南半球に昇る黒い太陽の正体とは?

鉤十字は悪魔の足跡

2019年3月15日、ニュージーランドのクライストチャーチにある2つのモスクで銃乱射事件が起こった。
白人至上主義者であるという犯人の男。彼のマニフェストや所持品には、“ブラックサン”という謎めいたシンボルが描かれていた。


「ヴァルハラで会おう」
そう言い残し大量虐殺を行った犯人が身につけていたシンボルの「ブラックサン」。かつてナチスの親衛隊が使用していたとされるが、なぜかバレーボールの会場でそのデザインは目撃されている。

ハーケンクロイツも同じようなデザインだが、ナチスが使用したのなら、それは古代ゲルマンに由来するものなのか。
しかし、私にはあるフォルムが真っ先に脳裏に浮かんでいた。
それは、悪魔ブエル

『ゴエティア』によると、50の軍団を率いる序列10番の地獄の大総裁。
『地獄の辞典』第6版以降のM・L・ブルトンによる挿絵では、ライオンの頭と5本のヤギの足を体の周りに持つ姿で描かれており、今ではその姿の方が有名である。また、ヒトデの姿をした悪魔という説もある。
ブエルの名前の由来は不明であるが、興味深いことに"Buer"(現ゲルゼンキルヒェン)という古都がドイツのヴェストファーレンにあった。

ブエルはソロモンに仕えた72柱の悪魔の1柱である。
ウィキペディアが「興味深いことに」とわざわざ関連付けている「ゲルゼンキルヒェン」を調べてみると、「ナチス政権においては、石炭の採掘や石油精錬の中心都市にまで成長していたが、それゆえに第二次世界大戦では連合国による激しい爆撃の対象となった。」とある。
ここでナチスの名前が出てくるということは、悪魔ブエルと鉤十字、ブラックサンは同じ意匠を汲んでいるということだろう。
まあ、ゲルゼンキルヒェンはバレーよりサッカー選手の方が多そうだし、ブエルも足と頭しかないからサッカー向きなのだろうが。

ブエルのような悪魔はヨーロッパで中世以降に流行した魔術書(グリモワール)の中に登場する。神学に対して悪魔も体系化され悪魔学として広まるのだが、必ずしもユダヤ教やキリスト教の文献に基づいているわけではない。
とくにソロモン関連は単にキリスト教がユダヤ教を攻撃したいがための創作に近い。現在カバラとして流通するものも、じつはクリスチャン・カバラで、キリスト教徒の二次創作物なのだ。

ナチスにとってハーケンクロイツが表の国旗なら、ブラックサンは裏の国旗… 暗黒のエネルギーを放射する神は地球外生命体だと噂される。(「失われた地底人の謎」ムーブックスより)

ナチスは北方人種の優位性を支持していた。(アーリアン学説という嘘科学)
コーカソイドはモンゴロイドなどに比べると後頭部の出っ張りが大きく、中でも北方人種はその膨らみが大きいので高等な種族であるとされた。
SF映画に出てくるエイリアンの多くが異様に後頭部が発達しているのは、地球人よりも高等な生物だからである。
北方人種は北欧系をその典型とし、ノルディック人種とも呼称された。
要するにヴァイキングのことである。
歴史を遡ると、ヴァイキングとムスリムは仲が良かったが、どちらもキリスト教国から見ると異教徒だった。

異教徒 → エイリアン

スピリチュアリズムはキリスト教をリノベーションしたようなものだ。
異教の神々は悪魔と呼ばれたが、その後、異星人にモデルチェンジする。

ヒトラーの右腕にしてSS長官ハインリヒ・ヒムラーは、このヴェヴェルス城の地下で怪しげな儀式をしていたという。
地下には例のブラックサンが描かれ、ドルイド系の二人の巫女を霊媒に、アルデバラン星人とコンタクトをとっていたというのだ。

ブエルはヒトデの姿で描かれることもある。
悪魔なので、五芒星=5本の足=ヒトデということなんだろう。
仮面ライダーの敵として現れたヒトデヒトラーは集合的無意識が生み出した傑作だったのだ。

