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「すみだ向島」という経済と文化の"最前戦"で、まちづくりの難しさを学ぶ話
こんにちは、Loohcs代表の嶺井です。今日は最近よく高校生たちに紹介している、人間らしく生きるための「場所性」を考えたり、資本主義的なロジックの功罪を考えたりする事例の話をまとめておきたいと思います。アートやコミュニティスペースをテーマに、ビジネスや経済を手段として使おうとしている高校生とよく出会いまして、そんなみんなに参考になるかなと。
さて、早速ですが、みなさん「古い物件」に価値を感じたことはあるでしょうか。住む場所として考えれば、築年数が増すと家賃は安くなりますが、新しくてキレイな部屋の方が良いと考える人が多いわけですね。
今回の話で取り上げる「すみだ向島」は、都内では珍しく「築100年近く(らしい)」長屋が、まだ100軒くらい残っているエリアだそうです。ただ、100年前の大震災を生き残りが1000軒くらいあったらしいので、かなり減ってはいます。
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今日の記事は、そんな長屋を、歴史的な価値のあるものとして残そうと努力している一般財団法人八島花文化財団の後藤さんという方に、街を案内してもらった時の話です。この団体とは、今度、高校生向けのプロジェクト学習プログラムを共同で行うことになっているのですが、その下見も兼ねて、休日に僕も行ってきました。初の向島地域でした。
古い建物に価値はあるのか?
この話をする時に、僕が高校生にぶつけるのが、「その大変古い長屋100軒は、お金も労力もかかるような、努力を続けて、残すだけの価値があるものだと思いますか?」という問いです。
僕は、以前、19歳の時に、渋谷徒歩7分4.5万円という安さに惹かれて、築50年以上の部屋に住んだことがありますが、風呂はないわトイレは共同だわで不便ではありましたし、数年前に綺麗なマンションに建て替えられてしまっていました。
僕にとっては、思い出深い建物だったんですが、まあ渋谷の一等地で生き残れる物件ではなかったわけです。この「思い出深さ」は、貨幣価値に換算しづらいものです。
また、手入れのコストもかかりますし、耐震性の課題もあります。(僕の住んでいたところも軋むし歪んでるし虫は出るしでした)なので、素直に資本主義の論理で考えるならば、先ほどの問いへの答えはNOということになるでしょう。
そういうこともあって、ここ最近、向島地域の長屋も、さらに建て替えが進んでいるそうです。
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いわゆる、経済性に優れた、量産型住宅ですね!向島地域はスカイツリーもでき、東京都内でも再開発がこれからという地域で、都心部へのアクセスも良いですから、ハウスメーカーからすると、進出すればするほど儲かるのでしょう。
一応僕も経営者なので、経済合理性はわかりますが、歴史があり、一度壊せば二度と戻せない不可逆なものを、次々と「どこにでもある」住宅に変えていってしまうのは、さすがにどうなのかと思ったものです。
ただ、そういうことは我が国においては「当事者」が決めるべきことです。大家さん目線で見れば、複雑な気持ちで売却した方も、世代交代で継承に困った方もいるでしょうし、売ったからといって責められるべきではないとも思います。
僕が自分のお金を出して守れるのかと言えばノーですしね。
「本当に、それで良いのか?」
そんな現場に対して、後藤さんは、真正面から戦いを仕掛けている人でした。「長く続いているもの」には、それだけで本来は代替不可能な価値があるはずで、身体を張るだけの価値があると。
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後藤さんは、長屋をアトリエ兼コミュニティスペースとして活用してくれるようなアーティストを呼んできたりして、「まずは長屋に店子(店を出して借りてくれる人)を入れて、期間限定でも長屋を維持していく」というアプローチをとっています。
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(写真の作品は高いやつですが)
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100年近くの人々の生活から出てくるものを吸収したからか、
「他では出てこない良質な土」が出てくるらしいです。
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大家さん目線では、まとまったお金が必要なら貸すより売った方が良いわけです。しかし、維持するための賃料がちゃんと入ってくるなら、残すことも不可能ではないということなのでしょう。
地域の価値は何に宿るか?
