったら、さやかさんはそれも受け売りだと感じてしまう」とその心情を見抜く。その生真面目さで似たところのある二人だけに、ユニットとは無関係に先輩と後輩同士がわかり合っていることが伝わる名シーンだ。

 誰にも答えをもらえず、悩み続けたさやかに顔を上げさせたのは、『竜胆祭』に向けて準備を進めるクラスメイトたちからの、ステージを期待する応援の声だった。
 さやかは彼女たちの声援にお辞儀しながら、自分の中に生まれた期待に気付く。

『これじゃないかもしれない。でも――これだったら素敵だなって、思える』

 今回、第9話では「どんなスクールアイドルがいてもいい」と描き、第10話では「なりたいスクールアイドルがある」と描き、第11話では「こういうスクールアイドルであってほしい」と描いてきた。
 この第12話でのさやかの結論は、ここまでの物語のハイブリッドであったと感じる。
 さやかの抱く願いは花帆とも瑠璃乃とも違うもので、うまく言葉にできないそれがこうであってあったらいいと願い、そんなスクールアイドルになりたいと彼女は望む。

 それが実際どうであったのかは、ステージの上でのソロで確かめる。
 さやかのその挑む姿勢はまさしく競技者のそれであり、フィギュアスケートの舞台で鍛えられ、磨き上げられてきた彼女の精神の美しさが際立っていた。
 自分がどうしてスクールアイドルをするのか、その答えが出せたとき、ソロで高らかに歌い上げた彼女は輝かんばかりの笑顔を見せた。
 このとき、村野さやかはすでに周りが知っていたこと――村野さやかがスクールアイドルであるという事実を、自分自身で認められたのだと思うのだ。

 さて、以上を以て今回の感想文も結ばせていただくのだが、最後に12話の中のお気に入りのワンシーンを紹介させてもらいたい。
 沙知先輩からの試練が出され、ステージの利用申請が通らないことを風邪でダウンした梢以外のメンバーが共有した際、いったんは見守る立場を取ることになった綴理と慈。その中で慈が、沙知先輩が一年生組にお土産で持たせたお菓子を食べたときの一言だ。

 このあとのシーンで、沙知先輩の口からこのお菓子が梢と綴理、慈たち三人にとってもお気に入りのものだったことが明かされる。
 このときの慈にとって、お菓子の味は過去の思い出と直接繋がるもので、頭には沙知先輩の顔がちらついていたことだろう。沙知先輩の奔放さを十分知っているだろう慈は、その行動に何らかの意図があることをわかりつつも、その意図がはっきりと読めない状況を苦々しく思いながら、お菓子のおいしさにそう呟くしかない。
 このほんの一言と表情に、慈たちと沙知先輩との関係性がうっすら垣間見える。それが実際にどんなものだったのか――それは、また別のお話である。

作家 長月達平の「#蓮ノ空感想文」-第13〜16話- へ続く


【長月達平(作家) プロフィール】
代表作『Re:ゼロから始める異世界生活』のほか、『異世界スーサイドスクワッド』『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』など多数のアニメやゲームにも携わっている。

▼『長月達平』公式X(旧Twitter)
https://twitter.com/nezumiironyanko?lang=ja


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蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブは、 1年365日、入学から卒業までの限られた時間のなかで、 彼女たちと喜び、悲しみを共にし、同じ青春を過ごす、 リアルタイム「スクールカレンダー」連動プロジェクトです。

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