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#物語

揺曳

揺曳

 交通整備の赤い誘導棒が遠い闇に揺れていた。何かが呼吸する。暮れゆく都市の、無数の箱たち。呼吸した。夜の予感が隙間風のようにガラス戸を浸潤する。また何者にもなれないまま、秋がやってくる。それは悲しみというにはあまりに浅く、後悔というにはあまりに遅い。おれたちは時間という速度の中で公転する。おれたちの球面の上には、名状しがたいどぶ色の感情の星雲が渦巻く。雲を突き抜ける強さもなければ、爆発する度胸もな

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