見出し画像

評論風フィクション「学校教育史 近未来編」(4)新自由主義が生んだ究極のシナリオ 放課後の改革


4 放課後の改革

(1)小学校

「放課後児童クラブ」から「わたしたちの居場所」へ

改革以前から全国に設置されていた「放課後児童クラブ」は、基本的に各自治体の学習支援センターに属する社会教育課が運営していたが、この度の改革によって教育委員会が「学習支援センター」と発展的解消されたことにより、児童福祉課など福祉を専門とする課へ管轄が変更となった。
名称も親しみやすい「わたしたちの居場所」(以下「居場所」)に変更されクラブの運営は各市町の福祉関係の課が請け負うこととされた。
もちろん、福祉課が民間に委託することも可能であり、その場合の運営責任は民間企業となる。
実際、自治体や国が補助金制度を設けたこともあって、ほとんどの「居場所」は福祉課から委託された一般企業が運営している。この補助金制度も学校を公設民営化し、人件費を大幅に削減したことによって実現した。
また、この補助金により、旧放課後児童クラブに比べて保護者の経済的負担は約10分の1程度に軽減されている。
「居場所」を運営する企業と学校を運営する企業が異なる場合は、原則として学校の敷地内の施設を使用することができない。これは、責任の所在を明確にするためである。

活動の内容については、公私を問わず経営者の手に委ねられている。全国で最も多いパターンは、「居場所」内をいくつかのコースに分けるシステムである。
すなわち、とにかく児童の好きなことをやらせる「完全自由コース」、総合学習的な要素を重視する「総合コース」、学力の向上を図る「学習コース」などである。
全国的に実施された調査によれば、学校経営企業と同一の企業が運営しているケースが全体の7割を占めている。
また、コースの選択状況をみると、低学年の時には「完全自由コース」を選択し、旧学年制度でいう4年生くらいの年齢にたっすると「総合コース」や「学習コース」に変更するパターンが多い。
地域差はあるものの全体としては最終的に「総合コース」を選択するのは4割程度であり、最後まで「完全自由コース」を継続するのは2割程度、他はすべて「学習コース」を最終的に選択している。
つまり、「学習コース」を選択する者が4割程度存在する。
これは、現時点における中央教育センター(旧文部科学省)の最も大きな課題である。
なぜなら、この4割の中には、いまだ「学歴神話」を信じて旧来の「学力」に固執する者が多く含まれている可能性があるからである。
「学習コース」は、あくまでも午前中授業で十分に成果が得られなかった子どもの支援を行うために設けられたものであり、難関大学入学のためのコースであるべきではない。
中央教育センターの本来の目的であるグローバル社会の維持・推進に貢献できる人材の育成に向けて、再度国民に趣旨の周知を徹底していく必要があるだろう。
ただ、この問題は現行の大学入試制度にも影響を受けている。一部の大学(いわゆる難関大学がその大半を占める)が、旧来の知識・技能を重視した入試から完全に抜け出せていない現状を打開する方策が待たれるところである

(2)中学校

中学校の改革で最も大きな成果を挙げたのは、部活動の学校からの切り離しであろう。
部活動の外部委託実施率は、昨年度末で98%を越えた。
改革当初、2025年を目途に全国で実施する予定であったことを考えれば、かなり時間がかかったものの、ようやく実現された。

これによって、学校は部活動に対する一切の責任から解放された(部活動そのものがないのだから当然であるが)。
全国的な調査によれば、地域のスポーツクラブの指導者は、現状では地域住民と元教諭がおよそ半々の割合だという。
公設民営化によって教諭資格を失った「元教諭」の生活を保障するためにスポーツクラブの指導者には給与が与えられている。
これは、クラブチームの運営が参入企業によって効率的に行われるようになった成果の一つである。
最近では、公式戦で企業のロゴが入ったユニフォームを着てプレーする中高生の姿にも違和感がなくなった。

(3)インストラクターの業務

ここから先は

1,118字

現代の学校教育にはさまざまな課題が、長い間解決されないままになっています。今すぐにでも本気で改革を進めなければ、この作品にあるような学校が…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?