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【随想】映画『ラストマイル』塚原あゆ子

うーん。どうだろうか。あんまりよく理解できなかったのか。爆弾の数あってる?そんなことはいい。散りばめられた情報は結構あった。犯人探しが主題の娯楽作品ではない。わりかしちゃんと社会問題を扱った映画。いかんせん社会の一構成員として、客観視することができず、自分には何ができるだろうと、見てる間に辛くなった。様々な問題が解決せぬまま、凝縮されていて、その歪みが事件として顕在化して、ようやく人は目を覚ます。そのくらいのことが起きないと、起きてからでないと、人は気づけない。いや、起きてからでもそれに見て見ぬ振りをして、今を押し進めようとする。止まっちゃいけない。ベルトコンベアのように。そう無意識にインプットされた私たちは、モダンタイムズでチャップリンが風刺した社会の歯車から、今もまだ抜け出すことができない。お客様は神様、顧客第一主義、それは、システムじゃない人間性の縁(よすが)として配送ドライバーの矜持(ラストマイル)に描かれる。しかし、そのせいで、過剰な労働を正当化し、言い訳し、結局システムの皺寄せを被る。人間性の獲得を高々に謡う企業の命題が、自分たちで作り上げた資本のシステム、欲望の連鎖の中で、逆に人間性を奪っていく。それこそ、滑稽ではないか。岡田将生は、いわゆるブラック企業を辞め、安定と効率を求め、システマチックな大企業(外資)を求める。そして、辿り着いた場所。食べるものは、ファーストフード。人間性の不確かさに疲れ、自ら人間性と対極の場所を選んだ。しかし、最後にセンター長を任され、あのロッカーの表記を見た時、岡田将生は絶望しただろう。再び人間性に翻弄されたあの重圧の日々が待ち受けていると。満島ひかりは、限りなく上を上を目指す競争社会で成功し、しかし働きすぎた結果、バーンアウトしてしまう。再起をかけた復職は、日本支社のセンター長。もう失敗は許されない。レールから落ちないように。サラ、五十嵐、八木、すべての人を説得しようとする。物流を止めず、被害を食い止める。最適解を導き出す(システムを作る)そのビジネススキルでここまでのし上がったのだ。しかし、彼女もまた、ロッカーを見て号泣する。休職という形で一時停止せざるを得ない状況になった彼女の過去がリンクしたのではないか。それはシステムの中を駆けあがることで保ってきた自身の価値を再び揺さぶるメッセージだった。あなたの本当にほしいものは何ですか?この問いかけは、重い。

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