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走る話|ホカオネオネのランニングシューズに買い替えた話

ランニングの際に手袋が必需品となってしばらくしたある日、走り終えて自宅の玄関でふとシューズのソールを見ると新品の時よりも結構減っていた。これがマイカーのタイヤの溝なら雨の日には怖くて運転できないくらいに。よく見ると、ソールのサイド部分にも多くのシワが入っている。それだけ多くの衝撃を吸収してきたということだから機能的にはかなり劣化しているのだろう。というわけで、現在のシューズに交換して1年という節目を待たずに買い替えることにした。

今回選んだのは〈ホカ〉の《リンコン3》。このメーカーのアイコン的存在は言わずと知れた《クリフトン》だが、これよりも30グラム軽い《リンコン3》を選んだ。その理由は個人的な事情によるところが大きい。効率よく走るために、この1年で大人になって以降では最軽量となる体重まで体を絞った。だから、30グラムとはいえ、わざわざハンデを背負うこともあるまい。30グラムがどれくらいの重さなのかというと、小分けにされた袋が縦に数個連なっているタイプのお菓子およそひと袋分の重さ。こう書くと軽いか重いか微妙なところだがスポーツショップで両方のシューズを手に取ると明らかにその重さの違いがわかった。そして靴全体の重量となると、そこに缶コーヒー1本分の重さが加わる感じ。

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これまで誰かに誇れるほど真面目に走ってきたわけじゃないけど、それでも何度かランニングシューズを買い替えたことがある。新しいシューズを下ろしたての頃は感情の昂ぶりを覚えるが、それよりも従来のものとは違うシューズを履いたことによって走りが微妙に変化し、膝や足首の故障に繋がらないかと不安に感じることのほうが大きかった。それは走るということに対してだいぶ体が慣れたと思える今も変わらない。新しいシューズを履いていつものランニングコースのスタート地点に初めて立った日は、これまでと同様に逸る気持ちを抑えてそっと右足を前へと送り出した。

走り初めてすぐに、足の感覚が伝えてくる印象を脳が「もう少し爪先のほうからしっかりと紐を締めておくべきだった」という言葉に変換した。履き慣れたシューズなら爪先側から足の甲の部分までどれくらいの力で紐を締めれば自分の足にフィットするかの加減は把握できているが、これが新品のシューズになると適度な紐の締め方を見つけるまでに時間がかかってしまう。とはいえ、この日は今まさに離陸しようとしている飛行機になったかのようなスタート直後の高揚感を崩したくなかったから、一旦止まって紐を締め直すことはせずにそのまま走った。

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これまで〈ナイキ〉の《ライバルフライ》を1年近く履いていた。今回買った〈ホカ〉の《リンコン3》とあわせてどちらもカーボンファイバープレートこそ搭載していないが、いずれも高いクッション性を誇る厚底シューズである。その履き心地の違いといっても、最近まで使っていた《ライバルフライ》は距離を走っていておそらく機能的にはかなり衰えていたから、近頃の使用感と新品の《リンコン3》とを比べるのはアンフェアな話だろう。しかしながら、そのクッション性の高さは〈ホカ〉のシューズの特徴である爪先から踵にかけて靴底がカーブしているロッカー構造が可能にするスムーズな重心移動と相まって衝撃的でさえあった。いつもなら坂の途中で立ち止まりそうになるダラダラと続く往路の長い上りは滑るように進んで行くし、その区間が緩やかな下り坂へと変わって少しのあいだ重力の呪縛から解放されることになる復路では、自分の中に潜む暴力性をあらためて認識するくらいに足の回転が増した。

ただ、着地のときにミッドソールの沈み込みがはっきりと感覚的にもわかるほどの高いクッション性は、接地の際に足首が内外に倒れ込むプロネーションの増大につながりはしないかと懸念してしまった。それに加えてこのシューズのミッドソールが生み出す反発力を前に進むための推進力に変えるランニングフォームへの見直しの必要性を感じた。現状はソールから得られる弾む力の一部を上方へと跳ねる力に変えて逃してしまっている。

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スポーツショップでランニングシューズを手に入れさえすれば明日からでも走り出せると思う人は少なくないだろう。でも、実際はそのシューズが自分の体に馴染むまでに少々時間がかかる。年始からはニューイヤー駅伝や箱根駅伝といった、いくつもの名の知れた駅伝大会が目白押しだ。寒風を切り裂いて走るランナーの姿にこれまでジョギングの経験がなくても走り出したくなってしまう人が一定数いるはずだが、その気持ちの高まりに備えて今からシューズを購入し、自分の足に慣らしておくのも悪くないアイデアだとは思う。




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