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酒は悪友、晩酌は週三度まで、倫理的な滅亡などありうるか、反体制的ウスボンヤリズム、

四月二三日

われわれは物を書くとき、理解されようと思うだけでなく、理解されたくないと思うのも確かである。誰かが理解できないといったとしても、それは何ら書物に対する抗議にはならない。そのことこそ、まさしく著者の意図の内に含まれていたかもしれない。――彼は「どこの誰にでも」理解されることを望まなかった。あらゆる高貴な精神と趣味は、自らを伝えようとするとき、その聴き手をも選ぶ。聴き手を選ぶことによって、同時に「その他大勢」に対して垣根を設けるのだ。

F・ニーチェ『喜ばしき知恵』「第五書 われら恐れを知らぬ者」(村井則夫・訳 河出書房新社)〔原文傍点→太字〕

午前十一時四七分。濃い目の緑茶、燻製うずらたまご、ソイジョイ的な栄養調整菓子。眠りが浅い気がする。「浅い眠り」という曲が中島みゆきにあった。眠りが浅いだけはなく、寝違いのせいでやや首が痛い。日本人の約四割は慢性的な不眠に悩んでいる、とかよく聞く。まいにち熟睡できることはやはり才能なんだ。ことによるとこのごろの早朝覚醒は酒のせいかも。晩酌は週末くらいにしたほうがいいか。いま決めよう。晩酌は週三回までとする。これは戒律と思え。酒を飲むにしても日々の学問と著述に差し障りがあってはならない。アルコールは悪友だから付き合い方によっては破滅しかねない(作詞家・阿久悠のこの筆名は悪友に由来している)。「絶望死」なんてのはあまり美しい死に方ではないし知的な死に方でもない。隣の爺さんを見ていると「思想なき人間」の末路を見ている気分になる(「偏見」であっても構わない)。どんなに空っぽで稚拙なものであっても、やはり人間には「思想」が必要なのよ。きょうはいつもより余計に真面目であります。俺が野暮を嫌うのは根が真面目過ぎるからだ。これだけははっきりしている。真面目な人間というのは往々にして隙あらば「人生の意味」だとか「大義」だとか「責務」だとかを語りたがるので厄介千万。俺も「無暴力主義」なんてものを標榜し、自分が投げ込まれているこの「残酷宇宙」と日夜格闘しているつもりでいる。なんて滑稽。でもこういう理想がなければ俺は一日だって正気で生きられない。昨深夜、ネギと豚の小間切れ肉を買って炒めて食った。味付けは塩とニンニクと「いしる」(能登の魚醤)。ネギを買い物袋からはみ出させながら歩いている自分に少し酔ってしまった。最近の俺の自己愛は、「ちゃんと料理してる俺」を周囲に誇示したくてたまらない。そのうちクックパッドにでもレシピを投稿しかねない。この方向性のない承認欲求をどうにかしてくれ。エルビス・プレスリーの「サスピシャス・マインド」がむしょうに聴きたくなったのでいまユーチューブで再生している。プレスリーは俺の青春(あるいは黒春)のBGMの一つだった。晩酌中に彼のグレイテスト・ヒッツなんかを流しているとときどき涙が出てくる。彼は「成功者」であるにもかかわらず少しも幸せそうではなかった。ひどい「薬漬け」でぶくぶく肥った晩年はもちろん、若いぴちぴちの頃の映像を見ても、どこか翳がある。それが彼の魅力でもあった。

『選択』(四月号)を読む。
水原一平事件で明るみに出たスポーツ賭博、ポピュリズムでしかないガソリン補助金、極右化する「世界」、日本製鉄の前に立ちはだかる数々のハードルなど、今月号も良質の記事が目白押し。大いに満足。水田稲作は代表的な温室効果ガスでもあるメタンガスを多く排出させる、ということを今月号ではじめて知った。ちょっと恥ずかしい。いちおう俺は大学では環境化学科というところにいたのだけど。不勉強が身に染みる。ただこういうふうにも言える。各方面のメディアにわりと接触してる俺がいままでこのことを知らなかったのは、日本の「環境問題」報道にも原因があるのではないか。「日本といえば水田」(それを「原風景」と呼ぶ人もいる)であり、その水田が地球環境を悪化させているという「不都合な真実」を多くの日本人は直視できなかったのではないか。もちろんこれは、「水稲がダメなら陸稲にしましょう」なんて単純な提案で片付くことでもない。「地球温暖化」にはついてはもうすでに様々な証拠があり、これを否定し去るためには相当に強力な反証が必要だろう。私の「地球環境問題」に対しての倫理的観点についてはいずれ詳述しなければならない。そこでは、この宇宙において「感覚能力のある生物」が生じたことなどをどのように「解釈」するか、という問題も大いに関係してくる。たとえば、「地球環境がこのままめちゃくちゃになって人間が滅びてもいいじゃん、それの何が悪いの?」といったごく通俗的な破滅志向的言説があるとして(事実ある)、それはいったいどのような価値基準によって「肯定」することが出来るのか。研究課題は尽きない。図書館行きが一時間後に迫っている。昼飯食う。ネギと缶詰の牡蠣をいっしょに炒めて食う。人生いろいろクズもいろいろ。

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