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「アイドルは成長の物語だ」というマーケティングに異を唱えたい

実際にそんな話をしている分析の記事を山ほど読んだ。しかし、これに違和感を覚えるのだ。今、アイドル業界が突入しているフェーズは「成長の物語」だろうか?何も知らない子が花開く様と評するのであれば、開いた花は枯れ落ちるというのか。

 

【”分断の時代”への突入】

このマガジンの最初でも、アイドル業界というのが分断の時代に入っているという話をした。メジャーとインディーズ、黎明期のTIFで混ざりかけたものが2019年明確にこれが分離し始めた、という話だ。

要因の1つに、TIFを支えてきた中堅グループの解散があると見られているが、もし、成長の物語なのだとすれば、これは物語が中止されてしまったとも見れるし、グループ解散は各メンバーが個々に分かれて新たな成長を目指す物語が始まったのだと見ることも出来る。

例えば、アイドルネッサンスを例にとればイメージが沸きやすい。バンドのボーカルになったり、新しくグループを作ったり、シンガーソングライターになったり、それぞれが様々な活動を始めている。

同世代で解散した主なグループの活動期間を見てみる。


ベイビーレイズJAPAN 6年

PASSPO☆ 9年

アイドルネッサンス 4年

GEM 6年

Cheeky Parede 6年

ベボガ! 4年

つりビット 6年

X21 4年

妄想キャリブレーション 6年


並んでいる文字列だけで涙が出そうである。それはさておき、ここに並んでいる子達の多くは、地下アイドルというよりはポニーキャニオン、プラチナム、ソニーなどのレコード会社や大手事務所主体のグループである。

活動期間が5年近くなると、メンバーが20歳を越えてくるなど将来のことを考えるというのも当然あるし、同時にこれらのグループの規模を考えるとツアーファイナルの会場をスケールアップ出来なかった=成長曲線を描けなかったという問題も見えてくる。

ベイビーレイズJAPANが2014年に武道館をやったことから、同じ規模のアイドルグループの目標となっているが、そこに到達出来ずに解散してしまうのである。


【分断の上位、ドーム公演のその先】

分断された上の方で見れば、AKB48、乃木坂46、ももいろクローバーZ、モーニング娘。などアリーナ、ドーム公演まで進んだグループがいる。会場規模で言えば、日本でやり残したことはないわけで、成長の物語は止まってしまうことになる。

AKB48は、構造上、メンバーが卒業して下の子達がまた成長していくというものになるが、CDのセールスは保っているものの神7、指原莉乃の卒業の陰で今いる子達のバリューがなかなか上がらないというジレンマもある。また一方で、柏木、峯岸、大家、宮崎と言ったキャリア10年越えの人間もいて、アイドル寿命が伸びていく様も感じる。

乃木坂46も卒業と加入を繰り返しているが、グループとしての価値で見ると、より年齢層が広く、かつブランドイメージが高い。AKB48と同じレベルのCDセールスをしながら、ファッション誌なども等身大の活躍が多く、20代以降の女性からも高い支持を得ているのが特徴的である。

ももいろクローバーZは、数字系と呼ばれる上記グループとは毛色が全く異なる。CDセールスは握手券ビジネスをしてないので10万枚程度だが、ライブビジネスに特化している。国立競技場2デイズの11万人動員を始め、これまでに2度女性アーティスト年間動員数1位となっている。さらに、バンドセットでの大型ライブや、各ロックフェスへの参加、初のアジアツアーなど成長の方向を変化させている。

モーニング娘。は卒業と加入による成長という物語の典型ではあるが、20年というサイクルを越えた今、分析の中で言われている成長の物語とは意味合いが異なってきている。個々のメンバーで見れば、素人が成長する様と言えるだろうが、グループで見ると大きく3度のスタイルの変化が発生している。むしろ、それは成長ではなく再起、リボーンというイメージに近く、かつて言われたマーケティングで捉えられたものとは異なると思うのだ。 

 

【分断の下位、成長を止めた世界】

反対にインディーズ、地下に目を向けていくと、「売れたい」と口にしながらも何もアクションしていないグループや、そもそもステージに立ち物販で触れ合うのが目的となっているアイドルまで多く存在する。

