いつものごとく異次元閑話、気怠い時はぽつぽつと、くだらぬことなど書けばいい、
二月十七日
おはよう。起きたのは十一時半。珈琲淹れて、個包装ではないから早く食べしてしまわねばならない昨日のメープルクッキーをかじりながら着手。だいたいこのごろはいつも深夜二時半ごろまでは読んでいるのだけど、昨日はいまいち捗らず眠くなるのもやや早かったから、横になるのもやや早かった。石川淳『普賢』の朦朧的冗長的文体のせいかも知れない。というかそもそも寒かったせいかもしれない。きょう天気次第では古書店でものぞきに行くつもりでいたが、これ以上この部屋に積んだ本が林立するのは好ましくないのと、出費を控えたほうが良いのと、ただたんに外出が億劫だという事由によって、行くのは止すほうこうに意が決まりつつある。天気はさして悪くないみたいだ。「みたいだ」と断定を回避せざるを得ないのは、窓側に三階建てマンションが立ちはだかっていて、太陽の加減や雲の様子が遠望できないからである。
ネット検索で例によって「天気これから」と調べると、降水確率が四〇パーセントと教えてくれたけど、毎回思うのだ、この四〇パーセントというのはずるくないか、六〇パーセントもそうだ、降っても降らなくても予想サイドはじゅうぶん「言い逃れ」できるじゃないか(たぶんこれと同じような言を吐いたことの人は他にもいるだろうな。私はそんな凡庸なone of themに過ぎない)。まあいいや。向こうはそれなりに客観的な算出基準を設けているんだから。気象庁の発表する降水確率とは、「予報区内で一定の時間内に降水量にして1mm以上の雨または雪の降る確率(%)の平均値」のこと(気象庁HP)。だから確率の数字の高さと、雨の量やあるいは雨の降る時間の長さは関係がない。降水確率九〇パーセントすなわち土砂降りあるいはほぼずっと雨、といった頭の悪い単純思考は今すぐ捨てないと。
降水確率の発表は一九八〇年の東京地方が最初で、全国各地でなされるようになったのはその二年後からだと、いま知った。意外と最近のことだ。戦前とかだと思っていた。雨の話をしていると八代亜紀の「雨の慕情」が聴きたくなってきたのでいまユーチューブで流しながらこれを書いています。イントロダクションの哀切調が森昌子の「哀しみ本線日本海」と重なるなと思って調べてみると、どちらも作曲は浜圭介。しかも世に出された年も近い。やはり作り主が同じだと色合いが似て来る。ちなみに「肴はあぶったイカでいい」の「舟唄」の作曲も浜圭介だ。作詞は阿久悠。それにしてもこの阿久悠という人もまた一筋縄では行かない人ですわ。あれだけ世に流行歌を溢れさせておきながら「はやりの歌などなくていい」とか詞に書くんだから。
佐藤優/手嶋龍一『公安調査庁(情報コミュニティの新たな地殻変動)』(中央公論新社)を読む。いつ寝てるんだというくらいのハイペースで本を出しまくっている佐藤優と、外交ジャーナリスト手嶋龍一の対談本。公安調査庁は法務省の外局として設置されている国の行政機関。対外的な英語名はPublic Security Intelligence Agency。主として「破壊活動防止法」に規定されている<危ない団体>などを調査している。一般に知られていないがけっこう優秀なインテリジェンス・オフィサーがいるみたいだ。インテリジェンス機関はその任務の性格上、事が順調に運んでいるときほど外からはその動きが窺いにくくなる。何かを秘密裏に探り大事が起るのを未然に防ぐ、ということを主要なミッションとしている以上、そうなるのが当然なのだ。逆にいうとやたらその存在が目立ってばかりいる情報機関は、その段階ですでに「無能」をさらけ出しているということになる。
二〇〇一年の金正男身柄拘束、北大生のイスラム国志願騒動など、専門家間ではすでに語り尽くされているような話も素人としては興味深い。公安調査庁の組織構成や複雑な沿革はさておき、「インテリジェンス評論家」としても活動している佐藤がその能力を高く評価しているのは意外だった。私などは漠然と、公安警察と同じようなものとして認識していた。つまり、共産主義的暴力革命が起こる危険をいまだに前提としている旧態依然たる組織、というイメージ。
逮捕権(強権の典型)を持たないがゆえに対人諜報(ヒューミント)の能力を養う必要があるのだ、という視点はよく分かる。つべこべいうなら逮捕するぞ、とすぐに鼻息を荒くするような人間に繊細な情報収集・分析など出来るはずがない。
特別司法警察職員という言葉も本書ではじめて知った(まったくもって不勉強が身に染みる)。警察官以外のなかで、ある専門分野における犯罪捜査を行える権限を特別に付与された人々のことだ。海上保安官や皇宮護衛官、労働基準監督官、麻薬取締官、自衛隊警務官、森林官などがそれに該当する。
HUMINT以外のインテリジェンス手段としてはほかに、合法的に入手可能な資料を丹念に突き合わせたりするOSINT(Open Source Intelligence)、通信を傍受し分析するSIGINT(Signal Intelligence)、偵察衛星などから得た画像をもとにするIMINT(Imagery Intelligence)などがある。
さいごに恥を忍びつつ告白しよう。MI6(エムアイシックス)と通称されてる外務省管轄の情報機関がイギリスにあるが、私はこれをながらくM16だと勘違いしていた。言い訳めくが<M16自動小銃>という有名な武器がある(異名はブラックライフル)。ちなみにMI6の正式名称はSecret Intelligence Service(SIS)。とんだ赤っ恥をかく前に間違いを教えてくれたこの本には感謝しかありません。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?