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149. すてる痛みを忘れないで

Bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日に更新のフランス滞在記をお届けします。

フランスのシンプルな生活によって人生観が変わり、帰国後引っ越しをきっかけに人生最大の断捨離に取り組んだ私たち。今号は、最後に残った大物の不用品たちをごみ焼却場へ持っていった時に感じた痛みについてのお話。


2020年5月某日。
捨てながら引っ越す。その名も「すてっこし」を合言葉に、ここまで家中の不用品を袋に詰めてゴミに出し、まだ使えそうなものは人に譲り、いよいよ最終段階。大型の不燃物をまとめてゴミ焼却場に持ち込むことになった。

近所の友人家族に協力してもらって、軽トラにどんどん物を詰め込んだ。さっぱりほとんど荷物がなくなった家の中と、駐車場に停った家具や寝具がぎゅうぎゅうと詰め込まれている軽トラ。まるで、初めてこの家に引っ越してきた時のことを巻き戻してみているかのようだった。

でも、あの時と違うのは、この家具たちは新しい空間に入れられることなく、お役目を終えてこの世を去るたびに出るということ。そう考えると火葬場に行くみたいで、身の引き締まるような切ないような、なんとも複雑な気持ちになった。

友人家族がその軽トラを運転してくれて、わたしたちは乗用車でその後をついていった。わたしが住んでいた界隈の道路は大型ダンプカーがたくさん通るせいか、どこもゴツゴツしていて、ゴミ焼却場に向かう道中、軽トラの荷台の家具が何度も何度もジャンプする。その姿を眺めながら走っていると、まるで今まで役目をひとつまたひとつとはらっている様にみえた。

程なくして、ゴム焼却場に到着。
エントランスで受付を済ませ、その後は、ここではガラス、ここでは毛布というように、列に並びベルトコンベアーに乗るように淡々と荷台の物を下ろしていった。ゴム焼却場には本当にたくさんのゴミこんもりと積まれていて、その山の奥には大型シャベルがバリバリ・・ガシャガシャとその形状を破壊していく。

このゴミたちが土に戻までには一体何年かかるのだろうか・・。

そんなことを考えているうちに、気がつくとまたエントランスの前に戻ってきていた。そこには大きな焼却炉があった。最後に荷台に残った燃えるゴミをその中に運び入れると、焼却炉の中にはチリチリと小さな火がところどころ燃えていた。

「はい、これで終了です」

作業員の方に声をかけられ、焼却場を出たものの、胸の中に痛みとしこりのようなものがのこった。


お引越しの前に、お片づけの仕方を教えてくださった北林ちか子さんが最初に言っていた言葉を思い出した。

「捨てることの痛みを忘れないでね」

捨てるというのは、大きな決断だ。その時、痛みを覚えることがあるのはなぜだろう。もう大切にしてあげられないのに執着してしまうのが気持ち悪いのだろうか。その物をしっかりわたしのもとでまっとうさせてあげられなかったという罪悪感からだろうか。地球を汚しているという後ろめたさだろうか。

物を迎え入れるということは、いつかそのものとお別れをする日が来るということだ。普段は買い物の楽しさや満足感によって、そんなことは忘れてしまうけれど、覚えておきたい。

わたしが今手にとっているものは、いつか地球に帰っていくのだということを。

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