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事実は小説より、ドラマがある②


何かに突き動かされる様な感覚って、
最近ありますか。

私は10代20代前半までは、
何かに突き動かされる感覚=直感だけが生きていく道標だった。

リスクとか、結果とか、失う物とか、そんな小難しい事、わざわざ考えなかった。

ただ、会いたいから会う
ただ、行きたいから行く 
ただ、やりたいからやる
ただ、なんか楽しそう!それだけだった。

必要な持ち物は、未知への『勇気』だけだった。

表参道には、不思議なくらい迷わず到着した。
東京駅を降りてからの記憶はないが、予約時間の数時間前には、地図片手に目的地の美容室を見つけることができた。

美容室は、表参道の一本筋を入ってすぐのビル2階に存在した。入り口ではOL風の女性達が、雑誌編集部担当者による受付で3.4人並んでいた。
私も、名前を伝えて受付前に即席で出された簡易椅子に腰掛ける。


(あぁー、無事についたぁ。。。)

カリスマ美容師がいる表参道の美容室は、
私が想像していた様な無機質で宇宙船みたいなド派手で大きな店内ではなく、小さ過ぎず、大き過ぎない木の温もりに包まれた店内だった。

ホッとするのも束の間、今度はカリスマ美容師にカットをされる事への緊張感で、胸の鼓動がどんどん大きくなる。

私の両サイドには、同じ様に当選したOL風お姉さん達が簡易椅子に座っていた。

(地味だなぁ、OLって感じ)
(なんだかビューティコロシアム的な、シンデレラ企画みたい)


緊張のあまり、誰とも目を合わさず下を向いていたが、内心は失礼な事をボヤきながら、じっとしていた。

美容師T『こんにちは。初めまして!〇〇です!素敵にするので任せてくださいね!』

程なくして私の目の前に現れたのは、
雑誌に載っていたこの美容室代表、色黒に白い歯が光る有名な代表ではなかった。
代表は、店内の士気を取りながら、編集部担当者や当選者の女性たちへ超絶笑顔を振り撒き、場を盛り上げでいる。
一方で私の目の前に現れたのは、代表より少し若くて、素朴だけど優しそうなお兄さんだった。

Tさんは、私のカウンセリングシートを見て思わず言った。
Tさん『え…今日○○県から来たの?!僕も地元同じですよ!』
Tさんはビックリを通り越して、引いた様な表情をしていた。
そして、その声に周りの注目が集まり、代表や編集部担当者も近寄ってきた。

代表『○○県からきたの?!マジ?!俺だったら当選しても絶対行かないなぁ~!すげぇなぁ!笑』

私の心は、一気に落胆した。
なぜなら、不安と期待に胸いっぱいでやっとこさ辿り着いた美容室で、担当者は色黒に白い歯が光る有名な代表ではなかったし、若干苦手なタイプだった。
その上、Tさんは良い人そうだけど、東京人でもない挙句、同郷の素朴なお兄さん、ときた。


私(何なのこれ。こんなハズじゃないのに。泣きそうだ。
ここまで来た私が間違ってたのか。
いや、もう考えてもしょうがないよ。
もうどうなってもいい。
今日1日が私の人生にとっては意味がある1日なんだもん。
ただ、ここに来た事に意味があるんだ。)


完全にアウェーな東京で、私は自分で自分を励ますしかなかった。


Tさんは、代表と真逆のルックスで爽やかにキビキビと動いていた。
幼かった私には、特別華がある様には決して見えなかった。
しかし、チャラいという言葉とかけ離れた風貌で、真剣な面持ちが印象的だった。

美容室の可愛い女性スタッフ達からは『Tチャン』なんてチャン付けで呼ばれ、見るからに人気者の様子だ。

私(この人売れっ子なのかな…)


Tさんのカットが始まった。

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