「UFO=ナチス製説」を信じる人は今だに根強い。
星を模るちょび髭おじさんの出現は、ヒトラー異星人説を無意識的に補完していたのだろう。

象られた宇宙

悪魔ブエルが何やらNHKの大河ドラマの『いだてん』と似ていると一部のマニアから話題になっているようだ。

韋駄天はインドの軍神すかんだのことだ。
すかんだは足が速かったので陸上競技の神様と讃えられる。
インドといえば国旗や仏教の卍や法輪も同じ回転系の車輪またはチャクラムなのである。ヒンドゥーで卍はヴィシュヌの胸毛を模していたとされるが、ヨーロッパの卍は三脚巴紋(トリスケル)から派生したテトラスケリオンではないかという説がある。
三脚巴はフランス・ブルターニュのシンボルであり同様にマン島シチリアのシンボルでもある。
『いだてん』はまさにこのトリスケルと同じデザインなのだ。

卍はラウブル(バスク十字)とも呼ばれ、バスク人やケルト人、ゲルマン人なども使用していた。古代からありふれたデザインであると同時に幸運のシンボルでもある。


ラウブルは元々、太陽光を表していたとされる。
その回転を止めて、ただの十字にしたのがキリスト教である。
卍の回転を止めたのがキリスト教なら、それを折り畳んで箱にしてしまったのがイスラム教。
イスラム教の聖地=カーバ神殿は四角い。
カーバとはキューブのこと。
だから立方体を解体してみると十字架の形になるのである。

カーバ神殿の由来は、おそらくクババだろう。クババはアナトリア半島の地母神キュベレーのことだ。
ローマのキュベレー神殿(現サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂)に運び込まれた女神像は隕石を加工したものだったらしい。
カーバ神殿の御神体である黒曜石も隕石だといわれる。
そう、宇宙から来たのだ。

キュベレーとカーバが同じ隕石だったのかは不明だが、カーバの黒石は月の女神アッラートの御神体として信仰されていたという。
黒石は現在も巡礼の目玉として立方体の一角(①)にはめ込まれている。

ムハンマド以前のアラビアは多神教で聖石を拝んでいた。アラーの娘=アッラート、アルウッザー、マナートの三柱が事実上信仰の対象で「父なる神」は偶像すらなかった。偶像崇拝禁止で唯一神化されるには実体がない方が都合がよかったのである。

三柱の女神の象徴はシンボルとして受け継がれている。アッラートの月、ウッザーの星(明けの明星)の組合せはオスマン1世の夢にうまくシンクロし、東ローマ帝国の後継としてその意匠も受け継いだ。

伝説によれば、若い頃、オスマンは長老(シェイク)エデバリの娘マル・ハトゥン に恋をしたが、貧しいオスマンは相手にされない可能性があった。そのため、オスマンは手柄を挙げるために、キルメンジク城の城主でギリシャ人のケセ・ミカルを捕えたが、オスマンとミカルは意気投合、友人となった。
ある時、オスマンは夢を見た。月が長老の胸から昇り、その月がオスマンの胸へ沈んだ。すると、その月が沈んだオスマンの胸から大きな樹木が生えて天を覆いつくし、その根はチグリス、ユーフラテス、ナイル、ドナウのそれぞれの河川を形成した。
そして、風が吹きだすと剣の形をしたその樹木の葉がコンスタンティノープルの方角を指したという夢であった。オスマンはエデバリにこの話をするとエデバリはこれはオスマンが世界制覇をするという予言であると夢解きを行ない、娘マル・ハトゥンをオスマンの妻としたという。(ウィキペディアより)

ただし、月(星)が国旗に描かれるのはトルコやアゼルバイジャンやシンガポールなど、純アラビアではないイスラム国に見られる。
アラブ諸国は汎アラブカラー(赤、黒、白、緑)がほとんどのようである。

ちなみにイスラエルの「ダビデの星」は何の星なのか?
私の記憶が確かならば、あれは星かどうか定かではないし、歴史上のダビデとは関係ない。
考案したのはイエズス会で、ダビデ=Davidのスペルの最初と最後の頭文字Dがギリシャ文字だと三角形なので、それを組み合わせたらしい。嘘くさいが。

