数多の逡巡を乗り越えて、結局買ったわけ

#買ったわけ
というお題が公募されていたので、供養と言う名の書き直し参加です。
過去いち力を入れて書き、過去いちアクセス数の伸び悩んだこの記事に、少しでも光が当たってほしいとの親心で改編してみました、既読の方お許しください。
相当の加筆修正をしました。



写真に見えるベージュのワッフルトレーナー。
購入実物品です。
NARUさんという、このMADE IN JAPANのお高めのお洋服を手に入れたのは今月の初めだったかな。
2月で暖かくなってきていたし、そろそろ真冬の品物がSALE品として放出され始めた頃のことです。

このトレーナーもそんなSALE品のひとつでした。
どうしてかとても惹かれまして、こちらを手に入れるまで=買ったわけを少し落ち着いた頭で書いてみます。

さてその頃はうつも軽く、身体も自由に動いたし、自家用車もギリギリ安全に運転できたので、多少無理をしてでも買いに行けたわけです。
そもそも前日に本が目当てで、片道30分かかる大型書店に行った先での、この服との出会いでした。

この書店は広いだけあり、お高いセレクトショップも試し読みオーケーなオシャレCaffeも併設されており、それはそれは誘惑のうんと詰まった本の庭なのです。

セレクトショップの雑貨、と言ってもル・クルーゼのストウブ（いわゆる鍋ですよね？←）や野田琺瑯の容器、白雪ふきんにカメノコタワシまで幅広い品揃え。
SDGsを意識した、けれど庶民にはお値段的にも敷居の高いショップさんが、これでもかとガラスのディスプレイ越しにテンプテーション（誘惑）を振りまいています。
証明に照らされアロマの焚かれたいい感じの空間なのだもの。
タワシだって雑巾だってブリキのバケツだって素敵に見えます。

ぐるりと本屋を一周して冷やかしてから、ふと中央通路の雑貨山盛りコーナーに目が向きました。
あの敷居の高い隣接雑貨店のありとあらゆる前シーズン品が並べられ、それぞれ●●％オフと書かれた赤いシールがクラフト紙のタグに貼られて、各々買い主を待って積まれています。

ひときわ服コーナーにふんわり佇む、ベージュのワッフルトレーナーが目に付きました。
そもそも、このショップは入るだけで勇気がいる場所。更に店の内部に鎮座する服飾コーナーの品々にこんな近くでお目にかかれることなど、めったにありません。

私も女子のはしくれです。
触るだけならと、触ったのが運の尽き。
あまりの未体験ふわふわポコポコワッフル生地の感触に一目惚れしていました。
首元も詰んでいるし、１６５センチの私の腰をしっかりカバーしてくれる絶妙な長さとシルエット。
スリーブもふんわりと女子らしさ満点。
アラフォーが着てても痛くならないナチュラルなおしゃれさ。
おまけに今ハマってるカントリーなロングエプロンドレスに合うときたもんだ！

まあ、ここまで揃えば本気で欲しくなります。

SALEと表のワゴンにもデカデカと書いてあるし、私でも買えるくらいにはお値段は下ってお安いはず！

そう思ってクラフト紙のタグをひっくり返したら、なんと割引率10%の定価12,800円。
ちょっとその場で天を仰ぐ数字です。
割引利いても諭吉とのお別れ確定価格なのです。

ああ、ご縁はないな。
そういうものもあるさ………。

馬鹿真面目にアパレルっぽくたたみ直しながらもう一度ワッフルに触れて、ショートボブヘアの髪を後ろに引かれる思いで、その日はさようならをしてきました。

しがない在宅労働者。
一万超えの服なんて、最後に買ったのは友人の結婚式参列用のドレスくらいです。

住む世界、買う人の世界があまりにも違う。
さようなら、素敵なワッフルさん。
せめて良い人に買われてね……

楽しみに書店に来たのに、気分はすっかり自分の薄給さを嘆くお通夜モードです。
その日は結局すごすご帰りました。

諦め悪くそのトレーナーをメルカリや楽天で探すも在庫はヒットせず、おまけに人気らしくどこも売り切れ。これには頷きつつも、いっこうに何かを失ったように元気が出ません。

あぁ、そもそも一万円のお金は無いわけではないけど、洋服一枚に使う金額としてはどうなの。

これが最後まで私の頭に焼き付いて離れなかった砦でした。

翌朝から、二日酔い並みの未練の残り方を引きずっていたため、思い切って人生の先輩である母に相談してみました。

かくかくしかじかででしてね、と。

すると母は、
あらたまにはそういう運命感じた物にドーンと使っちゃいなさいよ。
あなた普段はお洋服殆どお金かけないじゃない、と。


え？！？！？！
なんか求めてたアドバイスと180゜違うの来た！

こ、これはもうゴーサインにしちゃおう…かな！

こうして昨晩から抱えるモゾモゾにソワソワしながら握る車のハンドルは、わずかばかり汗ばんでいました。
昨日と同じ道を書店まで走ります。

安全運転だけは心がけ、
心のアクセル全開で、とにかく車を前へ前へと運転していたのです。

昨日行った書店への道。
焦りは隠せません。
なにせ、
あれは在庫一点限り。

今から向かって果たして間に合うかな…
あれから誰かに、買われていはしないか……

ああ田舎道の信号待ちが恨めしい。

何しろ季節はまだ冬の盛りなのに、既に街は冬物セール目白押し。
誰もが赤い割引シールに目を配って、良いものが少しでも安く手に入るチャンスは転がってないかとアンテナを張っている気が勝手にします。

