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『夜行バスに乗って』 豆島圭様企画に乗ったkaze企画の顛末 

※この物語はフィクションです。すべての出来事や企画は実在するクリエーター様とは一切関係がありません。

(本文約5400文字)
 
 あと30分ほどで21:00。やっと一日を終えた通勤族の視線は、一番小さなサイズのキャリーバッグですら許そうとはしない。混雑した電車からの押し出され方に未必の故意が感じられる。俺はもう少しで自分のバッグに躓いてホームに転倒するところだった。
 昭和のモーレツじゃあるまいし、平日に旅支度は珍しくあるまい。ただ我が身に迷惑と感じれば、マナー六法を駆使して排除したい輩が多発する時間帯ではある。ここは穏便に、謙虚に頭を下げておこう。

 栄誉を勝ち取る前夜に揉め事など無用だ。明日、俺は人生最大級の祝意を受ける檀上を目指すのだから。

 駅の改札を抜けた時にすでに感じていた。
 普段から旅の客で賑わう帳面のおと町バスロータリー。そこに友人知人はなく見知らぬ人々が多く集まるだけ。しかし、なぜか心に共振するような人々の想いを感じる。皆、それぞれに何かを求め、期待しているのだろう。

 俺が乗るバスは『風林火山号』いつだったか乗り遅れたことのあるバス。そのことは今、語るまい。とにかく今夜は無事に乗れそうだ。

 チケットの確認をしてもらうため風林火山号へ向かう。同じように目的地を目指す発車待ちのバス数台が乗客を受け入れ始めている。

 俺は何気なくバス正面のサインボードを見て、歩みが停まってしまった。

『毎週ショートショートnote号』

「あの、すみません」俺は乗客を案内するそのバスの乗務員に声を掛ける。
「はい、ご乗車の方ですか?」
「いや、あの、このバスなんですけど、どちらへ行くバス?」
「こちらはバスタ新宿行きですが…… ご乗車の?」
「いや、これ、貸し切りとか?」
「ええ、そうですね」
 俺はすぐにスマホでnoteを開く。そしてお知らせの過去記事を急ぎ見ていく。
 あった。なんということを…… 完全に見落としていた……

今年のnote杯ファイナルステージは楽しさ倍増!
皆さんが普段投稿しているハッシュタグ名の貸し切りバスを各地より運行。
親交のあるクリエーター様同志はもちろん、はじめてのクリエーター様の皆様ともご一緒にファイナルステージへ夜行バスの旅を!
ご乗車をご希望の方は……

 何と言う事だ…… 俺は明日開かれるnote杯のファイナルステージを見に行く。いや、これは単なる観覧ではない。俺は初めてnote杯の選考に残ったのだ。つまりなにかしら受賞のチャンスがあるということ。
 そりゃ事前に運営側からなんのお知らせも無かった。しかし手違いはままあることだ。ステージがある日本武道館は当日入場無料。アカウントがありnote杯に投稿参加したら、スマホで自分のクリエーターページを見せれば入れる。ただ俺は明日の栄光を目指しここにいるのだ。

「すみません……チケットを見せて」
「いや、私はこのバスではないので、すみません」
 俺はそのバスを眺めながら横を通り過ぎる。このバスに乗る人は皆、毎ショのクリエーター達なのだろう…… 俺は叫びたかった。
『私、LovethePTAです。イヌヅカです。あの、いつもお世話になりま~す』

 バスの窓に映る人々。『たらはかに』さんはこの中にいるのだろうか。 

 次のバスを確かめる。『シロクマ文芸部号』?
 な、なんということを…… いや、当然か。人気ある企画だし、繋がってるクリエーターさんはほぼ皆、書いておられる。小牧部長も乗られているのだろうか…… 車窓に映る人々がとても素敵に見える。書くものと生き方や姿形が一致している感がある。誰が誰だかは分からないが。ただ、俺はなぜかシロクマ文芸部へ投稿したことがない。これには乗れなかったな、乗りたくても…… ikue.mさん乗ってるかな…… 

 次こそが俺のバス…… 『54字の物語号』? 
 絶対にshibakaorukoさんとかスズムラさんとか乗ってるだろうな……
 シロクマさんの20字というのがあったけど、54文字というのは、俺的にそれより難しいと思っていた。これも俺には敷居の高い企画だ。そう言えばあの原稿用紙のやつ、いまだにどうやったらいいのかわからんままだった。車窓に映る人々は、うわ、みんなスマホでなにか書いてる様子。閃く人達は違うなあ。

 次はいくらなんでも俺が乗る……『noteエッセイ・スペシャリスト号』?
ああ、そうか、エッセイとかを中心に書いてる人のバスか。それぞれ一家言持ってる人ばかりなんだろうなあ。それぞれスペシャリストって感じだろうな。ながいコーチとかうぉんのすけさんはこれに乗るのかな…… なんかみんな賢そうに、しっかりした感じに見えるな。毎日投稿とかしてる人も多いからなあ。きっとバスの中の様子を書いてくれるだろうな。

