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OLLD23 レポート01: Training Session

リビングラボ概念の体系的な理解

2023年9月20日(木)~23日(土)にバルセロナで開催されたOLLD23(Open Living Lab Days 2023)に参加してきました!

OLLDは、欧州を中心としたリビングラボ実践者/研究者コミュニティであるENoLL(European Networks of Living Labs)が年1回開催しているイベントです。研究者による研究発表もあれば、実践者によるワークショップセッションもあり、様々なテーマのセッションが同時並行で行われます。今回は、450名以上もの参加者がいたようで、とても熱気に満ち溢れていました。

3日間のイベントもとても楽しかったのですが、開催前日(9月19日)に「Day 0」という位置づけでリビングラボのTraining Sessionが開催され、それがとても素晴らしかったです。今回の記事では、Day 0の様子やそこで得られた学びについて書きたいと思います。

Day 0のTraining Sessionは、大きく分けると2部構成で行われました。第1部は、リビングラボの基礎について学ぶ“座学”セッション。第2部は、参加者が実践しているリビングラボを題材にプロジェクトのプランニングを行う“Hands on”セッションです。参加者は、全部で30名程度。スペイン、オランダ、オーストラリア、ベルギー、スイス、韓国、日本(赤坂の他には、東京都市大の坂倉先生と坂倉研博士課程の三木さん)などなど、様々な国の人が参加していました(図1)。

図1:Traning Sessionの参加者+ENoLLメンバ

前半の座学セッションでは、リビングラボの基礎に加えて、ステークホルダのマネジメントやサステナブルなリビングラボのつくり方などについて、ENoLLメンバからのレクチャがありました。

どのレクチャもとても興味深かったのですが、全体的に感銘を受けたのは、「リビングラボ概念についての体系的な理解・フレームワーク化」がかなり進んでいるという点。
ENoLLでは、リビングラボとは何か?という定義(注1)に加えて、リビングラボを構成する重要概念について、ディープなところまで含めた概念整理(体系化)がなされています。

例えば、リビングラボを推進するために必要な役割(専門性)にはどのようなものがあるか?という、Roles in Living Labsのフレームワーク。
ENoLLの整理では、

  • ラボ全体を見る「Living Lab Manager」

  • 市民(パネル)との窓口になる「Panel Manager」

  • 人間中心アプローチをまとめる「Human Interaction Specialist」

  • 実証実験・社会実験をまとめる「Pilot Manager」

  • ラボにおけるプロジェクトを統括する「Project Manager」

という5つの役割(専門家)が必要だということでした(図2)。

リビングラボの「プラットフォーム」全体をみる人(Living Lab Manager)と、ラボで行われる個別のプロジェクトをみる人(Project Manager)をきっちり分けていたり、市民との窓口(Panel Manager)の必要性を明示している点は、さすがです。

図2:Roles in Living Labs(レクチャ資料をもとに筆者作成)

その他にも、リビングラボを検討・議論する際の「視点」を、Macro、Meso、Microの3つのレイヤで区別する、3-layer Frameworkも興味深かったです(図3)。

図3:3-layer Framework(レクチャ資料をもとに筆者作成)

個人的には、海外のリビングラボ論文は、MesoやMicroレベルの話にフォーカスしていることが多い印象がありましたが、Macroレベル(=プラットフォームレベル)もちゃんと考えているんですね。素晴らしい。
こういう整理が大事だよな…とは思いつつも、ちゃんときれいに(フレームワーク的に)整理・言語化できていかなったので、いい学びになりました。

後半のHands onセッションでは、参加者が取り組んでいる事例をいくつか取り上げ、そのプロセスをプランニングするグループワークを行いました。ここで用いたのは、ENoLLメンバが開発した、Innovatirixというツール。論文としても公開されています(注2)。
ツール自体は、ターゲットとなるユーザやそのニーズ、それに対するValue Proposition(価値提案)、および、実験で検証すべき項目(KPI)をマトリックス方式で書き下すもので、言ってみれば、オーソドックスな手法です。

ただ、「Don’t lose track of your goals!(目標を見失わないように!)」が重要だという説明があり、かなり共感しました。リビングラボにおいては、プロジェクトを進めながら目標が変わることもあるし、色々なワークショップや社会実験を行っていると、いつの間にか、具体的な目標設計がないがしろにされてしまうことも多々あります。
何をめざしているのか、そのための評価指標は何か、ということを常に意識し、チームメンバ間で共有しておくことは、極めて重要です。(←当たり前に聞こえるかもしれませんが、大規模な共創プロジェクトだといつのまにか忘れてしまっていることがあります。)

そんなこんなで、OLLD23 Day 0、とてもいい学びになりました!

ENoLLのレクチャは、リビングラボを実践した経験があるからこそ共感できるトピックが多く、彼ら自身が、自分たちでリビングラボを実践して、試行錯誤しながら、様々なフレームワークを作っているというのが、よくわかりました。
ENoLLの研究者も、まだいろいろと模索中なのだと思います。でも、実践(試行錯誤)しながら、できる部分から概念整理をどんどん行っていき、それを次の実践に生かしていくという「態度(Attitude)」は、我々も大いに学ぶべきものだと感じました。

リビングラボは、非常に複雑で不確実なプロセスを含むので、その全てをフレームワーク化、方法論化できるとは、到底思っていません。でも、できる部分、重要な部分から概念的な整理や体系化していくことは非常に大事です。見通しがクリアになりますし、みんなで議論するための土台(足場)ができます。

LLLでも、ENoLLのアプローチを見習いながら、日本のリビングラボ実践者/研究者に役立つ知見やフレームワーク、共通言語を積極的につくっていかなきゃだな~と、改めて認識したのでした。

Author: Fumiya Akasaka (AIST)


注1:ENoLLにおけるリビングラボの定義は、以下です(Training Sessionで提示された定義。日本語は筆者訳)。
Living Labs are open innovation ecosystem in real-life environments based on a systematic user co-creation approach that integrates research and innovation activities in communities, placing citizens at the center of innovation. (リビングラボは、市民を中心に据え、コミュニティにおける研究活動とイノベーション活動を統合した、体系的なユーザ共創アプローチに基づく、実生活環境におけるオープン・イノベーション・エコシステムである。)

注2:Schuurman, D., Herregodts, A. L., Georges, A., & Rits, O. (2019). Innovation Management in Living Lab Projects: The Innovatrix Framework. Technology innovation management review, 9(3).


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