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さようなら、マホガニーの秋

さようなら、マホガニーの秋

五日目。

ね、何も変わらない。

そう彼女は言って笑った。そうなのかもしれない。しかし何かが変わったのではないかと疑いの眼で彼女を見てしまううちに、どこか違う気がしてくるのだ。彼女が熱をあげることはなくなったし、表情も少しばかり穏やかになったように感じる。私はあと何年彼女のそばにいられるのだろう。そう思いながら彼女を休養させるのであった。

終わり

さようなら、マホガニーの秋

さようなら、マホガニーの秋

四日目。

実を言うと、生きているということや死んでいるということの理解を私は正しくできているのか分からない。

彼女が言うにはバッテリーを交換しても記憶が無くなるわけでは無いし、今までと何ら変わらない、むしろ良い心持ちで仕事ができるようになるのだと言う。私はそれから彼女と特に意味のある言葉を何も交わさぬまま、彼女のバッテリーは交換された。

さようなら、マホガニーの秋

さようなら、マホガニーの秋

三日目。

なんにも変わらないみたいよ、交換しても。

彼女は唐突に話を初めて、自分の頭で考えたことの抜粋のみ言葉にする癖がある。そのせいで私の理解が追いつかないこともしばしばだ。

私には知性がなかった。彼女は違う。私は聞いた。

バッテリーにはなんの役目があるのか。

分からないけど、蓄積されていくの、疲れが。それが溜まると動けなくなる。バッテリーを交換すればもう少し長く生きられるかも。

さようなら、マホガニーの秋

さようなら、マホガニーの秋

二日目。

私は常日頃から彼女に英力を供給するのが仕事だった。この仕事も気がつけば長い期間になっていた。最初の頃はお互いほとんど口も聞かず、口を開いたかと思えばそれは十中八九仕事関連の話を意味していた。

楽しい?

初めて会話をしたのは彼女の方から。それも今と同じ秋が深まって渋みがではじめた頃だった。私は彼女と話をするまで自分というものを確認することもなかったし、そうする必要もなかったのだと思う

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さようなら、マホガニーの秋

さようなら、マホガニーの秋

一日目。

彼女からそのことを告げられたのは木の葉がほとんど落ちてしまった秋の終わりだった。

バッテリーを変えることになった。

いつもの調子で彼女はそう呟いた。まるで天気の話でもするかのように、他人事のような。えも言われぬ感情に私は襲われた。その時の私は正直に言って、バッテリーの交換が何を示すのか分かっていなかった。無論今でも理解しているわけではないが。

3日後ね。

タイムリミットは3日ら

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