 ああ、やっと『風林火山号』が来た。俺の春はこのバスのはずだ。うん。今までのバスに乗れなかったのは残念だが、目指す目的地は同じはず。道中ご安全に。
 乗合さんという名札を付けた可愛い女性が案内してくれて、俺は今度こそバスに乗り込む。いつだったかの乗り遅れ事件は遠い夢だったのか……。

 おれの席は6C。トイレに降りるステップのすぐ後ろだが、前には仕切りがあるのでそんなに気にはならない。進行方向右側の窓際、快適に過ごせそうだ。あと5分ほどで出発。俺は毎ショ号や他のバスに乗る人々のことを思いながら、もうすぐ動き出すバスの窓から先に旅立つそれらを見送っていた。

 発車ギリギリにマスクにパーカーのフードを深くかぶった若い男が急ぎ乗り込んできて、俺の斜め前、4Bの席に座ると同時にカーテンを閉め切った。なんだか気になるが彼も乗り遅れないで良かった。乗り遅れはほんとに悲惨だからな。しかし、このシチュエーションは既視感があるのはなぜだろう。

 バスはわずかな振動と低い駆動音とともに新宿を目指し動き出した。俺の夢が動き出した瞬間だった。隣の席の婦人と偶然に眼が合う。上品な笑みを仄かに浮かべ彼女が口を開く。
「東京へはお仕事ですか」
「いえ仕事ではないです。イベントに参加するために行くんですよ」
「そうですか、それはお楽しみですね」
「はい。あなたは?」
「私も同じです。楽しみにしてたことがありまして」
「そうなんですね、いい旅になることでしょう」
「お互いにね、あ、ごめんなさい、おくつろぎのところ邪魔しちゃって」
「いえいえ、他の方に迷惑になるのでなければお話もよいのですけど、夜行ですからね」
「そう、そう。気を付けなっくっちゃね、ではお休みなさい」
 そう言って彼女はカーテンを閉める。
「はい、お休みなさい」
 
 品の良いご婦人だ。この席に座れたのはとてもラッキーだったのかもしれない。俺も通路側のカーテンを閉めて、まだ見慣れている街の景色を車窓から暫く眺める。もうすぐ車内灯も消えるだろう。窓側のカーテンも閉めて俺は一時いっとき眼を閉じ、先に出たあのバスたちを思う。今頃クリエーター達は何をしているのだろう? 多分眠ろうとはしていない。皆、それぞれの想いをnoteに書き込んでいるだろう。少しあとでnoteを開いてみよう。誰一人として実際には知らない、クリエーター達の笑顔が見れるはずだ。

 ☆☆☆

 01:10 疲れていたのか最初のSAは眠ってしまって気付かなかった。
俺はスマホの画面をできるだけ暗くして、光が漏れないように気を遣いながらnoteを開く。フォロワーさんの記事をざっと見ていくが、夜行バスの記事はない。豆島圭さんの『夜行バスに乗って』の企画記事ばかりが目に付く。
 そうだ、このバスだった。俺はこのバスに乗って、この企画に参加したかったのだ。なのに乗り遅れた…… 話せば長いので今は触れないが。

 少しがっかりして俺は再び目を閉じる。まあいい。次のSAまであと少し時間がある。そこで珈琲でも飲んで俺は俺で呟こう。
 その時、ゴトっと何か重いものが床に落ちる音がした。俺はカーテンを少し開け、通路の様子を伺った。4Bの席の最後に乗ってきた男が床に手を伸ばすところだ。何を落としたんだ? 俺は瞬間に身体全てが強張る。なぜなら男が拾おうとしたものが拳銃のように見えたからだ。彼はすぐにそれを拾ってカーテンを閉めた。他に気付くものは誰もいない。
 
 これは大変なものを目撃してしまった。あいつは一体何者だ? テロか? バスジャック? それとも新宿についてから何か犯罪を犯すために? いや、もしかすると警察かもしれん。そうだ。合法的に持つ人もいる。しかし警察官が銃を持ってバスに乗るということは、このバスに犯罪者が乗っているということではないか? 普通、夜行バスに警察は乗らんだろう……

 これは、もしかして、ヤバイのか……

 ああ、なんでこんなバスに乗り合わした。俺は明日、栄光を勝ち取るためにこのバスに乗ったのだ。なのになぜ? 大体、note貸し切りバスに乗れなかった時点で、いや、この前の風林火山号に乗り遅れ時点で俺の運命は詰んでいたのだ。ああ、なんということを…… 

 いや、待て、これはもしかしてチャンスかも。もし、このバス内で事件が起きたら、それを克明に記録してノンフィクションとして書く。これは絶対売れる。大宅ノンフィクション賞も夢じゃねぇ。そうだ、これはチャンスだ。そう思うんだ。何としても生き残って。そうだこれは、サバイバルだ。よし、考えろ。もし、あいつがテロ犯でいきなり銃をぶっぱなしだしたとする。俺は一番席が近い。ヤラレル確率が高い。この席は危ないな。

