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変わりゆく未来 第4話

 だけど、私はこんな性格ではなかった。このからだになってから、なんか性格も変わってしまった気がする。あんな不良たちと立ち回りなんか絶対にしないし、仲良くなることもなかったはずだ。どうなっちゃっているんだろう。あんなに運動神経もよくなかったはずだし、ましてやケンカなんて。

 ブゥに連絡した。まあ、どうみても運動のできるタイプではないから、一緒にいたら間違いなくケガをしていただろう。山岸とその一味と仲良くなった話をしたら、かなりびっくりされた。そりゃそうだろうな。どうやってそんなことになったのか、しきりと聞いてくる。普通に話をしただけだということにしておいた。でも、なかなか信じてもらえない。まあ、そのうち信じてくれるだろう。

 こんなことがあって、だんだん私の周りの人脈が増えていった。学校ではいつの間にか一目置かれるようになってしまった。あの木村さんはとってもすごい人のようで、そんな人と仲良くなった私は、いつの間にか知らない人からも、友人のような振る舞いをされることになった。学校の帰りはいつも知らない人が待っている。見た目は不良に見えてしまうような人ばかりだ。で、年上の人もかなり多い。なんで、中学生の私が、高校生たちに友人扱いされるのだろうか?よくわからん。まあ、交友関係が広がるのは楽しかった。不良といっても根は良いヤツばかりで、単に見た目の問題だけだった。

 だが、学校の先生たちにはそうは映っていないようだった。武田が不良どもと毎日遊んでいるように見えているようだった。それも、一緒になってカツアゲとかケンカと明け暮れているウワサもあったようだった。でも、成績はそんなにひどいものではなく、学校内での行動も悪くない私には、分かってくれる先生もいた。

 しかし、生活指導の先生だけは、いっつも私をにらんでいた。
「武田、ちょっと来い!」
「はい。」
ついに来るときがきた。まあ、しっかり話をしないと、こういう先生にはわかってもらえないのだろう。
「おまえは学校の帰りに、不良といつも一緒だといううわさがあるが、実際のところどうなんだ。」
「不良じゃないですよ。いい友達です。」
「不良どもと一緒にカツアゲやったり、ケンカ三昧といううわさを聞くぞ。」
「うわさは私に嫉妬している人からのものでしょ?私たちはケンカもしないし、カツアゲなんかもしないですよ。」
「不良どもは必ず否定するものだ。」
「先生は、私がそうであってほしいのですか?」
「いや、そんなことはない。おまえを心配しているんだ。」
「じゃ、安心して下さい。何も問題ないですから。」
「これから高校受験もあるし、問題を起こしたら自分の将来が大変なことになるんだぞ。」
「分かってます。大丈夫ですよ。」
「だから、先生はおまえを心配しているんだぞ。」

 絶対、思い込みの強い先生だ。
「問題が起こってからでは遅いんだ。」
「先生は決めつけてませんか?外見は確かに不良っぽく見えますが、それは今までそうだったからで、私と付き合いだしてから彼らは悪さしてませんよ。根は本当にいい人たちです。」
「やっぱり、不良と付き合ってるんだ。」
どうしても、そう思いたいみたいだ。困ったものだ。
「どう言っても、先生は決めつけるんですね。」
「いや、そんなことはない。」

 しっかり、決めつけているくせに困ったものだ。
「先生はどうしてほしいんですか?」
どうやら、学校以外の連中とは付き合ってほしくないようだった。それも、見た目が不良にみえる人たちと。多少、やんちゃな恰好でもいいじゃないと思うのだ。でも、この先生にはそれが許せないようだ。困ったものだ。さて、どうしようか。

「担任の高木先生も呼んでもらっていいですか?」
「いや、それは。」
急に口ごもった。実は、高木先生にやり込められたことがあるのを知っている。
「こういう話は二人でするより、三人以上いた方がいい知恵もでるかと思いますし、呼んでいただけますか?」
しぶしぶ、高木先生を呼ぶことになった。
「おう、どうした?」
「生徒指導の先生から、私の交友関係について問題があるとのお話しを頂いているのですが、私自身、問題ないとの判断をお話ししているところです。」
この先生にはちゃんと話をしているので、しっかりわかってもらっている。
「おう、そういうことか。先生、こいつに関しては特に問題ないです。他校の生徒を公正させたりして評判いいんですよ。見た目はまだ、不良っぽく見えるかもしれませんが、ちゃんと武田がいい方向に導いているんで、助かっているんですよ。」
「そうなんですか。わかりました。」
ちょっと悔しそうな顔をしていたが、なんとかこれで終わらしてもらった。