"アイドルとは成長の物語である"、とすると、この層が存在している市場を見失ってしまうことになるのではないか。確かにアイドルというひとまとめで見た時には市場規模、取り扱い金額などで見ると分断の上位に向かっていくことがビジネスとしての正解のように見えるが、もはやきちんとした資金源があり、電通などの広告代理店を掴んでいて、国家レベルの事業に入り込み、収益モデルを確立したグループのみが到達出来るのであって、普通のグループが武道館を前に飛び越えることが困難だということは知れ渡っている世界なのだ。

「売れたい」と口にするのは、前時代的な成功イメージの名残、まさしく"アイドルとは成長の物語である"ことをトレースしたポーズに過ぎない。それでも生活は成り立つし、かつて憧れたアイドルと同じようにステージの上でスポットライトを浴びて、ヲタクにちやほやされる承認欲求を満たすだけの構造は出来上がっている。

かつ、さらに潜れば、そこにはライブアイドルと呼ばれる文化があって、年齢や会場規模の拡大を目指すのではなく、アイドルとしてのパフォーマンスを愛する人達が存在し、宍戸留美や森下純菜のようにキャリア30年を目前にした大御所もいる。なにかアイドルをマーケティングで語る時に彼女達を除外してしまっているのではないかと感じるが、アイドル史で考えると、ライブアイドルの影響が秋葉原の街を変える一端になっているわけで、語り尽くせてはいないと思うのだ。

 

【成長を目指すことの息苦しさ】

物語として、成長を目指すことは確かに掴みやすく、噛み砕きやすい。ファンビジネスとして考えても、「応援」という形でより熱狂を生みやすいというのは事実である。

しかし、ここまで見てきたように、現状のアイドルにとって、年齢と成長を何の基準で測るのかということが、彼女達にとっての息苦しさに繋がり、結果、卒業、解散となっているように思うのだ。ビジネスとして見た時に、そこにお金を使っていた人が必ずしも同じアイドルビジネスにお金を落とすかというとそうではない。

結局、この構造を許している限り、”女性アイドルは若くて可愛いからいい”という認識から免れることが出来ず、市場は不安定なままではないか。

AKB48で言えば、研究生から始まり、正規メンバーの出る公演にアンダーで出演、正規メンバーへの昇格、選抜メンバーに選ばれるという流れがある。しかし、各グループの選抜は流動性が低く、1期生であろうと選抜に選ばれたことのないメンバーがいるグループだっている。そこで、選抜メンバーに選ばれる事が命題になってしまっていると、成長曲線が頭打ちし自ら存在価値を疑い始めるきっかけとなる。

アイドルというもの自体の価値観をアップデートする必要があるのではないか。

 

【Lovelysという異聞帯】

Lovelysというグループがいる。アップフロントグループ関西支社に所属しており、活動歴は6年。メンバーのりーたんが24歳、やぎしゃき26歳という年齢層高めの2人だが、活動の拠点は関西である。

ハロプロメンバーが関西で仕事をする際は、普段司会進行を務める上々軍団の2人に代わり、進行役を務めるなど巧みなMC術とキャリアを重ねたパフォーマンスで安定した実力を発揮する。

ハロプロと切り離したアプガ勢とも、チャオベラ姐さんとも違う、そもそも育ちの違う親戚の子のような立ち位置だが、アイドル界の中でもそのポジショニングは少し特殊だ。爆発的に売れたシングルがあるわけでもなく、そもそも当初はハロプロのカバー曲を歌うグループだったわけで、その他のアイドルを指して口にする”成長の物語”とは異なる。

年齢が上がったからといって、大人びたセクシーな曲をやるでもなく、むしろ肩の力を抜いて等身大っぽさを売りにしてる辺りが、どんだけ年を取っても辞める必要がないのではないかと感じさせる。まさにアイドル業界の異聞帯と言える。

 

日本のアイドルを語る時に、より良い状態というのは何かが上手くなる、大きくなる、広まるという成長を軸に語られがちだ。だがそれはアイドルの持つ一面を捉えたものでしかなく、アイドルの多様性を見逃している。じゃぁ、アイドルになる時、アイドルを運営する時、多様性の中のどこをターゲットにしたアイドルになるのか、ということをきちんと考えておかないと、"アイドルは成長の物語である"という前時代の思考に囚われ、自分の中での活動を見失うはめになるのだ。

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