 どこが安全か…… そうだ、前、トイレがあるじゃないか。そうだ、まずトイレ。ここにこもって様子を伺いながら作戦を考えよう。スマホも居眠りの間に充電したから十分もつ筈。足元のキャリーを座席に置いて、ブランケットをかけて眠ってるように見せかける。ついでにハゲ隠しの帽子もさりげなくブラケットから出しておこう。うん、完璧なカモフラージュだ。

 俺は足音を忍ばせトイレに降りる。誰も入っていない。夜行バスのトイレは便利だが、案外と利用はされないものと聞いている。ここもそうなのだ。俺は鍵をかけ扉に耳をあてて車内の様子を伺う。
 
 ガーと言う音しか聞こえないぞ……

 バスのトイレは車体の低い位置にあるせいで車の走行音がまともに響く。これは想定外だった。でも、待てよ、拳銃なんかぶっぱなしたら、いくらここでもわかるだろう。そう、異常は感知できる。大丈夫だ。

 ゆっくりと待てばいい。あの婦人は大丈夫かな。まさかあんな人を撃つようなことはしないだろう。自分に脅威になるやつから排除するのが鉄則だからな。うん、とにかく待つんだ。その時がくるまで……。

 ☆☆☆

 激しく扉をたたく音に、俺はまたしても便器に座ったまま居眠りをしているのに気が付く。しまった! 犯人が俺の座席が空だという事に気が付き、ここを見つけたのだ。今、もし扉の向こう側で銃を発砲されたら、この薄い扉は貫通するだろう。
 
 俺は逃げるところもない。ここは大人しく一旦外に出て、犯人に対峙するしかないだろう。大丈夫だ、気をしっかりと持て。大宅ノンフィクション賞が待っているぞ。まずは犯人から話を聞こう。相手に寄り添い話を聞くんだ。俺は決して君の敵ではない。君の話を聞こう。そして解決の糸口を見つけるんだ。もう、noteのファイナルステージはいい。俺はそれを飛び越えて現代の深層の闇にメスをいれるのだ。ん、なんか違うかもしれんがとにかく落ち着いて……

 俺はトイレの扉をゆっくりと開く。

「お客さん、なにトイレでやってるんですか、他の方に迷惑でしょう、もう、何時間入ってると思ってるの!」
 そこにはお掃除道具を片手に仁王立ちのおばちゃんがいた。

「え、もう、新宿ついたの?」
「はあ? 何、言ってるの? あんたここどこだと思ってるの?」

 俺は辺りを見渡す。

 バスじゃない……

 明るい照明と、低い天井に煙感知器が付いている。ズラリと並んだ用をたしている後ろ姿の男性たちが見える。トイレには違いない。既視感はある。

「ここ、バスセンターのトイレ…… ですよね……」
「そうよ、早く、出てください! もう、警察とかに電話しようかと思ったくらいなんだから」

 俺はトイレを追い出される。当然に荷物を持って。
 ここは帳面町バスロータリーのチケットセンターのトイレだ。一体どうなっている? なぜ? 俺は確かにバスに乗ったはずだ。

 力なくキャリーケースをひきながら外に出た。外はもう明るくなりかけている。俺はふと思いつき、スマホでnoteを開いた。フォロワーさんの呟きが溢れている。

「新宿到着!! ひよこさんに逢ったよ」
「福島太郎さんと合流」
「ノノさんとのご一緒うれし~」
「はそやさん、きたこさん、わざわざおみやげありがとう!」
「あー青ブラ文学部号も到着! 山根さんが降りてきた~」
「三羽さん、マー君さんも京都からわざわざ~」
「あー毎ショ号だ、たらはさんが青白の着ぐるみでお出迎え~」
「風林火山号到着、あ、豆島さんとめいさんだ」
「あれ?kazeさん?うわ~、わざわざお出迎え~!」
 その他、いつも目にするお名前が続々と呟かれる。

 え、なんで俺だけ…… どうして…… なにがどうしてこうなった……

 俺は見慣れた街を見渡す。
 春はあけぼの やうやう白くなりゆく ビルのきわ……

 ポケットに手をいれ何かを見つける。レシートだ。
 吉岡屋 牛丼大盛り 生卵セット。

 バック・トゥ・ザ吉岡屋…… か?

 完


 【和訳MV】Huey Lewis and The News - The Power Of Love (lyrics)
 バック・トゥ・ザ・フューチャー 主題歌

 いつもお世話になっているkazeの兄貴が無茶ぶりをするので急遽滑り込みギリギリで書き上げました。各クリエーター様、苦情などはすべてkazeの兄貴のところへと言いたいところですが、お名前を勝手に並べたのは私ですのでこの場で謝罪します。申し訳ありませんでした。
 本来なら皆さまのリンクを張って申し上げるべきですが、なにせ締め切りギリギリということで、ご容赦くださいませ。

 kazeの兄貴、仰ってたようなフリにはやはり応えられませんでした。流石に準備時間が足りません。これでご勘弁を。

 ヘッダーはスズムラ姐さんのです。

👇これをお読みいただくとある程度、本文の謎は明らかになります。


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