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生は災厄、死は救い、お前の姉貴は深爪過ぎる

四月二六日

十時起床。鼓月プレミアム千寿せんべい一枚、三幸製菓チーズアーモンド五枚、インスタントドリップコーヒー。鼻炎はなんとかおさまってくれました。ベートーヴェンのstring qualtets全集を聴きながら本稿着手。ハリー・ベラフォンテが亡くなったようだ。
さっきひさしぶりにツイッターを開いて町山智浩を読んでいた。本が売れないのは日本だけではない、これは世界的傾向で、しかもそれは経済のせいじゃない、全世界的に人は本を読まなくなっているのであり、電子書籍も売れず、もちろん漫画も売れない、映画もアニメしか入らない、日常で字を書く機会もほとんどなくなったと、だいたいそんなことをつぶやいていた。
私も、本を読まない人間たちがどんどん増えていることはしきりと実感する。ひび図書館にいてさえそれを実感する。すわって本を読んでいる二十代三十代なんてまず見かけないから。紙の上の文字(インク)を長く見続けているなんてもはや「変人の趣味」なんだろうな。「刺激に乏し過ぎる」のだろうな。彼彼女らもSNS上の布切れもしくは試食コーナーみたいな文は読んでいるんだろうけど。僕がふだん付き合っている人間のなかにも本好きはいない。「最近なんかいい本見付けた?」なんて挨拶を一度はしてみたいよ。こと読書に関しては類は友を呼ばないらしい。読書人(booklover)は今後ますます孤独になりそう。長い時間いっしょに話したり議論したいと思うような人間がほとんどいないもの。こういう読む快楽を知らない人たちがやがて親になったり政治家になったり企業経営者になったりするのか。いまいじょうに「俗薄」な社会になりそう。まあそれでもいいや。

げて物しか美しいと思わない人は仕合せです。同時に、完全に均斉のとれたもの、――たとえば清朝の文化の如き、又は左右相等しい一対の花瓶といった様な物だけを愛する人も同じ様に幸福な人達です。
不幸になりたくないなら、そのどちらかにきめることです。多くの神をもつことは、必ずその眷属達にせめさいなまれるでありましょうから。また美神は時に彼女自身悪魔のかたちをとらないともかぎらないのですから。

白洲正子『たしなみについて』(河出書房新社)

堀田善衞『橋上幻像』(集英社)を読む。
辺見庸がどこかで本書の一節を引用していたように覚えている。むかしの日本軍と、ナチスによるユダヤ人虐殺、ヴェトナム戦線から脱走したアメリカ兵。人間にとって地獄とは「いまここ」である、ということを執拗に思い出させる作品だが、「いまここ」が地獄であることをつねにすでに知っている(つもりの)僕としてはとちゅうじゃっかんウンザリしてしまった。「歴史なんか糞食らえだ」と思った。なぜだろうか。堀田の設定したY字状の橋の真ん中に立つことを私が巧妙に拒否しているから、かも知れない。「だっておれ、飢えたすえに人を食ったことなんて無いもん、大量虐殺にちょくせつ加担したこともないもん」ということ。そんなのカンケーねえ、そんなのカンケーねえ、と。
「屍ってのは、つまり物でもなければ人間でもない、要するに始末に負えないものなわけだ。ウサン臭いものなわけだ」(第一章「彼らのあいだの屍」)。歴史の屍(忌まわしき過去)もまたウサン臭いのであり、始末に負えないのであり、それゆえ<それ>はずっと放っておかれるのであり、だからいずれ<それ>に「復讐」される事態になっても、<それ>そのものにはついに目を向けることは出来ない。「もしあの時代に生まれていたら自分も」という地獄的想定に身を晒し続けること。そのどん詰まりの不愉快さに決着をつけようとしないこと。「歴史認識」なんてものとはぜんぜん次元を別にした《歴史嫌悪》を死ぬまで実存の根柢に淀ませること。生きてそこ(底)にあるという《恥》を噛み締め続けること。「おれは憎む、おれは憎む、これら一切合財を(Ihate,Ihate all this…… )」(第三章「名を削る青年」)という呪いの声を内にこだまさせ続けること。絶望の素振りを伴わない絶望だけが「信頼」に値する。

「あたしは、知っているつもりなのです。人間が、どんなに高貴な、そしてどんなに獣類のようなことをするか。けれども、あの時の、少女時代のことを思い出すと、あれがいまのあたしと同じものだとは、とても思えない。だから、まったく違った二つの人生が、まるで接ぎ木でもするかのように、あたしのからだに、接がれているという思いにとらわれ、あたしのどこがいったい、その接ぎ目なのか、などと思うと、本当に・・・・・・、自分自身の人生ながら、本当に、あてどのない気持(pointless)になります」

第三章「それが鳥類だとすれば」

これほど暗鬱でやりきれない気持ちなのは、私がいまだに生き続けているからだろう。このままだとまた首を吊りたくなるので昼飯食います。そいでBibliothekでジジェクの続き読みます。

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