いずれにしても六芒星がユダヤのシンボルになったのは17世紀以降で、ユダヤ教がこの図形を教義上神聖なものと見ている事実はない。

世界に広がる光の輪

ブラックサンやハーケンクロイツは太陽十字を元にしているという。


太陽十字の円と十字は、太陽の円を太陽神の戦車(チャリオット)の車輪とする解釈から派生した。

インド神話の太陽神スーリヤ


ギリシャ(ローマ)神話のヘリオス(ソル)


太陽十字は、現代のヨーロッパでは、白人至上主義団体やファシズム団体のシンボルによく使われる。KKKやブルガリアの極右団体ラートニクの旗などがそうである。

また、聖パトリックが異教のアイルランド人を改宗させる際にラテン十字に太陽十字をがっちゃんこしてケルト十字を創ったという伝説が広く信じられている。

太陽十字は、1920年代に国際汎ヨーロッパ連合の旗のデザインに使用された。

ちなみに、汎ヨーロッパ主義の条件とは・・・
地理(欧州大陸)
宗教(キリスト教)
言語(インド・ヨーロッパ語族)
文化(古代ギリシャ・古代ローマ)
文字(ラテン文字・キリル文字・ギリシャ文字)
人種(白人・コーカソイド)

ナチスの母体となったトゥーレ協会のシンボルは太陽十字から鉤十字が導かれる瞬間を捉えている。

この他にも、太陽の光の輪は世界中に満ち溢れている。


世界連邦運動協会


NATO


旧統一教会


生長の家


世界救世教


崇教真光


ラエリアン


占星術と錬金術における化学反応

天文学では何故か太陽十字は地球のシンボルになっている。
天動説だった頃の占星術の記号に地球は存在しなかったので、地動説後に追加されたのだろう。
四大元素の土の転用で四方の大地もしくは赤道と子午線を表すそうだ。なんか嘘くさいが。
ちなみに性別の♂は火星(軍神アレス)♀は金星(アフロディーテの手鏡)がモチーフである。

もう一つのモチーフとされるのが宝珠である。
世界(球体)に対するキリスト(十字架)の支配権を象徴する。
ヨーロッパの王様がやたらと手にしている球体のことだ。

宝珠(ラテン語: globus cruciger、英語: orb、ドイツ語: Reichsapfel)とは、十字架が上に付いた球体のことである。帝国宝珠ともいう。中世を通して、そして今日でも、キリスト教の権威の象徴として、硬貨、図像学、レガリア(王権の象徴)で使われる。また、世界(球体)に対するキリスト(十字架)の支配権を象徴する。地上の統治者(時には天使のような天界の存在)が、文字通り手で持つことで、支配権を表す。キリスト自身が宝珠を持つ場合は、西洋美術の図像学では「世界の救世主」(en:Salvator Mundi)として知られている。王笏と組み合わせて描写されることが多い。(ウィキペディアより)

アンチクライストを宣言したセックスピストルズにファッションを提供していたヴィヴィアン・ウエストウッドのオーブは地球を土星(サターン)に置き換えている。

「錬金術では黒い太陽 sol niger(ソル ニゲル)は土星の象徴であり、太陽の暗く破壊的な面を意味するとされる」(ミランダ・ブルース=ミットフォード 著『サイン・シンボル事典』)

黒い太陽とは錬金術に関連する言葉でもあるようだ。

「錬金作業の<黒化 nigredo>の段階における物質の腐敗・混沌状態を示す<黒い太陽 sol niger>。日食にも比せられるこの死と闇の状態は、同時に復活と光の母胎でもある。そこから<黒い太陽>は、一種の救済表象として、G.deネルバルやO.ルドンらの作品にも受け継がれていく。」(『世界大百科事典 17』)

オディロン・ルドンは不思議な絵をいくつも残している。


そしてルドンの影響下に、西洋妖怪の帝王がいる。

そう、バックベアード様だ。
黒い太陽と呼ぶにふさわしい造形である。

バックベアードは伝承のない妖怪である。
にもかかわらず、ドラキュラやフランケンシュタイン、狼男といった名高い西洋妖怪の頂点に君臨している。

普通であれば、西洋でお化けよりも恐いのは悪魔である。
しかし、悪魔がいれば神がいる。
水木しげる先生は、多神教的な観点で描かれる自由な妖怪の世界に、一神教的な制約を持ち込みたくなかったのではないだろうか。

どうやら人間の世界は妖怪の世界に比べるとまだまだ多様性が足りないようである。


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