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第2回「バスのダイヤ改正に人流データを活用した話」

 バス会社は、今、大変難しい経営環境の中にいます。日本全体の人口が減少していることはもちろん、新型コロナウィルス感染症の流行に伴い、利用客数が一時大幅に減少し、その後もリモートワークの普及などにより、バスの利用者は以前の水準に戻らにくいこと、過去は人気のあった郊外の一戸建て住宅地は、現在増えている若い共働き夫婦からは敬遠され、そうした住宅地と駅を結ぶバス路線の客層がどんどん高齢化していること(定年を迎え始めています)、さらにバスの運転を担う運転手が不足している上に、2024年問題 (※)により一日の稼働時間が減少し、いままでのダイヤを維持・運用し続けることが難しくなっていること、などです。
 バスは人々のモビリティを維持するために、非常に重要な公共インフラの一つですから、利用客が減少したので、路線を廃止します、という単純な話ではありません。行政も補助金などでバス会社を支援していますが、その原資は税金ですから、効率的な配分が求められます。今回はこうした「運用の効率化を求められるバスのダイヤやルートをGPSデータを使ってチューニングしてみた話」を共有したいと思います。

 手元の集計では運行路線数が24以上あるバス会社が日本には237社あります。このうちLocationMindの推定では、ダイヤ改正にGPSデータなどの位置情報ビッグデータを活用されている会社は、まだごく一部なのではないかと思います。このように想像する背景としては、バスのダイヤをGPSで分析しようとする場合には、鉄道路線との接続を確認する必要がありますが、日本には標準的な「鉄道路線が一覧化されたデータベース」が存在せず、この接続を分析するには、まずそのデータの整備から始める必要があるためです。このように必要であれば、データベースの整備から始めることを厭わないところは、大学研究室発のベンチャーであるLocationMindのような会社の特性かもしれません。
 さて、そのような先端を走るバス会社の一つに神姫バスがあります。神姫バスの取り組みは、国土交通省がとりまとめ、今年3月に公開された「人流データ利活用事例集」46ページからに詳しく紹介されていますので、ここでは概要をまとめておきます。

 まず、集計したデータは、対象となる兵庫県神戸市の三宮駅からポートアイランドの周辺で、500mメッシュ毎にエリアを分解し、15分間隔で出発地点と到着地点(OD)(🤞)を集計しました。秘匿の影響(🤞)をうまくコントロールするため、複数回に渡りデータの集計要件を微調整し、やっとできあがったデータを可視化して、今まで見えなかった「どのエリアから何時何分(5分刻み)にどのエリアに移動する人流があるのか」を可視化していきました。するといくつか面白い発見がありました。例えば、

  • ポートアイランドのオフィスから帰宅が始まる時間が、予想よりも早かった

  • ポートアイランドのエリアによって、帰宅ラッシュとなる時間にズレがある

 神姫バスではこの結果をうけ、2023年春のダイヤ改正で、部分的に運行経路を伸延したり、時間ごとのバスの運行本数を増減しました。すると結果として、バスの本数を増やさなくても利用客数が大幅に増えた路線がでてきました。ダイヤ改正はちょうど”コロナ明け”のタイミングと重なったため、単純にバスの利用客数の増減だけでなく、周辺の人流の増加を上回るか、についても検証しました。結果は調整を行ったほとんどの路線で、バスの利用客数が概ね増加する、という結果を残すことができました。

(※)2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する問題の総称
(🤞)マークがあるものは、いずれ掘り下げたBlogをポストする予定です

「LocationMind xPop」データは、NTTドコモが提供するアプリケーションの利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったデータ。位置情報は最短5分毎に測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。