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事実は小説より、ドラマがある③

店内はお祭り騒ぎの様な賑やかさと慌ただしさに包まれていた。

そして、本企画に当選した自分を含める地味なOL風女子達は、ミルミルと満面の笑みに変わっていた。

『可愛い〜!!』

あちらこちらで、歓声が聞こえてくる。
そして、最後は撮影スペースでカメラマンによる撮影だ。

私もあれよあれよと、Tさんによるカットは完成された。
正直、大学生の私でさえも、地元でのカットとは格が違う事を感じた。  
念入りに両サイドの長さや、骨格に合わせてカットの微調整をしている事を素人ながらに感じた。
今までに体験した事がないカット技術にセット、それにキラキラした魔法の何かが自分に降り注がれた感覚を、本当に感じた。

『カリスマ美容師による無料カット企画』こと、まるで『シンデレラ企画』の魔法に、私もまんまと魅了されていた。

(すごい…………)

Tさんは、ベラベラとお喋りをするタイプではなかったが、私はそれが心地良かった。真剣にカットをしてくれる姿から、最高のおもてなしを受けた様に感じた。

あっという間に、私はカメラ前に座らされ、パチリと雑誌掲載用の写真撮影を終えた。

女性スタッフ『Tチャンが担当だったんですね。イイなぁ〜良かったですねぇ♡』

参加者の中では恐らく一番最年少で学生だった私に、スタッフの皆は優しかった。
だが、良いのか悪いのか、なんとなく優しさやカジュアルさから、お店の内側が垣間見える様だった。
私にとって、Tさんが良い人なのか、凄い人なのか、カッコよかろうが、元々あまり関係のない企画だ。だけど、カット前のドキドキ感とは、はるかに異なるトキメキのようなドキドキが今や全身を包んでいた。

終盤ふと店内を見ると、あの色黒に白い歯の代表がハサミを握りカットをしていた。
そして、カットされている女性を見ると、地味なOL風女子達とはほど遠く、超絶可愛いモデルの様な女性だった。

(そういう事か、、、カットされる人も選ばれるものなのか……)


たった1時間足らずの時間が、数時間もここにいた様な感覚かつ、お初の何かを体験した様な面持ちでお店を後にした。
だが、お店を出た瞬間、私の今いる場所は『東京』だという現実を思い出す事となった。

『え~と。表参道どっちに向かって歩けばいいんだろう。』

当時、表参道はファッショニスタとファッショニスタを狙うカメラマンで溢れていた。
近所の本屋で立ち読みしてた『STREET』の世界が目の前に広がっている。
現実に圧倒され、自分の服装にハッとした。
髪型は、カリスマ美容師Tさんに素敵にしてもらったのに、私ときたらベージュ無地Vネックセーターに黒い無地ストレッチパンツ。そして、バックは大学通学用のA4サイズがすっぽり入るベージュのショルダーバックをかかえていた。

今ここ表参道で我こそ最強な『地味OL風女子』じゃん。
早く帰りたい、そう思った次の瞬間、
カリスマ美容師Tさんが私の横に現れた。

私『あ、あ、ありがとうございました、、、どこか行くんですか、、、?』

Tさん『今から別の撮影なんだ。気を付けて帰ってね!ありがとう!』

そう言って、Tさんは表参道のど真ん中、こなれた様子で車をうまくよけながら、道路を横断。あっという間に消えてしまった。

私(か、か、かっこいい………)

20年近く経つ今となっても、その時の映像は私の脳裏に色濃く思い出す事ができる。それくらい、なんだか衝撃だった。

同郷から東京に出てきて、外国みたいな表参道で人気者の人がいるのか……
Tさん凄すぎる…素敵だ…



私が東京で初めてもらった名刺は、このTさんの名刺だった。
Tさんのお名前は、今も忘れる事は出来ない。

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