「高木先生、ありがとうございます。」
「なんの、なんの。おまえはちゃんと話をしてきてくれるから、安心なんだ。」
やはり、こういうふうに分かってくれる人がいると、会社も学校もやりやすい。

 それからというもの、私に相談にくる人も増えてきた。先生や親などに言えない悩みを私に相談にくるのだ。私も一応大人なのだが、見た目は中2には変わりない。同じ目線で話ができるようになってきたので、相談しやすいようだ。「明るい悩み相談室」でも開室しようか。

 ある日、3年生の男子生徒がやってきた。人知れず、話をしたいとのことだったので、放課後、付き合った。彼からは明らかに悲壮感が漂っていた。これはやばいな。直観的にそう思った。

 とりあえず、話をするだけしてもらって、私は黙って聞いていた。彼には弟がいて、その弟がとってもよくできる弟だということ。家族は弟にしか興味がなく、自分のことはどうでもいいのだという。どんなに頑張っても認めてもらえない。いっそのこと死ぬしかないという。私には、たいしたことないじゃんと思ってしまう内容だが、本人は真剣だ。

「家族に認めてもらう必要がありますか?家族からの束縛がない分、自由に好きなことができるという考えもありますよ。」
まだ、中3だし、親に甘えたいのに、弟にぶんどられてしまって、淋しい気持ちはわかる。

「例えば、将来やりたいことがあるのであれば、家族からの束縛なしに自由にできますよね。家族が自分に期待を寄せると逆にしんどいものですよ。弟さんは、実はかなりしんどい状態で悩んでいるかもしれないですね。」
「そうかな。」
彼は私の言ったことを確かめるべく、家に帰っていった。

 翌日、彼からの情報では、思った通り、弟もかなり悩んでいたとのこと。彼の顔からはもう暗さはなかった。まあ、そんなもんだよな。自分の悩みがどの程度がわかったら、まあ、解決するもんだ。(人によるけど)

 そんなこんなで、いつの間にか日が経ち、私はそれなりの公立高校への進学がきまり、ユミは中2。相変わらず、やかましい。さて、私は今後どうすべきか、考えている。この世の中、なんでもしたいことができる。自分で起業したっていいわけだ。両親は、今、勉強できる時にしとけと言うに決まっている。でも、すでにある程度の知識はあるし、そんなに必死に勉強することもあるまい。ちょっと、資格オタクになってもいいかな?と思うこともある。それとも前の人生の時にやり始めていたマーケティングの勉強でもいいかなとも思う。まあ、この世の中、まだまだ学歴社会だから、高校卒業して、大学卒業するところまでは仕方ないかな。

 私はほんとに新しい人生を歩んでいる。

 だが、高2になってから、問題が起こった。私は今の人生を生きていくものだと思っていたのだが、新たな問題が起こったのだ。

 現国の授業で、私が先生からの問題に答えているときに、突然目の前が真っ白になった。瞬間、気を失ったのだ。だが、気が付いたときに、私は異変を感じた。私の周りに集まったクラスメートや先生は、私より遠いところにいる。私は今、窓側の真ん中辺の席に座っているのだ。でも、私がいたはずの席には、確かに私だった私が、意識を失って、みんなに「大丈夫か?」とか「聞こえるか?」とか言われている。

 私だった私は、ようやく意識を取り戻し、「大丈夫だ。」と言っている。だが、先生は念のため保健室へ行った方がいいと、隣の男子と一緒に教室から出て行った。

 私はそれをずっと見ていた。まただ。私は、私だった私とは違った人になっていたのだ。だが、意識が入れ替わった訳ではない。私だった私には誰も入っていない。あのままだと、そのうち亡くなってしまう。そう思った。前のパターンと同じなら、私だった彼は命を落とすことになるのだろう。

 私は今、誰になっているのだろうか?目からの景色は、今の私から見える自分の手は、明らかに線が細い。今度は・・・女子だ。私は女子になってしまったのだ。私の意識は、絶対に女性ではない。だが、この体は女性なのだ。

 彼女はクラスの中でも、あまり目立たない、大人しめの女子だ。私はこの危機をどのように乗り越えたらいいのだろうか?それより、この体の元の持ち主はどうなってしまったのだろうか?

 元の持ち主への心配と、新しい持ち主となる私の不安が、頭の中を駆け巡っていた。もう、彼女は現れてこないのだろう。いったい、どこに行ってしまったのか、わからない。元の私の体とともに消滅してしまうのだろうか?

