OLLD23 レポート02: Social Lab
前回に引き続き、OLLD23の参加レポートです。
今回の記事では、OLLD23での、私(赤坂)のプレゼンテーションの内容やそれに対する反応(質問等)などについて振り返ってみたいと思います。
今回の発表内容
OLLDには、研究者による研究発表のセッションがあります。Full paper、Short paper、Posterなど、いくつかの形態がありますが、基本的には、専門家によって組成される評価委員会による査読(レビュー)を受け、採択されれば、会議の場で発表できると仕組みです。
今回、私は、「Infrastructuring social labs: Establising a sustainable research, development, and innovation platform driven by citizen collaboration」という論文が採択され、OLLD23のSocial Transitionというセッションで、口頭発表をしてきました。論文タイトルを和訳してみると、「Social Labのインフラ化:市民共創によるR&D&Iプラットフォームの構築」という感じでしょうか。
この論文は、私が、柏の葉スマートシティ(←産総研柏センターがあります)で実践している「Social Lab」という取り組みについて分析した、事例研究論文です。なお、論文自体は、英語ではありますが、公開されています。OLLDのHPから講演論文集(Proceedings)を閲覧、ダウンロードすることが可能です。
OLLD2023のリサーチセッションで発表された全論文のPDFはこちらです。
また、赤坂の論文および当日のプレゼン資料も、以下からご覧いただけます。
・赤坂の論文
・当日のプレゼン資料
R&D&Iとリビングラボ
本研究の前提には、R&D&Iという概念があります。欧州ではよく使われますが、日本ではあまり聞かない言葉かもしれません。R&D(=研究開発)に、Innovationの頭文字(I)が付いた言葉です。つまり、研究開発だけでなく、その社会実装(Innovation)まで統合的に考えましょう、というコンセプトです。
今回の論文の基本的な問題意識は、「リビングラボのプロジェクト依存性」というところにあります。リビングラボは様々なステークホルダによる共創アプローチであり、その意味で、R&D&Iのために役立つことは、容易に想像できます。しかしながら、海外の研究者(注1)も指摘しているように、リビングラボは、国や自治体等から助成を受けた数年限りのプロジェクトに依存する活動であることも多く、「金の切れ目が縁の切れ目」となってしまう、すなわち、プロジェクト終了と共になくなってしまう、という事例も少なくありません。
そういった短期的なプロジェクトだけでは、実際の地域・都市のプレーヤと長期的に連携する意味があまりありません。リビングラボの仕組み自体が、共創のためのプラットフォームとして都市や地域に根付き(=継続的に実践され)、その上に、様々な目的をもった共創プロジェクトが立ち上がる、ということが理想的だと考えています(図1)。
Social labとその基盤的リソース
そこで、今回の論文では、R&D&Iのための様々なプロジェクトを、実際の生活の場(地域・都市)で行うための「Social Lab」という仕組みを提案しました。Social labとは、端的に言えば、地域・都市全体をラボ化することをめざす仕組みです。実際の地域・都市を舞台に、市民を含む多様なステークホルダとの共創を行いながら、社会をよりよくするための技術やサービスに関する多様なR&D&Iプロジェクトを推進します。
さらに、本論文では、Social Labを構築し、持続的に推進・運営するために必要なリソース(資源、構成要素)についての分析を行いました。今回の研究では、我々の、柏の葉スマートシティにおけるSocial lab構築のための実践的活動分析結果の概要は、以下の図2に書いてある通りです。図2に示すように、我々の研究では、Social labの継続的実践のための基盤的なリソースとしては、(i) 市民との強固で長期的な関係性、(ii) 地域のステークホルダのネットワーク、(iii) 問題解決や技術に関する知識、スキル、態度、(iv) 運営のための手法やツール、(v) 作業・実験スペース、の5種類があることを明らかにしました。
本研究の内容や詳細についてもっと知りたいという方は、是非、論文をご覧ください。
他の参加者からの反応
当日の発表の様子は、こんな感じ(図3)で、たくさんの方に聞いていただけました!また、ありがたいことに、QA時間いっぱいまで、たくさんの質問・コメントをいただくことができました。質問の内容としては、「5つのリソースに優先順位はあるか?」「市民と一緒にビジョンづくりはしないの?」「市民のエンゲージメントを高める工夫は?」「研究機関と市民の関係性って実際どうなっているの?」のような感じでした。
質問を頂けたこと自体はありがたかったのですが、何となく議論がかみ合わない感じもありました。欧州のリビングラボは、何らかの具体テーマ(例:ヘルスケアやエネルギー削減)に関わる大型の研究プロジェクトに紐づいていることが多いです。そのため、様々な(=特定のテーマの縛られないような)共創プロジェクトを支援するための、汎用的な基盤(インフラ)を構築するということ(図1に示したような構造)に関しては、あまり意識が向いていないのかもしれません。
逆に言えば、本研究で注目した「様々な共創活動/R&D&Iを支える汎用的なインフラ」という視点は、これまでのリビングラボ研究ではあまり議論されてこなかった領域であり、これを深掘りすることで、新たなリビングラボのモデル(あり方)や意義を提唱できるチャンスにもつながるのではないか、ということも考えています。そんなことに気づいたことが、一番の収穫だったのかもしれません。
今後も、実際のフィールド(柏の葉)での「実践」を今後も続けていきながら、Social labやそこにおける様々な共創を下支えするためのインフラの理論化や方法論化を進めていきたいと考えています。
Author: Fumiya Akasaka (AIST)
注1:リビングラボの継続性(プロジェクト依存性)についての課題意識を提示している論文としては、例えば以下があります。
Hossain et al. (2019) A systematic review of living lab literature. Journal of Cleaner Production, 213, pp. 976-988.
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