シャープマーク♯

誰かに向けてコツコツと物を書きたいです。小説の創作・エッセイ・趣味の紹介などをペース良…

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誰かに向けてコツコツと物を書きたいです。小説の創作・エッセイ・趣味の紹介などをペース良く投稿していければと思います。読んでいただければ嬉しいです。

最近の記事

2022年12月4日

二十歳  その日に限らずこのひと月ほど、自分の仕事の出来なさに不快感を覚えていた。不快感というのは刺すような痛みではなく、絶えずまとわりつく比重の重い泥のようなものを心に残してゆく。昨日を生きるのも明日を生きるのも、本質的に変わらないような心持ちがして、寝る時間だけが幸せと感じるような毎日が暦の上を流れていく。何をやるにも活力が必要とされ、頭ではそれがたいしたことのない、思い過ごしだというのが分かっていても、体と心が付いてこない。  新しいゲームを買った1週間前には、ゲー

    • 灰 と 灰

       「僕を何か、規則で結びつけておかないと、そうでないと、僕は飛び出していってしまうんだ。巨大化していくこの惑星から。あるいは、飲み込まれている過程なのかもしれない。本当は僕は宇宙に立っていて地球に向かって、絶え間ない下降を繰り返しているのかもしれない。過去の自分が理解できない。一体何を考えていたのか予想もつかない。過去の記録が一切ないのにどうして未来の軌道を計算できるだろう? それらは断片的ですらない。補間もできない。昔の自分を、たとえば昨日ベッドに入る前の自分を、肯定どころ

      • 2023年と読書遍歴

         年の瀬*に、自分だけのために振り返りをするのを、公の場(ほとんど誰も見ていないとしても一応は衆人環視の場)に晒すというのは、あまり適切ではないかもしれない。  しかし、他者の目を意識することはいくらか文章を柔らかなものにしてくれるし、自分が後で見返した時の感じ方を変えてくれると(あくまで)思う。 *結局2024年に入ってからアップしました。  一人称目線のまとまったセンテンスは、どことなく作り話のような雰囲気を拭いきれない。たとえば文章でなくても、向かい合って悩みを相談

        • 書くこと

          知らないことは書けない。 それをこの2日くらいできちんと知りました。 「知りました」と言い切ってしまうのは今から書く文章の内容と矛盾するので良くないけれど、まあ5%くらいは掴めたんじゃないかな。 今までは創作欲自体はこの何年間か 燻り続けていたものの勢いで書いては改稿もせずに終えていたので、今回、5,000字の小説『モノクロ』と2,000字の『マッチ』を書いてみて色々気づくものがありました。 2日ほど前に始めたNoteの習慣(というのもまだおこがましい)もいつまで無事に続

          マッチ(短編小説)

          「マッチ、持っといて。」  手に持った線香の火が消えてしまわないように最小限の動きで差し出されたマッチ箱を、おずおずと両手で受け取る。お墓参りのしきたりなんて何も知らないから、私は、父と祖母がお供えのスズランの花を見ながら何か話している背中を後ろから見ているだけだ。もう22歳にもなるのに幼いままの自分を、苦々しく思わずにはいられなかった。  住職の女性が墓石に向かってお経を詠んでいる間、父は手を合わせて一心に祈っていた。祖父には小さい頃によく遊んでもらったけれど、一生懸命

          マッチ(短編小説)

          モノクルとパンダ(短編小説)

           まったく、大学生なんてクソ喰らえだと思う。大学生という言葉で一括りにしてしまえば十把一絡げで、繰り返されてきたお説教のように聞こえるけれど、別に彼らのファッションや言葉遣いに文句が言いたいわけじゃない。彼らは未完成で、それを自覚してないんだ。それはもう、京都の冬の寒さくらい致命的なんだ。 「ならば君は一体どのような青年を志しているのかね。自分はそのダイガクセイの例に…。失礼、このポッドは適切に洗ってあるかね?」  言葉を発したのはモノクルをかけた老人だ。いかにも、ご老体

          モノクルとパンダ(短編小説)

          青年の唄(短編小説)

           初詣。彼の隣を歩く彼女は、引いたおみくじが中吉だったことに可愛らしく肩を落としている。地元の神社で既に初みくじを引いていた彼女は、それが大吉だったにも関わらず、新たに買い直した運命に嘆きの声を上げる。  寒さを追求していく1月の京都で手をかじかませながら両手でブラックコーヒーのカップを運ぶ。女子大生とスターバックスの組み合せからすれば少し予想外のオーダーに、彼は彼女の人柄を図りかねている。  彼女とはまだ数時間ほどしか話さないまま次のデートを示唆的に約束して、帰途に着いた

          青年の唄(短編小説)

          学生の街(短編小説)

          朝起きて、歯を磨いて、顔を洗う。起き抜けのコーヒーを堪能するために、蛇口をひねりポットに水を入れる。それがかたんと音を立てるのと同時に、あまり趣味のいいとはいえない赤色の、古いトースターから食パンが飛び出す。  ナイフの先でバターが広がっていくのを感じながら、僕の頭の中に響いているのはジョン・コルトレーンのマイフェイバリットソング。 「これが、きっと求めるべき、目に見える幸せだよ。」と僕は言う。 「それは、あなたの、幸せでしょ。」  彼女は昨日の夜、あまり眠れなかったようだ

          学生の街(短編小説)

          恥は誰が為の感情か

          およそ2年前ほどから不思議に思っていたことがある。「恥ずかしい」という感情がどうして我々人間に備えられているのかということ。 喜怒哀楽を感じるのは、その先の目的を考えれば自然なことである。怒れなければ生存競争ができないし、戦うこともままならない。哀しめなければ愛なんて存在しないし、感動することもできない。 喜怒哀楽、妬み、嫉み、苦しみ。これらの感情は集団生活を営むにおいて必要不可欠だと思うし、悟りでも開かなければこれらを捨て去ることはできない。初めから持って生まれてこなけ

          恥は誰が為の感情か

          満足な豚にも不満足なソクラテスにもなれない

          世間知らずの大学一年生です。夏休みの暇つぶし J・S・ミルの格言に「満足な豚よりも不満足な人間でありたい。満足なバカよりも不満足なソクラテスでありたい。」なんてものがありますよね。ここでぼくが主張したいのはたった一言で、私たちは満足な豚になんてなれやしないということ。 この言葉のイメージで言えば、あたかも、向上心の高い、立派な人間だけが不満足な人間ないしはソクラテスを目指し、その他の凡夫はブヒブヒ鳴いているみたいですが(※個人の感想です)、全く逆だとは思いませんか? ぼ

          満足な豚にも不満足なソクラテスにもなれない