 その時、付き添っていた男子が教室に飛び込んできた。
「武田が救急車で運ばれた。」
 クラスが騒然となった。やはり、あの時と同じだ。私の意識が違う体に入ったら、元の体は死んでしまうのだ。で、新しい体の意識はいなくなってしまう。たぶん、消滅してしまったのだろう。なんで、こんなことが起こるんだろう。私はこれから先も転々としていくのだろうか?その度に、誰かの意識が消滅してしまうのだろうか?

 今まで暮らしてきたあの家族の、悲しみが想像できる。あの優しかった母親、兄が大好きな妹、私と同級生だった父親。その家族が、突然、家族の一人を失うのだ。しばらく、立ち直れないだろう。あの家族のみんなの悲しみの面影が頭をよぎる。

 私はどうすればいいのだ。彼女だった体にいる私は、どうすればいいんだ?
「まだ、武田は死んだわけではない。病院での処置を待とう。みんな、彼が生還することを祈ってくれ。」
担任の先生はそう言って、みんなの不安を祈りの方向へ向けた。だが、私は、私になった彼女は、意識を失った。女子の中から悲鳴が上がった。
「丸山さんが倒れた。」

 私の意識も遠のいた。

 次に意識を取り戻した時は、保健室だった。
「丸山さん、大丈夫?」
そばに2人の女子がいた。ああ、この彼女と仲良かった2人だ。だが、本当の彼女はもういない。私になってしまったのだ。
「丸山さん、意識戻ってよかったね。」
「でも、武田くんは一体どうしたんだろうね?」

 私はこの彼女になって生きていくために、記憶喪失になるしかないと思った。でも、全部じゃない。
「あの、私、どうしちゃったのかな?」
「えっ?突然、気を失ったんだよ。」
「私、あなたたちといつから友達なの?」
「えっ?丸山さん、大丈夫?」
「先生、呼んでくる。」
もう一人の彼女が保健の先生を呼びにいった。

「私、どうしちゃったんだろう?思い出せない。」
「悪い冗談は、よしてよ。」
「本当にわからないのよ。」
「じゃ、私のことわかる?」
「斎藤さんでしょ?」
「そうよ、知ってるじゃない。」
「でも、私たち、いつから友達だったのかな?」
「何言ってるのよ?」
「私の家族はどんな家族なのかな?」

 私は本当に知らないことをそのまま、記憶喪失の内容にした。このほうが、本当のことだからあとで、ドジ踏むこともないだろう。
そこへ、先生が飛んできた。
「丸山さん、大丈夫なの?」
みんな、同じことを言う。
「先生、私、思い出せないの。自分の過去がわからない。」
「じゃ、分かることを教えてちょうだい。」
私は2人の友達の名前を答えた。クラスのみんなの名前もわかる。だが、自分の家や家族のこと、過去の出来事もわからない旨を告げた。

 その時、病院に搬送された武田くんの死の知らせが舞い込んできた。それを聞いた私は、なぜか意識を失った。

 次に気が付いたときは、保健室ではなく、病院にいた。私も武田くんのように、万が一のことがあっては大変だということで、救急搬送されたとのこと。当然、母親がそばにいた。が、私には初対面だ。
「美香ちゃん、大丈夫なの?先生を呼んでくるからね。」
先生がきて、目を見たり、血圧を見たりしたが、問題なさそうだとの判断だった。
「あなたは誰ですか?」
「美香ちゃん、おかあさんよ。わからない?」
「思い出せない。」
先生はいろんな質問をしたが、私が答えられるのは、この彼女と同じクラスになってからのことだけだ。

「クラスの方が亡くなって、ショックを受けられているみたいですね。一過性の記憶喪失でしょう。しばらく、様子をみて下さい。」
母親は心配そうな顔をして、私の顔をのぞきこんだ。とりあえず、私の言動は、「一過性の記憶喪失」ということで、変に思われずに済むようだ。

 彼女の家はどんな家なんだろうか?取りあえず、今日一日は病院にいることになったので、もう少しいろいろと考えられる時間をもらえた。
「美香ちゃん、一人で大丈夫だよね?」
「うん。」
「明日また、来るからそれまでゆっくりしててね。」
そういうと、母親はいそいそと帰っていった。なにかあるのだろうか?

