小説家の連載「プリンセスヴァイオレットの冒険」第一話
これは小さな王国の、王女様のお話です。
「ロカエルマーナ王国」という小さな国がありました。周囲を様々な国々に囲まれてはいましたが、強大な軍事力を持っているため、周囲の国に恐れられていました。
国王はコーヒーを好んで飲む以外には何の浪費もしない、つつましやかで倹約家でした。両親から受け継いだ王国を粛々と治めているような、生真面目な王様なのです。
一方、その妻であり王妃は、元は別の王国から嫁いできた王女です。実家は更に強大な力を持った王国で、王妃はそこの国王夫妻の長女でした。情熱的な性格の持ち主で、外国語も堪能であり、刺激的な事が好きな部分もありました。
地味な見た目の国王と、華やかな美人である王妃の、そんな間に生まれたのは、第一王女のヴァイオレットでした。
ヴァイオレットはその名の通り、菫色の瞳をしていて、それが名前の由来です。さらさらの髪の毛に、白い肌と、その青紫色の目が良く似合う、美しい女の子。ただし、生まれたのは夏でありましたが。
結婚したばかりの国王夫妻は、早くお世継ぎをと国民達から急かされていたので、結婚した翌年にはヴァイオレットが誕生した事でほっとしました。何しろ、国を継ぐには跡継ぎが必要でしたから。ヴァイオレットの国では、昔は後継ぎとなるのは男の子じゃないといけなかったのだけれど、今では法律が変わったので女の子が次の国王、つまり女王になってもいいのです。
王妃はヴァイオレットがお腹にいた頃に、ずいぶん体調が悪くなってしまったので、この姫を出産した後、国王やお医者様と相談して、もう子供は産まないと決めました。
こうして、国王と王妃の子供はヴァイオレット王女ただ一人となり、やがて女王となり跡を継ぐ事が決まりました。
王女は国王夫妻によって、将来国を継ぐための勉強を始めました。優秀な家庭教師がつき、ヴァイオレットは毎日勉強に励んだのです。
そんなヴァイオレット王女もすくすくと育ち、10歳になりました。
とても賢い姫に育ったヴァイオレット。勉強だけでなく、弓矢の腕も確かなものでした。わずか十歳にして、どれだけ遠くの的であっても命中させられる才能の持ち主に成長したのです。
ところで国王夫妻にはこの姫以外には子供はいなかったのですが、子供のような存在なら、いました。
国王夫妻の飼っている、黒猫のレイです。このめすの猫は、かつてとある国で魔法使いに飼われていた猫でした。魔法使いの元で手伝いをしていましたが、ある時逃げ出して、この王国にたどり着きました。姫が小さい時に国王夫妻によって飼われ始め、姫とは姉妹のように育ったのです。
レイは普通の猫とは違い、二つの魔法が使えました。一つは人間の言葉を理解して、そして話せる事。もう一つは、どんな動物にでも変身できる魔法です。馬でもドラゴンでも、好きな動物に変身できました。
国王夫妻と王女、そしてレイは、お城で幸せに暮らしていましたが、ある時、国民の間で「元気が無くなる病」がはやりはじめてしまいました。
「まあ、何と恐ろしい事」
「我々はお城の中にいるから大丈夫だ」
と、国王と王妃は話していましたが、
国民だけでなく、貴族達にも病が伝染していき、やがてとうとう、国王夫妻も元気が無くなる病気にかかってしまいました。
「一体どうしたら良いのか、わかりませぬ」
お医者様もさじを投げるほど、ヴァイオレット姫の両親は弱ってしまいました。全然笑いませんし、食事もほとんどとりません。
「お父様とお母様を助けて、お願い!」
姫はお医者様に必死で頼みましたが、お医者様は悲しそうな顔でこう言いました。
「いいえ、姫様、どうやらわたしも同じ病気にかかってしまったようです。元気が出ないので、王様とお妃様を治す事はできませぬ」
この返事に怒ったのは、黒猫のレイです。
「なんて情けにゃい!こうなったら姫、冒険の旅に出るにゃ!王様とお妃様を救う旅に出るにゃ!」
「それ、いいわね!でも、どこまで冒険に行くの?」
ヴァイオレットは黒猫のレイに賛成しましたが、どこまで行けばいいのか。
「そんにゃのわからにゃいにゃ!でも、とにかく旅に出るにゃ!いろんな国をまわって、この病を治す方法を聞くにゃ!」
「わかったわ!じゃあすぐにでも出発しましょう!」
こうして、黒い馬に変身したレイに飛び乗って、ヴァイオレット王女は出発しました。
「王女様、ご無事で!」
城から出る時、大勢の人が見送ってくれました。
「絶対にお父様とお母様を救ってみせるわ!」
と、ヴァイオレットは決意するのでした。
〈続く〉
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