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幽霊が出るというお店で働いていた。

大学生の時に働いていた飲食店は、駅から徒歩5分くらいに建つショッピングモールの地下にあった。
近くに繁華街があったからか、金曜の夜と土曜日が常に忙しく、ホストやキャバクラ嬢の同伴だろうお客様も多かった。
チェーン店だったが、ほぼ家族経営に近い雰囲気の飲食店で、私はそこで大学4年間お世話になった。

私が通っていた土地は第二次大戦時に空襲があり、一帯が焼け野原になった場所だった。
防空壕は地下や半地下につくられ、トーチカが残っているところもあった。
だからなのか、ショッピングセンターの地下にあったこの飲食店には「出る」という噂があった。

私には霊感がない。
オーナーとその奥さん、私と同じ年の娘が働いていたが、3人には霊感があって「見えるひと」だった。
キッチンで働いていた同じ年のひとは「嫌な雰囲気は分かる」くらいだった。
お店はキッチンからホールが見渡せるつくりになっていて、霊はよくホールの端の2人がけの席に座っていたそうだ。
時々閉店作業中に「いまホールを見ないで」と言われた。
わたしには分からなかったが、「『居る』から知らないふりをして」と。
閉店後に座っていることが多く、奥さんは平日にひとりで閉店作業をしているのが怖いと言った。

時々キッチン内の温度がガクッと下がることもあったらしい。
ホールスタッフの私には分からなかったが、時々キッチンの子から「寒い」「いま温度が下がった」という声は聞こえた。
火を使っているのに、不思議な現象だった。

特にそれで問題あったわけではなかったが、ただただ気味が悪いなとは思っていた。
いまはお店を移転して別の場所で経営している。
いま、あの場所がどうなっているのか、噂がまだ続いているのかは分からない。



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