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044. リビング・アトリエがはじまる


bonjour!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。

フランス生活ではアートがほんとうに身近な存在だった。無料で入れる美術館はたくさんあるし、そこかしこに個性豊かな小さなギャラリーがあって、散歩の道すがら覗いてまわるのが日々のちょっとした楽しみだった。そして、家に帰り着く頃には「何かを作りたい」という衝動に駆られるのだった。

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あの頃、どこへ行くにも紙とペンを持ち歩いて娘とよく絵を描いていた。
雑貨屋さんで買った小さなノートとなんの変哲もないボールペン。散歩がひと段落すると、今感じていること、発見したものなどをただ思いついたままに描き合うのが日課だった。

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子供はとくに2〜3歳の頃、ひたすら繰り返すことを好む。親として我が子の「もう一回、もう一回」祭りに付き合えるものを消去法で選択していった結果残ったのが、わたしの場合「描く」だった。思えば、あれはまだ言葉が十分ではない子供と会話する手段だったのかもしれない。

ある日、お散歩の帰り道にふと家の近くにある画材屋さんの前で足を止めた。いつもは雑貨屋さんで子供用のおもちゃの画材を買っていたけれど、何か物足りなくて、大人が使っていいものを買いたいと思っていたのだ。その画材屋さんにはずっと入りたいとは思っていたけれど、入ったら散財しそうなので距離を置いていた。でも、もしかしたら二度とないかもしれないフランス生活。ならば、と意を決して中へ入ってみることにしたのだった。

画材屋さんの中は、どこか懐かしい匂いがした。ちょっと埃っぽい空間の中に混じる絵の具の匂い。画家だった祖父の小さなアトリエとおんなじ匂いがする。小さな裸電球の下で何かを作る祖父の姿を脳裏に浮かべながら、棚に陳列された色とりどりの画材たちと睨めっこ。熟考した末、わたしは12色入りの水彩色鉛筆と画用紙と、絵の具を三本買って帰った。


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リビングに画材があって、リビングがものづくりの空間になっていくのが嬉して、嬉しくて、わたしは娘と絵を描く時間を「リビング・アトリエ」と名付けた。

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リビングという空間が、共に何かを生み出す空間になりますように。

そして、

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生きていくことそのものが、誰かと共に何かを生み出すものになりますように。そう願いを込めた。



生きていく場、暮らしの場、すべてがアトリエになりますように。いただいたサポートはアトリエ運営費として大事に活用させていただきます!