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よし、ボートだ!第10話
いよいよトシユキくんだ。
彼は既に何度か登場しているが、ほんとうに不思議な青年だ。僕が知る限りこういう雰囲気のニンゲンは彼ひとりしかいない。
出会いは、もちろん競艇場だが客同士というわけではなかった。
彼は予想紙を売る売店の店員で20代半ばぐらいだったと思う。案外いいところをつく予想紙で、当時の僕は随分とお世話になった記憶がある。
ある日、帰りがけ不意に肩を叩かれた、トシユキくんだった。
「
よし、ボートだ!第6話
馴れない社長業は「社長」を苦しめた。「こんなんやけどまぁナイーフな、あ、ナイーブ?」
かなりストレスを溜めたようで、いわゆる10円ハゲがいくつもできた。胃も壊した、初めて医者の世話にもなった。
そんなわけで会社の舵取りは古参の番頭にまかせ、自分は客先を訪問するいわゆる「トップ営業」に返り咲いた。
「やっぱり、気分がちゃうねぇ」と太っ腹な約束を重ね、現場担当にはかなりの負担をかけていたそうだ。
そ
よし、ボートだ!第5話
黒のサテン地のシャツはエジプトの神様も頬を赤らめそうな派手な縦基調のプリント。時計もバックルも金ピカだ。
黒黒とした頭髪は強い香りの整髪料で固められ、大ぶりの黒縁メガネには薄い紫色のレンズが入っている。
クロコだかオストだかのクラッチバッグに、よく磨き込まれた黒革のウィングチップ、ノッシノッシと近づいてくる。
「社長」だ。
どう見てもスジ違いの方にしか見えない。できることなら関わりたくないと皆
よし、ボートだ!第4話
彼は、ヨッちゃんと呼ばれていた。
名前だか名字だか、とにかくヨッちゃんはいつもニコニコしていた。いつも腰に汚い手拭いを下げていた。
幾つぐらいだったのか・・多分50〜70代、いるでしょ、そばに、そういう年齢不詳な人。
ヨッちゃんは小柄だ、160cmは無かったと思う。尋常ではない日焼けで真っ黒な顔の上には、あの、なんだ、市場の競りで被っているキャップ、前に数字が書かれた札がついた、それのような青
よし、ボートだ!第3話
その年も終わろうとしていた。
考えてもみたら、マキオさんと再会して僅か一年しか経っていなかった。
驚愕した。
あまりにも濃厚で強烈な毎日が続いていたので、何年も経っているような錯覺を覚えていた。
僕たちのホームは、3場。あと車でなければ厳しい2場も、開催次第ではよく詰めた。
この5場を知り尽くしていたとは言えないし、各支部に所属する選手を完璧に熟知していたわけでもない。とにかく情報をかき集め、
よし、ボートだ!第2話
初めての競艇は、いろいろ教えられながらよくわからないまま、勝った、いや勝たせてもらった。
しばらくは休みも合わず、開催も合わずで競艇場に行くことはなかった。
何度目かの誘いに休みが合った。
今度の場は、大都会の真ん中にある。メッカとも呼ばれるそこは、異様な熱気の中にあった。
「今日は大きい賞金が掛かったシリーズの準優だ。」
?
「明日の優勝戦に乗る6人が決まるんだ。分かるか?ほぼ全ての開催は
よし、ボートだ!第1話
まずはマキオさんの事から。
マキオさんは、簡単に言えば大学の2学年先輩だ。同じ寮に約1年間住んだ。僕が19歳、マキオさんは一浪だったので22歳の年だった。
僕は経済学部、彼は工学部だったが、入寮間もなく仲良くなった。馬が合うという仲だったと記憶している。
マキオさんはとにかく麻雀が強かった。残念だなぁ、学業については全く記憶がないよ。学生相手なら4人打ちでもサンマでもまず負けることは無かった。