見出し画像

【随想】小説『傲慢と善良』辻村深月

さてさて。
初の辻村深月作品。
『傲慢と善良』と『かがみの孤城』のどちらにするか迷って、前者にした。
冒頭を立ち読みしたら、どちらも面白そうで、悩ましかったが、『かがみの孤城』は上下巻あって、ファンタジーかつ子供向けかなと思い、まずはボリュームが少なく、ミステリーというとっつきやすさがある『傲慢と善良』にしてみた。
ボリュームが少ないといっても、500ページはあるから、結構読むのに時間がかかった。
文章は、平易ですいすい読めるのだが、第一部のだいたい300ページくらいまでは、なかなか物語が進展しない。
ミステリーというと、探偵や警察が調べを進めていくと、徐々に事件や謎が明らかになっていくのが定石だが、この『傲慢と善良』では、主人公がいくら謎を解くために奔走しても、まったくと言っていいほど手掛かりが掴めない。
この、焦らしというか、停滞というか、物事が進まない凪の時間を通り過ぎたとき、急転直下、一気に地平が開かれる。
これは恐ろしい仕掛けである。
そこまで描かれていた停滞は、すべて意味を持ち、ある人物の実像を浮き上がらせる。
人間一人を描くのに、これだけの紙幅が必要であったのだ。
前半は不在の中心の話。
後半は自立の話。
最終的にはどう落とし前をつけるのか、ミステリーの解決は前半で終了しているから、後半で描かれるのは、新たな別の物語である。
まさかそんな展開になるなんて…、前半にこれでもかと描かれる(途中で何度ももうやめてくれーと言いたくなる笑)人間の劣等感や自尊心、人間関係の悍ましさからは想像もつかないような、文字通り見たことのない地平へと誘われる。
自分的には、納得感のあるラストへと収斂してくれたと思ったが、はたして皆さんはどうか。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,568件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?