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私小説【弟】

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プロローグ【無料】 かわいいかわいい弟へ 弟という不可解な存在が私を悩ませてきました。生まれたあの日から、両親が亡くなり、日増しに弟は巨大になっていきます。昨日も今日もそして、き…
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私小説【弟】焦らし

私小説【弟】焦らし

みなとはある時期フランスで整備の勉強をしていました。あの子はとても紆余曲折のある子ですから、やれ大学で博士号をとってみたり、エンジニアになると単身フランスに行ってみたりと、本当に明日のことはわからない子です。

エンジニアになると思い立ったのは、母が死んですぐのことでしたから、大学で座学をするよりも先に技術を覚えたことになるでしょう。母が亡くなった後で憔悴しきっていた私を残してみなとはフランスに行

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私小説【弟】

私小説【弟】

14歳の時に母が、18歳の時に父が他界して以来、私と5つ下の弟はこの敷地面積500坪の大邸宅で二人暮らしをしています。33歳と28歳の働き盛りのふたりですから、週に数回はお手伝いさんに入っていただいています。お料理やお掃除をしてくださるのは「初音さん」という24歳の女性です、重たいものを運ぶときなどは別のサービス会社から「律さん」という私と同い年の男性が来てくださいます。そのほかにも我が家に出入り

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私小説【弟】弟の癇癪

私小説【弟】弟の癇癪

みなとは時々癇癪を起します。どうにも自分の気持ちが言葉として伝えられないと、皿を割ったり、PCを投げつけたり、自室を崩壊寸前まで壊そうとします。大好きなミニカーも、大好きなゲーム機も何度買い替えたかわかりません。それでも、癇癪の最中でもあれは理性があるのか、壁に穴をあけるとかそういう家を壊すことはしません。

みなとの癇癪はたいてい嫉妬です。私の帰りが遅いとか、金曜日に一緒に眠ってやれないとか、男

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