向島地域の後藤さん曰く、今は「面白い人が集まっている、面白い地域がある」ということが、求心力を担保する力になっているという話でした。ただ、人が集まるためには、集まる必然性を地域が持っていなければならず、それは「歴史」なのではないか、という話もしていました。
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放っておけば、全国にあまたあったであろう理髪店と同様に、
普通に消えていったものが残っている。
以前、地方の高校生たちと地方創生に関する本を読み漁っていた時に、「日本では行政や大手デベロッパーにまちづくりを任せがちだが、本来は自分たちのまちを良くしていくためには、自分たちが努力しなければならない。世界ではエリアマネジメントという考え方で、自分の地域の価値を維持させる営みを、地域住民がやるのは一般的だ」という話を読んだ覚えがあります。
向島地域においては、きっと「歴史のある長屋」が後藤さんというパワフルな「人」を地域と結びつけ、そしてそんな後藤さんが人を呼び、地域の価値を残し、高めようという努力をしているわけです。
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地方の高校生たちと議論すると、人口流出やシャッター商店街など、廃墟化していく街並みの話が中心となり、もはや「開発」さえ起こらない地域だってあるわけです。
しかし、都心部は「ニーズがあり、人のにぎわいがまだあるからこそ」開発の進展と共に古いコミュニティや商店が失われ量販スーパーと住宅街のみになってしまい、かえって地域の独自性という資源が失われるというジレンマがあるのでしょう。
繰り返しになりますが、自由民主主義社会においては、まずその長屋の所有者がどうしたいかが重要です。その上で、地域の人々が望めば開発を止めることだって政治的には可能なわけですが、「開発」それ自体が悪というわけでもないでしょうから、バランスが難しいのだと思います。
後藤さんも、自分たちのことは「墨田区は28万人、京島に絞っても1.5万人の人々がいるわけで、異物なマイノリティにならないようにしなくては」と話していました。
向島地域はこのあと5年が勝負。
後藤さんは、2-30軒の長屋を借り、採算ラインギリギリで転貸して店子を入れつつ、宿泊を事業として回して何とか会社を回すということを行なっているそうです(なかなかの体の張りっぷりです)。
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昔から店を出している人がいる間は、大家さんもその建物を簡単には売れないわけですが、後藤さんが借りている長屋の多くは、契約期間限定での延命となります(定期借款)。
さらに、まだまだ大家さんも店子もこれから数年で世代交代が進むわけで、定期借款が切れたタイミング、世代交代が進むタイミングで、次の手を打たねば、後藤さんが維持した長屋がこのまま持続できるとは限りません。
そこで、次の取り組みとして、財団法人を設立し「長屋をハウスメーカーが提示する金額と同等額で買えるようにしていきたい」そうです。寄付を集めるだけでなく、ファンドとして投資価値を出せば、可能性があるのでは、という話をしていました。資本主義的な経済合理性と戦っていくために、資本主義のど真ん中をいくのが最も効果的な打ち手なのかもしれないという点が大変印象的ではありました。
向島地域では、後藤さんの努力で、「エリアマネジメント」のパワーが働き始めているのかもしれません。経済原理という神の見えざる手も働いた結果、ギリギリ価値あるものが残っていると言えるでしょう。しかし、数値化できないものの価値を紡ぐためには、「人」の力が重要であることも忘れてはならないのだと思います。
高校生も使えるシェアスペースも。
向島地域の長屋に、高校生も使える、いくつか面白い場所がありました。
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月数千円・1回数百円で使わせてもらえるらしい。
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若い子は条件応相談とのこと。
割と広くてちょっとオシャレなので、ここでLoohcs志塾もひらけそう。
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大学生がアーティストの陶器を販売する出店?をやったりしていた。
ということで、「コミュニティづくり」や「アート・文化」「場所」をテーマに「何かやりたい!!」と思っている人は、「何かできる!」ような場所があります笑
あと、後藤さんたちと触れ合いながら、向島地域の未来を考えるワークショップもやっているので、ここまで呼んで、何かやりたくなった人は、とりあえず参加してみると良いと思います!
[今回の記事担当]嶺井 祐輝
1991年生まれ。2016年に総合型選抜や推薦入試の対策塾を運営するLoohcs株式会社の設立に参画し、副社長就任。自身も教鞭を執りながら、学校事業の立ち上げと、Loohcs志塾の全国展開に貢献し、2021年より同社代表取締役社長。
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