いたるところに売出しのワゴンはあれども、昨日のトレーナーは書店内の通路ど真ん中にここです！とばかりに置いてありました。
これは危ない。

私がその売出しの赤い紙に吸い寄せられ、
昨日ワゴンであの子を見つけたように、
もし誰かがこの瞬間にもあれを買ってしまっていたら…！

ライバルは今トレーナーを手に、レジに向かっているかもしれない！

居ても立っても居られない。
大人げなくもこんな普通スペクタクルに手汗が止まりません。
何なら足汗だって出てます。
ごめんよ靴下。

なぜ昨日行って見つけた時、買っておかなかったんだ！！
被告人答えなさい！

頭の中は、激しくも単純一辺倒の尋問が繰り返される裁判の渦中。

仕方がないじゃない。
あのワッフルニットは、セール品とはとても言えないお値段だったのだもの。

税込み¥12,800。
10%引かれた所で¥11,000は出る。
お高い絶対お高い！

誤解しないでいただきたいのですが、
普段メルカリや中古ショップで数百円でしか服を買わない当被告人（=筆者）に、
新品の、しかもお高いナチュラル系セレクトショップで売られている洋服の値段はカルチャーショック甚だしいにも程があります。

何故とどんなに繰り返されても、だってとってもお高かかった、の一点張りで乗り切らねばならない裁判です。

昨日と同じ30分とは思えないドライブを経て、
奇跡的に安全運転完了。
脳内裁判からそそくさと逃げてようやく書店到着。

昨日の今頃は、ここへ付けペンのインク瓶を買いに穏やかな気持ちで来ていたのに、
たった一枚のトレーナーが有るかどうかに、気持ちはただただ判決を待ち、冷や汗が止まりません。

目指す売り場までもどかしい入口を2つもくぐり、
雑貨店斜向かいのカフェのコーヒーの香りに一瞬安らいでから、目当てのセールコーナーへ到着しました。

ぎゅっとデニムトートの持ち手を握り締め目を向けると…

いた！！
あの子ーーーー！！！！

昨日私が手にとってから、ちょっぴり向きが変えられて品物を整えられた形跡はあれど、確かにそのまま。

まだ売れていなかった！
待っていてくれた！
やったぁ！

時刻は午後3時すぎ。
まだ夕方の帰宅時間でもないし、混む時間の前に来られたのが幸いしたのかもしれません。

ひと触れして運命を感じた素材感を再確認。
ふわふわ、綿の絶妙さと軽さ、ぽこぽこさらさら感。

うん、これだ！
これこれ！

私が昨年からずっと求めていた寛ぎのワッフルニットだ。
今日、連れて帰ろう！

目当ての、それもたった一点だけのものが、自分が訪れるまで売れずに残って待っている。
なんて表現したらいい幸せ感なんでしょう。
想像でしかないけれど、何人もの人がここを通り過ぎては色んな理由で買わなかった。
手に取ったり、身体に当ててみたり。
でも、これは今日私が買えるんだ…


心の嬉しさで、ちょっと足がフルフルしていました。
久しぶりに感じた種類の幸せに、大人はポーカーフェイスをしながら内心どきまぎと弱いものです。

そこからは赤ちゃんを抱き上げるようにトレーナーを抱え、セールワゴンから救い出しました。
ショップのレジへ向かう足取りは、一度も踏んだことのない赤絨毯みたいにふわふわしたイメージで、ちょっとおぼつかない。

胸に抱えて、一歩一歩。
今日は、この子と一緒にお家に帰れるのです。

他のワゴンのセール品たちにも、早く良い買い主さんが現れますように。
そう思いながらお店を後にしました。

かくして、ワッフルニットは晴れて我が家に連れ帰り、今更試着してみます。
おおおおおおぉ、なんてバッチリなシルエット！
私は165センチ中背中肉体型。
この太って見えない絶妙感！
さすがの縫製です。

さっそく部屋のクローゼットに入れて、新人として場所を宛てがいます。
古参の子達、みんな仲良くしてあげてね。

たったこれだけ。
されどこんな買い物は私には冒険そのもの。

清水の舞台、やっぱり高かった。

肝心の軍資金である現金をド忘れして、予定外にクレジットカードで購入したのは、
また別の冷や汗の話ですが。

書店からの帰り道、助手席にトレーナー入った袋を乗せて帰る30分の田舎道ドライブが、なんだか一番幸せでした。

みなさんのお買い物にも、幸あれ！！！！！