 私は、私だった彼がどこに行ったのか確認したかった。今まで一緒に過ごしてきた家族はどうなったのだろうか?とても気がかりだった。病院の看護師さんに確認すると、彼の居場所がわかった。私になった彼女のスマホにさっきの友人たちの連絡先があった。私は電話して、お通夜のこと、告別式のことを聞いた。

 明日がお通夜で、明後日が告別式だそうだ。私も友人たちと一緒にお通夜にいくことにした。自分のからだのお通夜って、一緒に暮らした家族の様子は?とても気になった。

 翌日、午前中に母親が迎えにきたので、一緒に家に帰った。初めて帰った家は、公営住宅の2DKだった。どうやら、母子家庭のようだった。

「入院だなんて、お金かかるんだからね。」
家に着くと、母親は豹変した。
「お通夜だなんて、お金ないのに、ほんとにこの子は。いったい、いくらいるんだ?」
三千円というと、投げるように私に渡すと、仕事にいくとすぐに家をでた。

 この子はこんな家の子だったのか。子供は親を選べないんだよな。なんか、悲しい気分になった。

 その日の夕方、友人たちと待合せて、お通夜に行った。ほんのちょっと前まで一緒に住んでいた家族の目は、泣き腫れていた。

 せめて、入れ替わっていてくれたなら、こんなことにはならなかっただろうに。私も思わず、涙した。誰かが死ぬということは、こんなことなんだろうな。でも、私にもどうしようもない。家に帰ると、まだ母親は仕事から戻ってきていなかった。この母親はどんな人なんだろうか?取りあえず、家の掃除や食器などの片付けくらいはしておこうと思った。外見は女の子なんだから。

 遅い時間に母親は帰ってきた。酒臭かった。
「まだ、起きてんのかい?早く寝なさい。」
「おかあさん、私、家のこと、なにも記憶がないの。教えてほしいの。」
「そりゃ、好都合だ。何も知らないままでいればいいのよ。」
「そんなぁ!」
「早く寝ておしまい。」

 彼女は苦労してたんだな。さて、どうしたもんだろう。翌朝、朝食は?と聞くと、適当に冷蔵庫から好きなものを食べなと言われ、お昼はというと300円を投げられた。

 家をでると、友人の斎藤さんが待っていた。
「おはよう。どう?調子は?」
「よくわからいの。私がどんな生活をしていたのか。」
「いつもおかあさんのこと、言ってたよね。」
「どんなこと?」
「すぐに暴力をふるうし、食事代も少ししかくれないとか。」

 そうなんだ。この母親と人間関係を良くしていくにはどうすればいいのだろう?それより、女の子として過ごすなんて、いったいどうしたらいいんだろ?あまりにわからないことだらけだ。ただ、友人の斎藤さんは結構面倒見の良い人で、いろんなことを教えてくれる。それが救いだった。

 でも、私は男なのだ。意識はすべて男だ。外見が女の子だから、それに合わせて過ごしている。今回は、非常に困難極まりない。女の子というだけで、意識が男の私には、耐えられない。本当に慣れることができるんだろうか?

 私一人だったら、絶対に無理だったろうけど、斎藤さんがいてくれるおかげで、いろんな疑問が解決していった。彼女の家に行って、女の子同士でないとできない話を聞いた。化粧の仕方も教えてもらった。男の私には、全然興味がわかない。でも、女である以上、これなやらなければいけないこととして、義務的にやることにした。髪の毛も短くカットしたかったが、そういうわけにいかず、意に反してロングにして結わえることにした。

 どんな服がかわいいのかさっぱりわからず、斎藤さんに言われるままに着ることにした。
問題は母親だ。いったいどこでどんな仕事をしているんだろうか?私はあとをつけてみることにした。母親は、大衆食堂で働いていた。で、そこの仕事が終わると、近くの居酒屋で一杯やるのが日課だった。

 自分はそういう生活を楽しんでいるので、私は邪魔な存在なんだろう。性格は温和な人ではなく、いらちな方だった。多少の暴力も平気みたいで、私がしつこく質問すると叩かれた。どうやら、家の家事は私の役割のようで、やっていないと叩かれる。
「誰のおかげで大きくなったんだ?」とか、
「誰のおかげで食事ができてるんだ?」とか、よく言われる。

 この体の彼女は、この母親のことをどういうふうに思っていたのだろう?斎藤さんにそのことを聞くと、それまでの私は、まったく母親を嫌っているわけではなさそうだった。そりゃそうだろうな、母一人、子一人だもんな。近しい親戚もいないみたいだ。でも、初めの人生で一人で暮らしていた私は、この家から出て、一人でも平気だ。さて、どうしたもんだろう。

(つづく)

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