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父と奴のこと#1

父が余命1年の宣告を受けてからそろそろ1年。

表面上の変化はほぼなく、今までと変わらずただゆっくりと老いているだけのように見えます。

けれども私たちからは見えないところ、体の中では奴もゆっくりと育っているのだ。


最初におかしかったのは胆管でした。

そのころ胆嚢炎で二度ほど入院しており、二度目の退院後の診察のこと。
胆管がおかしいと。いやにボコボコしていると。

遺伝だとかこういうこともあると思うけどじゃあ念のため調べようか、とやってもらった検査で発覚したのでした。
早期すぎてどのステージなのかは分からないそうで教えてもらえませんでした。

さて手術。
胆管、胆嚢、肝臓や膵臓の一部(肝臓の切除する部分と接触している所)、などなどと危ういところ全て摘出することとなります。

朝みずから歩いて手術室に入り、HCU(ハイケアユニット、高度治療室)で再会するまで約12時間の大掛かりな手術。

術後、全身麻酔が抜け切るまではしばらく幻覚を見たのですとか。

病室のカーテンがスルスルスル〜と上がっていくのを「ああ、幻覚だ」と思いながら見ていたらしい。分かるものなのか。


徐々に食欲体力が戻りひとまず安心ですな、と一息つき始めた頃の検査にて突き落とされます。

まだ奴が居たのだ。
転移してなのか元々居たのかは分からないけれど、肝臓のなかに居たのだそうです。

そして余命を告げられた。

父はそれまで読み漁っていた医学書や専門書、メモを取っていた紙を全て片付けてしまった。


年齢はもう70近く。
以前より外出しなくなり、診察の帰りに母が食事に誘っても家がいいと言うらしい。

これはもう気付かなければ良かったのでは、と


いつかテレビで観た、余命3ヶ月と言われたおじいちゃんが結局16年生きたというお話。

これはどうにも極端なお話だけれど、もしも気付かなければこのおじいちゃんは残りの少なくとも10年間は病に怯えることなくもっとおだやかに過ごせたのではないかなあと思ってしまうのです。

何も知らず治療を施さなければ父はもしかして既に命を終えてしまっていたかもしれませんから、ひとことで言うことはできません。

もし気付いた時点でステージ4だったりしたらそれはそれでとても悔やむことでしょうしね。

けれど早期発見って良し悪しあるのではありませんかね。


癌ってすごいです。何者なんだろう。

いや何者なのかは分かるんだけど。
なんなんだろう。

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