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あたしの夏は妖怪ウォッチ 2022年7月10日

今から8年前の夏、町中にセミの声があふれていた夏。あたしの手元には、一本のゲームソフトがあった。

「妖怪ウォッチ2 本家」

当時小学生たちの間で大ブームとなっていた妖怪ウォッチのシリーズ二作目。ニンテンドー3DSのソフト。これはあたしの夏そのまんま。中学生の頃の、夏一番の思い出だ。


妖怪ウォッチ2 を手にする一年前、弟が前作の「妖怪ウォッチ」をやっていて、中学生だったあたしはその楽しそうな様子を見ながら「いや、あんなの小学生がやるゲームだし」「男子がやるゲームだし」と興味の無いふりをしていた。

本当は、あまりにも面白そうで仕方なかった。

結局勇気を出してなんとかお母さんに許可をもらって、お小遣いでソフトを買った。

弟が「元祖」、あたしが「本家」。

買ってみて、プレイしてみて、思った事。

妖怪ウォッチは

本物の「夏」だった。


二作目妖怪ウォッチの舞台は夏休みで、主人公は自分のおばあちゃんの家がある「ケマモト」と「ナギサキ」という田舎町に行ける。

その風景が、ケマモトとナギサキの景色が、

あまりにも純粋な「少年少女の夏」だった。


ゲームの中で出来ることは「妖怪を仲間にする」「妖怪を戦わせる」「ストーリーをクリアする」がメインだけれど、そういう内容の他にも、たくさんのサブイベントがある。

虫取り、魚釣り、くじ引き、自転車レース、不気味なトンネルの冒険……

一つ一つが、元気いっぱいの少年少女の夏休みだった。


夏に関係の無い部分でも、もちろん思い出はたくさんある。


ジバニャンの過去が重たかったこと。

攻略法が知りたくて、3DSで画質の悪いYouTubeを見たこと。

初めて「ゲーム実況者」という存在に出会ったこと。

嘘臭い都市伝説チャンネルを本気で信じたこと。

鬼が強いのに、仲間になったらそうでもなかったこと。

歌舞伎座の奈落を見て、「こんなの、妖怪ウォッチでしか見れないよー-!」とすごく興奮したこと。

道案内をしたのに馬鹿にしてくるおばあちゃんに「はぁ!!?裏切り者じゃん!!」とむかついたこと。

花さか爺が便利すぎて、大好きなズキュキュン太を解雇してしまったこと。


その他にも。

通信対戦が楽しかった。弟と何度も対戦して、何度も負けた。何度も勝った。

家でWi-Fiを使うのが禁止だったから、毎週土曜日に家族でショッピングモールに出かけた時にだけ、こっそり通信対戦をした。

本当はそれもだめだったから親にバレないようにこっそりとゲームコーナーに向かう。やってる間中ずっとドキドキして、でもそんな時間が楽しかった。

どんな戦いでも、ブシニャンが大活躍した。

相手のミツマタノヅチが強すぎた。

妖怪を改造してくる人がいた。

ふぶき姫が、本当にかわいかった。

技チャージのために本気になって、ペン先も画面もぐちゃぐちゃに削れた。

バスターズの日ノ神には、多分まだ勝てたことが無い。

弟が友達と協力して、ついに「勝てた!」と言っていた時は、自分のことみたいに嬉しかった。

でも何よりも。何よりも。

妖怪ウォッチは「夏」だった。

本物の夏だった。


一日中、神社で虫を取った。

撒き餌をとって魚を集めた。

夜の学校に入ったら妖怪がいて、「あたしの中学校も、夜には妖怪がいたりして!」とわくわくした。

うんがい鏡で、田舎町にひとっとびだった。

キウチ山のアゲアゲハが全然仲間にならなかった。

田んぼにくじ引き券が落ちていると嬉しかった。

「魂へんげ」って、なんか残酷だなって思った。

えんえんトンネルのひょっとこが、本気で怖かった。

そんなあまりにも純粋な夏すぎる毎日で、あたしは妖怪たちに出会い、ともだちになった。

ゲームに夢中になって夏が過ぎ、秋が来て、冬になっても、

妖怪ウォッチの中はいつだって夏だった。

中学生の自分からは元々遠くて、どんどん遠ざかるばかりだった小学生の夏休みが、ずっとそこにいてくれた。


そこからもっともっと遠ざかって、今あたしは大学三年生。

最後にプレイした日から、何年経ったんだろう。

もう3DSは生産が終了してしまったらしく、今持っているのが壊れたら、中古で買うか何かしないと妖怪ウォッチは開けない。

去年くらいに久しぶりに本体を開いたら、本体のどこからか「パキッ」という音がした。よく分かんないけど、多分どっか割れた。

充電コードも断線していた。接続部分を変な角度に曲げて無理をさせて、何とか充電できた。売ってるなら新しいのを買いたい。

やっと表示されるようになった画面は、充電残量が真っ赤に表示されていたけれど、色味もソフトの中身もしっかりと表示されていた。まだ動くことが分かって安心した。最後に閉じようとしたら、またどこかが「パキッ」と鳴った。それ以来、触っていない。


今もどこかの田んぼや漁港を訪れては、

セミの鳴く道を歩く。釣りをしているおじさんを見ながら海岸を歩く。

木の上。車の下。路地裏の陰。

どこかにこけしが落ちていたり水あめがあったり、妖怪がいたりしないかなって、思う。

夏になると、あたしの頭の中には、のんきでヒョロロロロンとした妖怪ウォッチの音楽が流れだす。

ズンチャッチャ ズンチャッチャ

ヒョロロロロン 

ミーンミンミンミン ミー


どこかで鳴くセミの声と、妖怪ウォッチの音が重なって一つになる。


ほわわん ほわわん 


妖怪を探す時の、レーダーサーチの音がする。


ミーン ミンミンミンミンミン ミー 


またセミの声がする。


ほわわ〜ん ほわわ〜ん


また、レーダーサーチ。


二つが重なって、夏になる。


あれから8年も経ったのに、もう大学生なのに。あたしの夏の音はいつまでたっても妖怪ウォッチ。

きっとこれからも、あたしは夏になるたびに、いるはずのない妖怪を探している。

ずっとずっと、探している。




今年も夏が来た。妖怪ウォッチの夏が来た☀️









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