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なぜ危機管理の出発点で楽観視してしまうのか?

2021年10月7日 22時41分頃、千葉県北西部の地下約80kmを震源地とする地震が発生した。最大震度は5強、マグニチュード6.1で、東京でもかなりの揺れを感じた人が多かったと思う。

さて、私の娘は、国立大学の付属高校に通学している。平日は、毎朝7時30分に自宅を出て電車を乗り継いで、授業1時間目の始まる8時30分までに学校に到着する。10月8日も普段通りに家を出たところ、7:40にクラス・ラインから次のような連絡があったという。

全校生徒の皆さん

昨夜の地震により、現在校内が断水しており、トイレも水道も使用できない状態です。ですので、トイレはなるべく駅で済ませて来てください。また、水道も出ませんので、飲料水の補給もできません。必要であれば駅の自動販売機、コンビニ等で飲み物を用意してから登校してください。

この高校の校舎は非常に古い。「トイレも水道も使用できない」状況であれば、天井が落ちてこないか、電気系統で漏電などの可能性はないか、各種設備に問題はないか、改めて地震被害による校舎全体の安全性を点検するのが「危機管理」の基本ではないのか!

そもそも、「トイレも水道も使用できない」校舎に1,000人を超える生徒を集めて、トイレに行きたい生徒が出てきたら、どうするのか? トイレを我慢して生徒が膀胱炎にでもなったら、どうするのか? 高校は、いかなる判断基準にしたがって、7:40の段階で全生徒に登校を命じたのか?

いずれにしても「登校してください」という連絡を見た娘は、高校の最寄駅に到着した。そこに同級生がゾロゾロと改札口から入ってきて「今日は午前中、授業なくなったよ」と知らせてくれたそうだ。そこで再び電車に乗って自宅に戻ってきた。

高校から8:08、保護者宛に次のメールが届いた。

緊急連絡 保護者の皆様へ

昨夜の地震の影響で校内インフラ(上水)が停止しており、復旧の見込みが得られず、トイレが使えないため、午前の授業を取りやめにいたします。当面自宅待機でお願いします。登校している生徒は、HR教室で状況を確認してから帰宅等の対応を取らせていただきます。

娘は、8:50に自宅に到着した。すると、高校から9:59、保護者宛に次のメールが届いた。

緊急連絡 保護者の皆様へ

校内のライフラインが復旧し校内の衛生状況が確保できる見通しが得られましたので、本日午後は授業等を行います。午後の授業は……

娘は午後の授業に出席するため、11:30、再び高校に向かった。もちろん、非常に不機嫌であったことは、言うまでもない(笑)!

危機管理の出発点は「楽観視」しないこと!

もう一度振り返ってみよう。なぜ高校サイドは、7:40に「トイレも水道も使用できない」状況であるにもかかわらず、「トイレはなるべく駅で済ませて」「必要であれば……飲み物を用意してから登校してください」という奇妙な判断を下したのだろうか?

その最大の理由は、断水がすぐに復旧するだろうという「楽観視」にあったはずである。とりあえず生徒を登校させて1時間目が始まれば、校内は落ち着く。2時間目が始まる前までに断水が復旧すれば、大きな問題にはならないだろうと予測したのである。

ところが、おそらく専門業者が点検した結果なのか、すぐには復旧できないことが判明した。そこで、8:08に慌てて「復旧の見込みが得られず、トイレが使えないため、午前の授業を取りやめにいたします」と判断を変えた。その結果、多くの生徒が右往左往して、娘も無駄な往復をしなければならなくなったわけである。

さて、2020年3月、日本政府は東京オリンピック・パラリンピックの開催1年延期を決定した。1年もすれば新型コロナウイルスは収束するだろうという「楽観視」が、結果的に「無観客」開催による莫大な経済的・社会的損失をもたらした。その1年の間でさえ、日本政府は、少しでも感染状況が落ち着くと「GoTo トラベル」や「GoTo イート」キャンペーンを強行して、結果的に感染を大きく拡大させた。

一般に、人間には「好ましくない結果よりも、好ましい結果が起こることを期待する」傾向がある。この傾向は「認知バイアス」の一種で「希望的観測」とも呼ばれる。

したがって、ここで教訓にすべきなのは、なによりも危機管理の出発点は「楽観視」しないことなのである!

高校は、出発点の7:40時点で、午前中の授業停止を決断すべきだった。日本政府は、出発点の2020年3月時点で、東京オリンピック・パラリンピックの開催2年延期を決断すべきだった。

これらの決断は、何も結果を見てから「後出しジャンケン」のように唱えているわけではない。当初から未来を「楽観視」せず、多少なりとも「悲観視」していたら、誰でも簡単に論理的に導き出せたはずの決断である!

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