あいやしばらく。
海辺のカフカ、
ようやく読み終えた。
大変だった。
長かった。
遠かった。
でも、何がなんだかよくわからなかった。
物語がうまく頭の中でつながらない。
読み終わって、はてここはいったいどこだろう。
何も見えない。
今まで読んできた小説とは
明らかに異なる。
異質だ。
何が異質かも言語化できない。
文字の意味はわかる。
文章の意味もわかる。
起きている出来事、語られている言葉もわかる。
でも、何が言いたいのか、わからない。
なぜ、空から魚が降ってくるのか?
なぜ、みな四国に導かれるのか?
佐伯さんは、本当の母親なのか?
ナカタさんの口からエクトプラズムしてきたものは、何か?
ジョニー・ウォーカーはいったい何者で何をしようとしているのか?
どうして、カフカ少年に血がついていたのか?
入り口はどこに通じているのか?
まさにカフカ少年が夏目漱石の『坑夫』を読んだ時と同じ感想だ。
様々な「なぜ」が置いてきぼりにされたまま、
物語は終わる。
宙ぶらりんな気持ちだ。
これではまずい。
完全に損なわれてしまっている。
なぜを、解読しなければ、読んだ気がしない。
しかし、本当に答えは書かれているのか?
もしかしたら、忘れているだけで実は書かれていたのかもしれない。
カフカ少年のように、
黄色いスプレーで目印をつけながら、
文章の森を遡ることにしよう…。
居場所
主人公のカフカ少年には、居場所(戻る場所)がない。
だから、居場所(戻る場所)を探す旅に出る(家出をする)。
15歳になる誕生日に。
そして、どうなりたいのか。
結果的に、カフカ少年はどうなったのか。
森の深奥部=入り口の石の中(集合的無意識)で佐伯さんと邂逅し、居場所(戻る場所)を手に入れる。
居場所は、佐伯さんのことを記憶し続ける場所。
予言
予言とは、遺伝子のことだろうか。
カフカ少年は、父からの予言に逆らうため四国に移動したが、
結局、夢の中を通ってナカタさんの身体に乗り移ることで、予言を実行してしまう。
予言が実行されても、カフカ少年は救われない。
血の呪縛に囚われていたカフカ少年は、最終的に森の深奥部=入り口の石の中(集合的無意識)で佐伯さんの血を受け入れる。
夢≒想像力
この小説において、夢は何を意味するか。
ナカタさんにとって夢は、啓示を受ける場所のようだ。
また、夢は、想像力とも繋がっている。
カフカ少年は、実際に手を下していないかもしれない。
しかし、カフカ少年は、その予言を「想像」してしまった。
もしくは、予言の「夢」を見てしまった。
ナカタさんは、カフカ少年に身体を乗っ取られる。
ナカタさんは、中身をどこかに置いてきてしまった。
中身というのは、自意識、自我(エゴ)のようなものであろうか。
「自我」が重要視されたり、「無意識」が発見されるより前は、
カフカ少年がナカタさんを乗っ取るというような考えは、ごく自然な心の状態だった。
だから、カフカ少年には、血が付いていたのだ。
大島さんは、佐伯さんの幼馴染の恋人を殺したのは、「想像力を欠いた人々」だと言う。
カフカ少年は、自分のことを「うつろな人間」だと自覚している。
力
「力の源泉」は、15歳を迎えたカフカ少年にも芽生えている。
この力は、誰にでも芽生える「他人を損なうことができる暴力性」のようなものか。
やがて、その「力」は、正体を現す。
ジョニー・ウォーカーは、力の源泉、父親の中の「何か」であろうか。
やはり、人智を超えた「自然現象」のようだ。
特大級の笛を作らせることは、どうやら危険なことのようだ。
きっとイワシとアジを降らせるより、大きなことができるに違いない。
ナカタさんから「資格」を引き継いだホシノさんは、ジョニー・ウォーカーの魂が入り込まないように、入り口の石を閉めなければならない。
なぜなら、その入り口は、すべての人の夢(集合的無意識)と繋がっているから。
ナカタさんを通して「力」を行使したカフカ少年に対し、
カラスと呼ばれる少年も忠告する。
「力」では、「予言」を乗り越えることはできない。
メタファー
なぜ「予言」が存在するのか。
自らを深め広げるために、「メタファー」という装置がある。
だから、カフカ少年は、森の深奥部=入り口の石の中(集合的無意識)へと入っていく。
それは、自分自身の内側へと入っていくことに他ならない。
佐伯さんは、カフカ少年の本当の母親だったのか。
ゲーテが言っているように、世界の万物がメタファーである。
森の深奥部=入り口の石の中(集合的無意識)で「メタファー」が組み替えられる。
こうして、カフカ少年は「予言」を克服する。
入り口の石
カフカ少年、佐伯さん、ナカタさんは、
入り口の石から中(集合的無意識)に入ることができた人たちである。
佐伯さんは15歳の彼女をその場に置いてきてしまった。
その代り、大ヒットする「海辺のカフカ」のコードを手に入れた。
ナカタさんは、そこにほとんど中身を置いてきてしまった。
その代り、ナカタさんは空からものを降らしたり、猫と会話する能力を手に入れた。
やはり、入り口の石の中(集合的無意識)の中では、「メタファー」の組み替えが行われているということではないか。
「夢」と「現実」がこれ以上、こんがらがらないようにしなければならない。
様々な「なぜ」を解読してみた結果、
物語を読むという行為(想像力)を通して、様々なことを「疑似体験(メタファー)」することで、新しい自分を獲得(損なわれた空白を満た)し、「想像力の欠如=暴力(恐怖・怒り)」を乗り越えよう」
と読んだ。
ただこれは、反証のない仮説である。