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新型コロナウイルス論文でも研究不正!

新型コロナウイルスには「漢方薬」が有効であると主張する Heilongjiang University of Chinese Medicine の研究者3名による論文 Jun-ling Ren, Ai-Hua Zhang, Xi-Jun Wang, "Traditional Chinese medicine for COVID-19 treatment" が、専門誌 Pharmacological Research (Volume 155, May 2020) に投稿され、3月4日にプレプリントとしてオンラインで公表された。

細かい話は別として、その論文から直接ダウンロードした次の写真を見てほしい。

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写真 (a) は1月24日、写真 (b) は1月28日、写真 (c) は1月30日、写真  (d) は2月4日の患者の胸部CT画像で、要するに、これだけ改善が見られたという結論を示す論文の核心的なデータである(ちなみに、この論文に掲載されている写真は、この4枚セットだけである)。

それにもかかわらず、写真 (a) (b) (c) に比べて、写真 (d) だけは肺の内部の色が濃く、肺の形状そのものも異なり、明らかに異質な(おそらく別人の胸部の)CT画像をコピペしているらしいことがわかるだろう。

この疑惑を3月9日に研究不正摘発サイト「パブピア」(PubPeer)で最初に指摘したのは、アメリカの微生物学者エリザベス・ビクである。

ビクは、スタンフォード大学医学部に研究者として在籍していた2016年、約2万の医学論文を精査して、800の研究不正論文を摘発したことで知られる。その後、彼女は科学的公正性に関するサイエンス・コンサルタントに転身し、彼女のチームは、これまでに2000以上の研究不正論文を摘発している。

さて、ビクの指摘に対して、Corresponding author の Xi-Jun Wang は、いろいろと弁解を並べ立てた。

3月10日には、「ネズミを捕まえる限り、ネコが白色か黒色かは関係ない」(「漢方薬に効果がある限り、論文の些細な点に拘るな」という真意らしい)と返信し、他の研究者から「そのネコが存在しないではないか」(「漢方薬が効くという根拠が示されていないではないか」)と笑われている。

さらに、3月11日には、「この論文は(自分たちの)他の論文の review にすぎない」とまで言い訳を始めて、ビクらを大いに怒らせている。

「パブピア」は、公開された論文に対して誰でも自由にコメントできる英文サイトで、2014年にはSTAP細胞論文に対する疑義を最初に指摘したことで、日本でも知られるようになった。

このSTAP細胞事件をはじめとする科学者の「研究不正」がなぜ起こるのか、現代科学に対する世界最大の「監視システム」といわれる「パブピア」の貴重な意義については、『反オカルト論』に詳しく説明してあるので、ご参照いただければ幸いである。

科学者の「研究不正」とは、何年かに一度、世間を騒がせるような稀な出来事と思われているかもしれない。しかし、科学界では、膨大な数の疑惑があちこちで囁かれているのが実情である。

表に出てくる「研究不正」は「氷山の一角」にすぎない。とくにパンデミックのような緊急事態が生じている状況では、ドサクサに紛れてこの種の不正論文が量産される可能性に注意しなければならないだろう。

それにしても、この3名の研究者たちは、どういうセンスで素人が見ても違和感のある写真を掲載した論文を専門誌に投稿し、しかも言い訳までできるのだろうか?

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