見出し画像

精神医学における心因性、内因性、外因性とは?

これは私が自分自身のために書いた個人的なメモである。

精神医学には心因性内因性外因性(器質性)という用語がある。これは精神疾患をその発症の原因によって分類するためのもので、現代の精神科治療においても用いられる用語である。

余談ではあるが、古くは心因性の精神疾患を神経症(英語でニューロシス、独語でノイローゼ)、内因性の精神疾患を精神病(英語でサイコーシス、独語でプシコーゼ)といっていた。現在ではこの呼称はほとんど使われていない。

心因性、内因性、外因性を分類ごとに簡潔にまとめると

・心因性
心理的ストレス要因に反応して発症する症状のこと。適応障害解離性障害転換性障害心的外傷後ストレス障害(PTSD)などは当てはまる。

・外因性
脳の器質的な変化によって生じる様々な症状を表す。脳の器質的な変化とは文字通り脳の構造が変化するということであり、外的な要因による場合が多いため外因性よ呼ばれる。脳炎てんかん覚醒剤精神病膠原病脳腫瘍などが当てはまる。

・内因性
心因性にも外因性にも当てはまらない一連の症状を指す。外的要因によって左右されずにあたかも罹患者の内界からひとりでに精神病症状が発症するかのようにも観察されるためこう呼ばれる。うつ病(単極性障害)双極性障害(躁鬱病)統合失調症などが当てはまる。詳しくは後述。

このうち心因性、外因性はおそらくほとんどの人にとって分かりやすいのではないだろうか。

しかし、内因性はどうだろう?罹患者の内界からひとりでに発症する精神疾患というにはいかにも分かりにくいものではないだろうか。

そもそも内因性というワード自体、明確な定義があるわけでもないのだ。心因性にも外因性にも当てはまらない一群の症状を内因性と呼んでいるにすぎないのだ。

"内因性"というワードにまつわる問題は他にもある。

それはうつ病、双極性障害、統合失調症が内因性の精神疾患だということだ。

うつ病や双極性障害、統合失調症などの精神病が、ストレスを原因としたものであると思っている人は非常に多い。しかし、それは事実とは違っている。

多くの人が驚かれるかもしれないが、精神医学の領域ではうつ病、双極性障害、統合失調症の原因はストレスなどではないといいうことになっているのだ。

もし、過剰なストレスが原因でうつ病などの精神病を発症するというにならば、過剰なストレスを被った人間は全員うつ病を発症してしかるべきである。しかし、現実にはそうはなっていないことは、少し周囲を見渡せば分かるはずである。

では精神医学の領域ではこの問題をどう考えているのかちいうと、もともと生まれつきうつ病、双極性障害、統合失調症などの精神病を発症しやすい"因子"を人物がいて、その人物がある一定以上のストレスを被ると精神病を発症する、という風になるワケである。

この場合、精神病を発症した"原因"はその人物が生まれつき持っていた"因子"(多くは遺伝的なものである)であり、心理的なストレスなどは発症のキッカケ(誘因)に過ぎないというワケである。

これは、内因性という概念を理解する上で非常に重要なポイントであるといってよい。

例えば適応障害という疾患がある。これは心因性精神疾患であり、多くの場合心理的なストレスが原因で発症する。そして、ストレスの原因となっている環境(学校、職場)などから身を離せば、徐々にではあるが症状は落ち着いていくものだ。

しかし、内因性のうつ病はそうはいかない。うつ病というのは一度発症してしまったら最後、薬物療法や電気けいれん療法などの医学的治療に頼ること以外で症状が治まることはほほない。

うつ病が自然治癒するということはほとんどないといってよい。うつ病には薬物療法が必須である。これはもちろん、双極性障害や統合失調症に当てはまる。というか、双極性障害や統合失調症であるならなおさら薬物に頼らなければ希望はない。

ここまで読んで頂いた方にはもうお分かりだろうが、"うつ病"とは"うつ状態"を催す精神疾患全般を指すワードではないのだ。

"うつ状態"を引き起こす精神疾患というのは実に様々な種類があるのだ。例を挙げれば、適応障害気分変調症PTSD解離性障害転換性障害境界性パーソナリティ障害双極性障害統合失調症...そして"うつ病"などがそうである。

うつ病という疾患は、うつ状態を引き起こす様々な精神疾患のうち、内因性のものであり、なおかつ上にあげた諸疾患ではないものを指す、非常に限定的な定義のものであるのだ。

ところが、現実には上に挙げた疾患を含む、うつ病の本来の定義に当てはまらない症状に対してさえも"うつ病"であるとの診断を精神科で下されることが、世間では非常に多いのだ。

この記事はもう長くなってしまったので、これについてまた今度の機会に述べることとする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?